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2005年04月10日

宇野功芳の「すごすぎる」世界

4月1日の記事に書いた人事異動の影響で、いくら時間があっても足りない状況ではあるのだが、これだけは聴きに行かずばなるまい。
宇野功芳(指揮) 大阪フィル
「宇野功芳の "すごすぎる" 世界」
会場はザ・シンフォニー・ホール。
超満員とはいかないが、ほとんど満席に近い状態。
司会者が「新幹線で来た人~」と呼びかけるとワラワラと拍手が起こり、さすがにと頷かされた。
何といっても宇野師が8年ぶりでプロのオーケストラを指揮する機会なのである。
また大阪では5年前にアンサンブルSAKURAを指揮して以来、もちろん大阪フィルとは初めての顔合わせ。
客席を眺めた感じでは、いかにもコアなマニアという人よりも、長年クラシックを聴き宇野師の評論も目にしてきたという雰囲気の年配の方が多かった。
とはいえ若いカップルや子ども連れも散見され、多少心配に…(笑)。
 
入口で渡されたプログラムを開けて吃驚、
客演コンサートミストレス 佐藤慶子
とのこと。
佐藤さんは、かつて宇野師が10回にわたって開いた「オーケストラ・リサイタル」で、今は亡き新星日響のコンサートミストレスを務めていた奏者。
おそらく大フィル側のローテーションの問題ではなく、指揮者の要望で招かれたものと推測される。
それでなくてもハラハラする宇野師の指揮で、客演するオーケストラを率いなければならないのだから、御辛苦は想像に余りある。
 
さて、今日の曲目は
モーツアルト;歌劇「フィガロの結婚」序曲
同;交響曲第40番
ベートーヴェン;交響曲第5番
というもの。
お得意の曲目ではあるが、斉諧生としては今ひとつ期待しかねるプログラム。過去の実演ではあまり感心したことがない。
むしろワーグナーブルックナーの方が聴きたいのだが、まあ仕方ないだろう。
 
なお、オーケストラの編成は、弦がモーツァルトでは14-12-9-8-6、ベートーヴェンでは16-14-12-10-8、管は2管編成でHrnのみ4人だったか。
 
さて、「フィガロ」序曲が始まって驚いた。
あまり遅くない!
もちろん通常のテンポよりは遅いのだが、かつてのお化けでも出そうな物々しい遅さではなく、まず音楽がもたれない程度で収まっている。
とはいえ弦の細かい音型がくっきりしないのは、やはりオーケストラが不慣れなせいか。
もっとも75小節からの全合奏での和音や101小節からのFgソロの部分で大減速するのはいつもどおり。
コーダ直前の弱奏でも減速、ここは夕暮れの雰囲気が醸し出され、なかなか佳かった。
コーダも意外に速く、クレンペラー盤でくっきり聴こえる木管の下降音型がはっきりしなかったが、終結では案の定ティンパニが最強打、胸のすく思い。
司会者が言うには、リハーサル初日に「『春の祭典』のように叩いてください!」という指示があったそうな(笑)。
 
1曲目のあと司会者が出てきて、ひとくさりやりとりがあったのだがそれは↓にまとめることとして、交響曲第40番
例によって主題3小節目の上行音型にポルタメント、ただしディミヌエンド付きなので、あまり煩わしくない。
すこし音楽がすっきりしたのかなと思ったが、10小節目からの経過句では相変わらずの大減速。
これ以降、「ロマンティック」(指揮者談)どころか、めまぐるしくくらいの加速・減速で、音楽の流れに乗ることができなかった。
211小節の頭に、ワルターばりのルフトパウゼを入れるのもいつもどおり。
もっともかなり「タメ」が入ってしまい、あまりスマートなパウゼにならなかったが。
 
続く第2楽章は、遅めのテンポで始まった冒頭、Va→第2Vn→第1Vnと受け渡される動機にディミヌエンドが付され、非常にはかなげな響きがして、これは気に入った。
17小節でFlが入ってからはテンポが上がり、普通の音楽になってしまって残念。
53小節(展開部)冒頭は陰の濃いpからクレッシェンドし、地の底から湧き上がってくるようなデモーニッシュな感じがして、さすがと思わされた。
 
どうなるかと思った後半2楽章は、硬いリズムに終始したメヌエット、普通の速さでほぼ押し通した終楽章と、見るべきものがなかった。
終楽章の展開部冒頭もあっさり通り過ぎたのにはガッカリ。
 
さてメインのベートーヴェン
いつも問題になる第1楽章冒頭の主題は、完全にコンサートミストレスのタイミングで入っている。フェルマータはもちろん長目。
もっとも主部に入ると結構早めのテンポでサクサク進んでゆく…と思いきや、やはり第2主題は遅く粘る。
提示部の繰り返しあり。
展開部に入ってCbのピツィカートの強調や196小節からの減速など、なかなか面白い。
再現部でのObソロ、かなり遅いテンポで吹いているわりには無表情。
指揮者は棒を下ろしているのだが、奏者の自発性は無さそうな感じ。
(そうそう、宇野師は久しぶりに指揮棒を使っていたのである。)
コーダではやはりティンパニが「春の祭典」ばりに大活躍、479小節・481小節のフェルマータを思いっきり伸ばして締めくくり。
 
低弦の素晴らしい響きで始まった第2楽章は、モーツァルト同様、全曲の白眉か。
39小節以下で弱音と遅いテンポで粘ったのも聴き応えあり、105小節以下では弦を抑えて木管の煌めきを聴かせた。
 
これもモーツァルト同様、第3楽章はあっさり目に通過。
移行部ではかなり粘った上、最後は更にリタルダンドしてティンパニを最強打させた…のだが、肝心のフィナーレ冒頭が腰砕け気味。
26小節以下、ホルンが幅の広い英雄的な主題(推移主題)を吹き流すところ、ティンパニの刻みで強拍にアクセントを付けさせたのは効果的だった。
こちらは提示部を繰り返さず。
展開部113小節以下でトロンボーンの動機を強調したのは、他にも例はあるが、面白し。
コーダではやはりティンパニが最強打、最終小節では後半のトレモロで音量を上げさせたのには思わず笑ってしまった。
カーテンコールでも単独で起立させたのはティンパニのみ。
 
アンコールは十八番「ハイドンのセレナード」
これは絶品。第1Vnは、おそらくコンサートミストレスが絞ったのだろうと思うが、見事に美しい弱音を聴かせてくれた。
妙に思い入れがないのが却って幸いして、実にすっきりした表情。
もちろんポルタメントは付いているのだが。
かつて新星日響でも聴いているが、もしかしたら最上の出来栄えではないかと思う。
 
以上、やや分析的な書き方になってしまったので、全体的な印象を書いておきたい。
テンポの動きが激しく、音楽の流れを分断してしまっている。
思い入れ(思いつき?)のあるところで部分的に減速して粘るのは良いとしても、そのあとすぐ巡航速度に復帰してしまうので、とってつけたような変動になってしまう。
遅くするならするで、指揮者もオーケストラも、それだけのエネルギーを投じてほしいのだが、どうも「お約束」にしか聞こえない。
 
指揮者の動作を見ていても、かつてのような没入ぶりを感じさせたのはベートーヴェンの第1楽章後半くらい。
あとは淡々とした振りで、テンポだけを操作する印象を受ける。宇野師が賞揚する「命を賭けた遊び」の境地にはほど遠い感じだ。
 
『レコード芸術』での筆鋒同様、宇野師の音楽も鈍ってしまったのだろうか。
今一度、生の火花を散らすような、本当の「凄すぎる世界」を聴かせていただきたいと切に願う。
なお、補助マイクも多数立っており、司会者もライヴCDの発売が予定されていると述べていたことを付け加えておく。
司会者と宇野師の会話及び「生演奏で聴き比べ」の顛末は以下の如し。
 
(1曲目と2曲目の間)
「3日前に大阪入り、朝比奈隆氏の墓参をして、助けてくださるように祈った。」
「モーツァルトとブルックナーでは、今はモーツァルトの方が好きである。理由は『チャーミング』。」
「いちばんロマンティックな曲として、第40番を選んだ。」
 
聴き比べは、40番第1楽章の冒頭約40小節を「普通のテンポ、スタイル」で演奏し、あとは本番。
 
(休憩後)
「ベートーヴェンで一番やりがいがあるのは『第九』」
 
第9番スケルツォの第2主題で、原典版・ワーグナー版(Hrnが主題を補強)・ワインガルトナー版(Trpが主題に加わる)の3種を聴き比べ。
 
「『第九』4楽章の最後は大爆発。それに対して1~3楽章の終結は疑問形だと考えている。」
 
第9番第1楽章の終結、約35小節程度を、普通のスタイルと「宇野版」で聴き比べ。

投稿者 seikaisei : 2005年04月10日 22:17

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