ガラグリのお薦め盤


(1) シベリウス;交響曲第1番
BerlinClassics盤ジャケット  とにかく騙されたと思って、聴いていただきたい。
 
 第1楽章冒頭のクラリネットを聴いただけで、「お、これは…!」と感じられることと思う。静謐な世界に浮かぶ北欧の憂愁を、見事に音化しているではないか!
 アレグロに入ると、刻みの第2ヴァイオリンの音色が、とてもドイツのオーケストラ(ドレスデン・フィル)とは思えない、明るく硬質なものであることに驚くのも束の間、飛び込んでくる第1ヴァイオリンのエネルギー!
 ガラグリの音楽には、勢いがある。縦の線をぴしりと揃え、フレージングはきりりと締め、強拍やアクセント、スフォルツァンドをすっぱり決めるところから、見事なドライヴ感が生まれるのだろう。
 発止と決まるピツィカート、壮絶に盛り上がるクライマックス、とりわけコーダの迫力は凄まじいものがある。ストレッタで追い込んでいって、猛然たる金管の咆哮の中、楽章終結のピツィカートはまさしく命がけだ。
(Berlin Classics 3033-2)
  出身こそハンガリーだが、若い頃から北欧で活躍したからだろう、シベリウス独特の流動するようなリズム、音を引っ張っておいて三連符で閉じる節回し、「ズバッ」と打ち込まれる金管のモティーフの扱いにも間然とするところはない。
 ドイツのオーケストラがシベリウスを演奏するときに往々陥る、ドイツ音楽の語法に拘泥した鈍重さは、まったく見られないのだ。
   第1楽章だけで、彼のシベリウスの素晴らしさは聴き取ってもらえると思うが、第2楽章以降も同様。絶好調の剛速球投手がビシビシと投げ込んで完全試合を達成する趣がある。
   しかしながら、いわゆる「爆演」系指揮者ではない。
 そこかしこに煌めくハープやフルートの清澄さ、旋律を歌うところの豊かなカンタービレ。元来ヴァイオリニストで、弦楽四重奏も長く活動を続けていたからか、弦楽合奏のふっくらした美しさは特筆したい。
   細かいことを書いているときりがないが、一点あげるならば、終楽章の終結直前で弦合奏が低弦からクレッシェンドしていくところ。駆け出さずに、 "breit(幅広く)" の指定を生かしてじっくり弾かせ、ちゃんとモティーフを示していくあたりは、誠に名匠の手業であろう。
   少々残念なのは、Berlin Classics の常でCD化が少々雑、高音がキンキン響きがちなこと(トーン・コントロールで補正すべきか)。どこか、オリジナルのマスターテープから丁寧に復刻してくれないものか。
 斉諧生とガラグリとの出会いが、この曲だった。中古盤屋の店頭で、古い国内盤LP(1番と7番のカプリング)を見つけ、ドイツ人のような名前の指揮者とドイツのオーケストラの組合せに首を捻りつつ、ライナーノートで菅野浩和氏が褒めているのを読んで、試聴してみた。
 第1楽章冒頭の、クラリネットのひんやりした、重い音色を聴いた瞬間、これは!と思い、レジへ持っていった。僅か900円だった。
(2) シベリウス;交響曲第2番
BerlinClassics盤ジャケット  第2番も、第1番同様の名演。オーケストラはライプツィヒ・ゲヴァントハウス管に代わっている。弦合奏とホルンは更に美しいが、オーボエの音色がシベリウスの音楽には鈍いのと、低弦の迫力を欠く(録音上の問題?)のが玉に瑕。
 
 シベリウスでは交響曲第7番交響詩「タピオラ」の録音もあるが、ちょっと体温が高すぎる感じで、後期シベリウスの森厳とした世界を望むことはできない。初期の交響詩(「エン・サガ」あたり)や交響曲第3番が残っていたら、どんなに素晴らしかったことか…!
(Berlin Classics 30962)
 ガラグリによる北欧音楽では、ヨェーテボリ響とのラングストレム;「悲歌的なディヴェルティメント」ストックホルム・フィルを指揮したルーセンベリ;「弦楽合奏のための協奏曲」があり、充実した響きを聴かせる。あまり一般的な曲目ではないが…。
 ニルセン;交響曲第2番「四つの気質」・小組曲(ティヴォリ響、VOX)も、CD化を期待したいところだ。
(3) ヨハン・シュトラウス作品集
徳間盤ジャケット  シュターツカペレ・ドレスデンの演奏で聴くウィンナ・ワルツも一興。
 演奏も暖かく、美しい
 シベリウスの剛直さとはうって変わって、何ともチャーミングだ。
(収録曲)
ワルツ『南国のバラ』
『エジプト行進曲』
『トリッチ・トラッチ・ポルカ』
ワルツ『朝刊』
『常動曲』
序曲『ウィーン気質』
ポルカ『クラップフェンの森で』
『皇帝円舞曲』
ポルカ『狩猟』
(徳間 TKCC-30409)  
 Berlin Classics からCD化されている他の曲では、コダーイ;組曲「ハーリ・ヤーノシュ」ショスタコーヴィチ;組曲「ムチェンスク郡のマクベス夫人」がある。立派な演奏ではあるが、真面目一方で、どうしてもお薦めしたいというものではない。
 なお、CAPRICEレーベルに「往年のスウェーデンの名弦楽四重奏団」(CAP21506)という組物があり、ガラグリ四重奏団の演奏でステーンハンマル;弦楽四重奏曲第5番(これは佳曲!)ほかを聴くことができる。

ガラグリ小伝を見る

ガラグリ・ディスコグラフィを見る

 

逸匠列伝へ戻る

指揮列伝へ戻る

 

トップページへ戻る

 

斉諧生へ御意見・御感想をお寄せください。