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2004年12月08日

クリストフ・ブーリエのリサイタル

昨日は大阪でジャン・ギアン・ケラスが無伴奏リサイタルを開いたはずなのだが、このところ本業が忙しく、とても行く余裕がなかった。
今日はたまたまエアポケットが生じたので、職場近くのホールアルティへ出かけることができた。
クリストフ・ブーリエ(Vn) 阿部裕之(P) ほか
「フランスからの響き……」
ブーリエの名は、ルクー;VnソナタのCDがあるので知っていたが、来日は今回が初めてとのこと。
1965年生れ(そんなに若い人とは知らなかった)、パリ音楽院出身で、1984年のロン・ティボー国際コンクールでグランプリを得た。
現在はソリスト、室内管の指導者、教職等、多方面で活動中とのこと。公式Webpageがある。
 
今日の曲目は
タルティーニ;悪魔のトリル
サン・サーンス;アンダルシア奇想曲
ラヴェル;Vnソナタ
パガニーニ;「こんなに胸騒ぎが」による変奏曲
ハチャトゥリアン;組曲「ガイーヌ」(レジ・ブーリエによる2VnとP編曲)
というもの。
ハチャトゥリアンでは台湾出身・京都在住の何信宜(Vn)が共演。
この人が今回のブーリエの来日をアレンジしたらしく、彼女は休憩後にイザイ;無伴奏Vnソナタ第5番を独奏した。
 
ブーリエは、タルティーニの冒頭を弾いただけで、音が自然に淡愁の色を帯びる、優れた弦楽奏者であることを示した。
いくぶん音量が小さめかもしれないが。
こういう古典曲は、あまりごてごてと表現されても困るもので、ほとんど音色で勝負することになる。その点では文句のない、耳の御馳走。
…と思っていたら、カデンツァは左手のピツィカートを駆使する技巧的なもの。誰の作かは知らないが、ちょっと首を傾げる。
 
サン・サーンス作品は、もう一つ魅力に乏しい。曲自体の問題もあるが、奏者も速いパッセージで音がうわずる傾向があり、高音の音程も斉諧生の好みから外れる感じ。
 
メカニカルな面での完璧さや何でもバリバリ弾いてしまう強さには欠けるところのある人かもしれないが、伸びやかに歌う場面では、ひたすら美しい音に魅了される。
フランス系奏者で音が詰まりがちになるG線(いちばん低い弦)でも、隣のD線と同じ音色が美しく響くのである。
したがってラヴェルが非常な美演となり、今宵のハイライト。
第2楽章での主題の歌い方など、ちょっと崩し気味のリズムやポルタメントの掛け方が何とも小粋。
無窮動の第3楽章ではピアノとの駆け引きも愉しい。阿部も冴えた音楽を聴かせた。
 
休憩後のパガニーニでは堂に入った「芸」を聴かせてもらった感じ。
アクロバティックなフレーズでは鮮やかに、歌うところでは美音をたっぷり小節(こぶし)を利かせて。
 
実兄の編曲によるハチャトゥリアン、民族的な旋律をゆったり歌わせ、「レスギンカ」「剣の舞」ではアクションたっぷりの熱演(弓の毛を何本も切っていた)。
ただ、あまり手の込んだ編曲ではなく、Vnを2本使うことの意味もわかりにくかった。
とはいえ客席は大沸き、アンコールは「ガイーヌ」の6曲から。
最初に「レスギンカ」、続いて「剣の舞」、それでも拍手が止まずにもう1曲を繰り出してようやく終演。
 
共演の何信宜さんはよく弾ける人で、イザイも手堅くこなしていたが、何か足りない。
音そのものの魅力、音楽から放射してくる輝き、曲の隅々まで確信が行き渡っている説得力、そういったものがまだ備わっていないように感じた。

投稿者 seikaisei : 2004年12月08日 23:28

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