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2004年11月28日

内藤さんのピアノを聴く

内藤晃(P)
「第7回 珠玉のピアノコンサート」
Web上の知人、内藤さんが奈良で演奏会をなさるというので、お伺いした。
最初に知り合った頃はまだ中学2年生でいらっしゃったが、例えばジュリアス・カッチェンが大好きとか、音楽に関しては既に成熟した趣味を持っておられた。…というより、中2と聞いて驚愕、とても信じられなかった、というのが正直なところ。
彼のピアノは以前オフ会か何かで聴かせてもらったことがあるが、とてもきれいな音と素直で美しい音楽が印象に残っている。
それから数年、指揮にも手を染めて小林研一郎氏のセミナーを受講された、公開の場でピアノをされた等、活躍の御様子は伺っていたところ。
首都圏中心に活動しておられるので、なかなか最近の演奏を聴く機会に恵まれなかったのだが、今回、奈良のコンサートに出演されるというので、このチャンス逃すべからずと参上した。
 
今日の会場は、奈良市音声(おんじょう)館という施設。
興福寺界隈の観光地の南側、「ならまち」と通称される、古い街並みを残す地区の中に、目立たずに(景観を損なわないように)建っている。
「歌声による人づくり、街づくりを目指して」設立されたということで、コンサート会場というより、児童合唱団の練習場や、地元の生涯学習施設として機能しているようだ。
ホールといっても収容人員90、学校の教室程度の広さ。固定席ではなくフロアに椅子を並べる式、ステージの高さも15cm程度か。
問題はピアノで、ベビー・グランドというのか、鍵盤の幅と本体の奥行きがあまり変わらない、悪い喩えだが盥のような代物。
それでも手入れが行き届いておればともかく、妙な付帯音が聴こえたり、ppが出にくそうだったり、かなり状態の悪い楽器のようだった。これは非常に残念。
 
今日の曲目は、
モーツアルト;ピアノソナタ第11番「トルコ行進曲」 イ長調 K.331
ショパン;ワルツ 嬰ハ短調 op.64-2
ショパン;夜想曲 ホ長調 op.62-2
ショパン;舟歌 嬰ヘ長調 op.60
シューマン;幻想曲 ハ長調 op.17
というもの。
恥ずかしながら、モーツァルト以外はほとんど聴いたことがない。ショパンのワルツも聴き覚えがある、という程度。
 
まず、そのモーツァルトが素晴らしかった。
第1楽章の主題に付けられた、そこはかとないリタルダンドから立ち上る哀切な味わい!
続く6つの変奏は、演奏者がプログラムに執筆した「色とりどりの花のよう」という言葉そのもの、まさに花園を逍遙する趣。豊麗な色彩感を放った第1・2変奏に続いて短調に転じた第3変奏での寂寥感の深かったこと!
第3楽章の中間部を、吹き抜ける疾風のように駆け抜けた表現も素晴らしい。
 
唯一引っかかったのは、第1楽章の変奏でも折節にリタルダンドが用いられ、少し煩わしい感じを受けたこと。主題部分では新鮮だったのだが…。
 
馴染みのないショパンの各曲について云々することはできないが、弾き手の感興が率直に伝わって来ていることは確信できた。
 
シューマン作品は、演奏者の最愛の作品の一つとのこと。
これも初めて聴く曲だけにあれこれとは言いづらいが、第2楽章の沸き立つ喜びには胸が熱くなる思いがした。
帰宅してから音盤棚を引っかき回して見つけたイヴ・ナット盤(EMI)からは、そこまでの高まりが感じられなかったことを付言したい。
 
アンコールは十八番エルガー;愛の挨拶
これも、どこに出しても恥ずかしくない見事な演奏。
 
彼が着実に大きく成長しつつあることを実感できた演奏会だった。今後どのような道を歩んでいくのか非常に楽しみである。
 
なお光と風と夢にも、当日の感想が掲載されているので、ぜひ御参照を。

投稿者 seikaisei : 2004年11月28日 21:48

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