シベリウス;交響曲第6番

 ステーンハンマルに献呈された曲だが、祝典的な第5番と、深い深い第7番に挟まれて、人気の薄い曲である。全集録音は多いが、単独で録音したり演奏会で取り上げる指揮者は非常に少ない。
 
 強い自己主張があるわけではなく、言うならば「背景だけ描いた絵」のような趣があるためであろうが、斉諧生としてはシベリウスの作品の中で最も愛するものである。
 
 その清冽さ、北欧の澄んだ空気と自然を思わせる響き、この音楽にいつまでも浸っていたい…と願わずにはいられない。
 
 なお、この曲に傾倒して作曲家を志したという吉松隆は、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」との不思議な類似を指摘する。1楽章のリズムは列車の律動、2楽章は渡り鳥の歌。(詳しくは→ここを押して)
Berlin Classics 31432 ベルリン放送響
録音;1970年頃 0031432BC (Berlin Classics)
第1楽章 第2楽章 第3楽章 第4楽章
9分14秒 5分46秒 3分58秒 10分42秒
ベリルンドの最初の録音だが、架蔵のLP・CDには日時等のデータが明記されていない。
 
ドイツのオーケストラらしく、第1楽章冒頭の弦合奏など、ズシリと厚い響き。それにあわせて少し粘り気のある運びになっている。
 
これまたドイツの団体の特質か、リズムがガッチリしていて、合奏の縦の和音はしっかりしているのだが、横の線の絡みの表出に物足りなさが残る。
 
第2楽章終結近く、弦が十六分音符で刻み続けるところなど、ベッタリした感じになってしまった。この部分では木管楽器もリズムが重く、北欧の森の上を飛ぶ鳥の歌のような雰囲気には欠けている。
 
全体にシベリウスの音楽としては四角四面の感なきにしもあらず、飛翔感に乏しいのが物足りない。
採るとすれば、弦合奏の厚い質感か。
 
第1楽章の終わり近くで低弦がトレモロでざわめく部分の森厳さや第4楽章冒頭・終結における主題の美しさは特記しておきたい。
 
なお、CD復刻に際し、音がやや硬くなっている。
Disky HR703862 ボーンマス響
録音;1973年11月、ロンドン HR 703862 (Disky)
第1楽章 第2楽章 第3楽章 第4楽章
9分33秒 6分25秒 4分04秒 11分31秒
LP時代にバルビローリ盤とともに親しんだ演奏である。
 
ベルリン放送響盤とはかなり違った表現になっている。3年ほどでは、そう大きく指揮者が変わるとも思えないので、これはイギリスのオーケストラになってベリルンドの思い通りの音楽ができるようになった…ということか。
 
第1楽章冒頭のコラールからして、清澄な響きで、横の線が明確に表出されるようになった。
 
第11小節から第26小節まで(Obが出る少し前のところまで)、息長く音を弱めていくところが面白い。途中のアクセントを強調する指揮者もいるが、ベリルンドはつとめて目立たぬように、弱めに弾かせている。
 
ティンパニやホルンがこだまして音楽が高揚していく部分、ここで管弦楽の響きが濁ってしまう指揮者も少なくないが、ベリルンドは大丈夫である。
 
ついでHpがリズムを刻みだし、FlとObが歌い始めるが、木管の響きも好ましい。Obには少し弱さも感じるが、これはイギリスの団体の通弊か。
 
楽章終結に向けて(練習番号Jの後半)、テンポが落ちるのに驚いた。練習番号K以下のテンポを導くためであろうが、これはやや不自然である。つづくHrnの重奏の響きは美しいけれども、楽章を結ぶ金管の響きが薄いのは残念。
 
第2楽章第3楽章は、上述のObの問題を除けば、間然するところのない出来栄え。
 
第4楽章、主題と応答が一くさりあったあと、Timpの弱奏に導かれて低弦がmfで出す一音の響きが美しいこと! こういうところがシベリウスの醍醐味である
この部分は下記の両盤でも美しい。
 
この楽章の演奏も優れた出来で、コーダでの弦の主題の清らかさと、消えゆくような終結は、ほんとうに美しい。
 
唯一、最も高揚する部分(練習番号IからJにかけて)での追い込みから切迫感が生まれているのには、やや違和感があった。
東芝EMI、CE33-5126 ヘルシンキ・フィル
録音;1986年5月、ヘルシンキ CE33-5126 (EMI、国内盤)
第1楽章 第2楽章 第3楽章 第4楽章
8分13秒 5分31秒 3分55秒 11分11秒
弦合奏の響きは、ボーンマス響に比べて、透明感と硬質さを増しており、これこそシベリウスの響き!と嬉しくなってしまう。
 
第1楽章中程、Cbのピツィカート一発に導かれてバス・クラリネットとVcが主題を出すところ(練習番号F)、寂びのきいた渋いVcの音色には陶然となる。
上記ボーンマス響盤で不自然さを感じた減速も見られず、終結での金管の響きも決然たるもの。
 
第2楽章もボーンマス響盤を超える出来と思われる。Obの音色については、その野趣を愛でるか、もう少し繊細な音が欲しいと感じるか、好みが分かれるかもしれない。
楽章の結びで、Hpの和音をアルペジオで処理しているのが耳を惹く。これは美しい。
 
第3楽章では、Vnの鋭い切れ込みやFlの強めの吹奏をはじめ、全体にオーケストラの厚みを前面に出した演奏になっている。
 
第4楽章も素晴らしい。ボーンマス響盤で違和感を覚えた部分(練習番号IからJにかけて)では堂々たる運びで、大自然の雄々しさを表現しているかのようである。
終結部分で「エスプレッシーヴォ」と指定されている弦合奏の優しいこと! 胸にグッと来るものがある。
FINLANDIA、0630-14951-2 ヨーロッパ室内管
録音;1995年9月、ロンドン 0630-14951-2
(FINLANDIA)
第1楽章 第2楽章 第3楽章 第4楽章
7分54秒 6分09秒 4分10秒 10分04秒
ヘルシンキ・フィル盤でベリルンドのシベリウスは完成かと思っていたら、新録音に着手、しかもフィンランド以外の団体だというので驚いたものだ。
三度目の全集は、室内オーケストラで演奏した点に特徴がある。このCDのブックレットには楽員名簿が掲載されていないのだが、おそらく第1Vnが10人〜Cbが4人程度の編成だろうと推測される。
 
そのため、弦合奏は更に薄く、更にテクスチュアが明確化した。各奏者の音程が良いことや、名技師トニー・フォークナーの手による録音とも相まって、最も透明感の高い演奏になっているといっていいだろう。
 
Flの音色の清澄さも、上述の3つの演奏を凌いでいる。Obには相変わらず満足できないが…。
 
編成が小さくなったことで管楽器と弦楽合奏のバランスが良くなった。例えば、第1楽章中程でバス・クラリネットとVcが出す主題(練習番号F)の音量が揃っているのは、そのメリットだろう。
楽章終結での金管は明るい硬質の音色で強く決めていて胸がすく。
 
第2楽章でも、透明感と、更にそれを越えて寂寥感が漂うのには心うたれる。
弦が十六分音符で走り続ける楽章後半の繊細さは他で聴くことができないものだ。それに並ぶとClの音色は大味のそしりを免れないかもしれない。
 
第3楽章では、弦の刻みが克明に響いて、完璧に近い出来栄え。なぜかHpが聞こえにくく、音色が効果を挙げていないのが惜しまれる。
 
第4楽章冒頭、Vn群に応答するVa・Vc・Cb合奏の音色が素晴らしい。編成の小ささと音程の正確さの賜物だろう。Timpのくっきりした打撃やHrnの思い切ったクレッシェンドも素晴らしい効果を見せている。
ただ、終結での弦合奏は柔らかすぎて「エスプレッシーヴォ」の意味を失ってはいないか。響きの薄さがわざわいしたように思える。
総括すれば、やはり全集盤は3種とも優れた出来で、特にヘルシンキ・フィル盤とヨーロッパ室内管盤は、それぞれに素晴らしく、甲乙つけがたい。
 
あえて順序をつけるならば、好みの問題になるが、斉諧生としてはヘルシンキ・フィル盤を推す。しっかりした響きに身を委ねられる安心感がある。
…という端から、ヨーロッパ室内管盤の透明感、清冽さも捨てがたいと思える。(苦笑) 一部の木管楽器に不調・鈍さがなければ、こちらを挙げたかもしれない。

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