音盤狂日録


11月29日(月): 

 この間のコンサートについて演奏会出没表にデータを追加、電網四方八通路に新規のページを掲載。


11月28日(日): 今日は、長谷川陽子さん後援会ひまわりの関西広場(ネット的に言えば、「オフ」ですね)に出席。
 斉諧生は昨年・一昨年に続いて3度目の参加である。

 プログラム最初のミニ・コンサートでは、なんとバッハ;無伴奏Vc組曲第6番という重い曲を演奏していただいた。
 会の性格からして、軽く明るい曲想の第1番を予想していただけに、吃驚した。音楽には妥協しない長谷川さんらしい。
 もちろん見事な演奏で、昨日の曲目でないこともあり、来会者には好評。
 狭いサロンということで、ホールとは音の出し方がまったく異なり、非常に美しい音色。CDの音に近い。
 アンコールでは、昨日に引き続き、出席者のリクエストに応じられた。

第1番より「プレリュード」
第5番より「サラバンド」
これは斉諧生のリクエスト。
曲名を申し上げたとたん、チェロに詳しい方々が苦笑され、長谷川さんは
「また一番いやな曲を…」ニッコリされた。
ちょっと重い楽章なのである。
 
11月20日の項に書いたように、全曲演奏の際、この曲は、終始、弓を軽く使った、やや淡い音色で奏でられた。
昨日の神戸学院大学でも、ほぼ同様であったが、全曲の流れの中ではなく、単独で演奏したとき、いったいどのように表現されるのか、非常に興味があったのである。
果たせるかな、ずいぶん違った演奏になった。
音色の淡さはそのままだが、白い風が吹き抜けるようだった全曲演奏時と異なり、心からじっくりと歌い上げた、感動的な音楽
しっかり「返り討ち」にあってしまった感じである。
第3番より「ジーグ」
第6番より「プレリュード」
「6番からお好きな楽章を」というリクエストに、一番長くて大変な「プレリュード」を選ばれた。
第3番より「ブーレ」
これは長谷川さんが「最後に私の一番好きな曲を」と。
長谷川さんと斉諧生
長谷川さんと斉諧生

 そのあとの会員によるチェロ合奏の時間では、小さなお嬢ちゃん(小学校低学年かな?)が、バッハ;無伴奏Vc組曲第1番「プレリュード」を、多少つっかえながらも、ちゃんと、ちょっとした表情も付けながら、みごとに弾き通されたのに、吃驚してしまった。
 「とにかく、この曲が弾きたくて弾きたくてしょうがない」のだそうな。こういう気持ち、本当に貴重ですね。
 
 あとは、立食パーティーと懇談。
 来年のコンサートの予定なども話に出て、楽しい時間となった。
 
 毎年そうなのだが、相手の目をまっすぐ見てお話しになる御様子、誠実な受け答え等々、長谷川さんのお人柄に、感銘を新たにした。これは今日の50名近い参加者が、一様に感じていたことと思う。
 なお、後援会「ひまわり」の公式ページもどうぞ。できれば、あなたも御入会ください。<(_ _)>

 朝方、海外からの荷物が2つ届く。1つは通販だが、もう1つは少し特殊なもの。
 また、帰りがけに買い物。ちょっと出費が…。(^^;;;

「ニューヨーク・フィルハーモニック アン・アメリカン・セレブレーション」(NYP自主製作)
第1巻・第2巻各5枚からなる大物。ちょっと値が張るが、買わないわけにはいかない。
ポール・パレー(指揮)カウエル;賛美歌とフューギング・テューン第2番が収録されているのである。
演奏時間は7分14秒、ちょっと泣きたくなるが(:_;)、やむを得ない。
 
その他では、斉諧生的にはモントゥーが最重要、バルビローリカンテッリコステラネッツミトロプーロスロジンスキストコフスキーら、興味深い名前も多く、まあ、無駄ではないのだが。
もちろん、バーンスタインの演奏は、たくさん含まれている。
 
このセットについては、谷口昭弘さんの音と音楽を考えるページに丁寧な紹介・解説がある。ぜひ参照されたい。
パレーの演奏を含む第1巻CD5については→ここを押して
 
それはそうと、この日(1956年11月25日、カーネギー・ホール)、パレーが指揮したその他の曲目の音源はどうなっているのだろう???
 
エルネスト・ブール(指揮)バーデンバーデン南西ドイツ放送響、「20世紀の作品集 第1巻 パリ」(ASTREE)
これは通販で届いたもの。
ロスバウト、ブール、ギーレンと続く、南西ドイツ放送響の指揮者の系譜は気になっている。
ブールについては、彼の現代曲録音をよく紹介された柴田南雄先生が、『名演奏のディスコロジー』(音楽之友社)で、
「今、日本に呼びたい指揮者は? と訊かれたら、わたしはまず、エルネスト・ブールをあげる。(略)すばらしい感覚の持ち主であり、彼の指揮は一度ナマをきいたら忘れられない
と書いておられた。
このセットは4枚組で、
ドビュッシー;「海」・「カンマ」・「遊戯」
ラヴェル;スペイン狂詩曲・「マ・メール・ロワ」・「高雅で感傷的なワルツ」・「クープランの墓」
ストラヴィンスキー;「春の祭典」・「夜鶯の歌」
ルーセル;へ調の組曲・交響曲第3番・第4番
を収録。録音年は、1965〜87年にわたっている。
ASTREEのセットは、「第2巻 ウィーン・ブダペシュト」と題した、シェーンベルクベルクウェーベルンバルトークを収めたものを架蔵済み、この第1巻も長く探していた。
通販サイトでバーゲン価格で出ていたのを購入。
 
ヘルマン・クレバース(Vn)ヴィレム・ファン・オッテルロー(指揮)ハーグ・レジデンティ管ほか、ヴィオッティ;Vn協第22番&ベートーヴェン;Vn協(Philips)
オランダ・フィリップスから出ている"Dutch Masters"シリーズで、コンセルトヘボウ全盛期のコンサートマスター、ヘルマン・クレバースの独奏。
それだけでも買わないわけにはいかないが、曲が偏愛するヴィオッティの22番となれば、もう、即購入。
ベートーヴェンの管弦楽は、ベルナルト・ハイティンク(指揮)コンセルトヘボウ管
ヴィオッティは1954年、ベートーヴェンは1974年の録音。
 
以下は、ちょっと特殊なCD。
旧ユーゴスラヴィア出身の巨匠、ロヴロ・フォン・マタチッチは、ザグレブ・フィル(現クロアチア)の指揮者を長く務め、晩年には終身名誉指揮者の称号を有していた。
そのザグレブ・フィルの公式サイトのディスコグラフィに、マタチッチとのライヴ盤を製作したことが掲載されていた。
輸入盤取扱店では、まったく見たことも聞いたこともなかったので、すぐにメールを送って、通信販売してくれないか、訊ねてみた。
ところが、オーケストラのPR用に少部数作成した非売品で、販売はしていないとのことで、涙を呑んだ。
幸い、関係者の御厚意で、全7点中、3点を入手することができた。
記して感謝の意を表したい。
 
ロヴロ・フォン・マタチッチ(指揮)ザグレブ・フィル、ワーグナー;ジークフリート牧歌&ヴェーゼンドンク歌曲集ほか(ZPO自主製作)
マタチッチ十八番のワーグナー。1983年2月11日、ザグレブの"Vatroslav Lisinski"コンサート・ホールでの収録。
「ジークフリート牧歌」の演奏時間は、何と20分28秒に及ぶ。
さだめし巨匠的な音楽だろうと期待。
珍しい序曲「ファウスト」を含む。
なお、歌曲の独唱はエステル・コヴァーチュ(Sop)。
 
ロヴロ・フォン・マタチッチ(指揮)ザグレブ・フィルほか、ヴェルディ;レクイエム(ZPO自主製作)
マタチッチのヴェルディ!
吃驚したが、彼の指揮活動の中心はヨーロッパ各地の歌劇場だったのだから、考えてみれば不思議ではないのかも。
また、あえてCD化したところを見ると、ひょっとしたら語り草的な名演の可能性もあるのではないか…と期待。
1979年7月13日、第30回ドブロヴニク夏の音楽祭におけるフランシスコ教会での収録。
独唱陣にはマーガレット・プライス(Sop)、ニコライ・ゲッダ(Ten)といった有名どころも含まれている。
Ruza Pospis-Baldani(M-S)、Luisi Roni(Br)は知らない名前だが。
 
ロヴロ・フォン・マタチッチ(指揮)ザグレブ・フィル、Papandopulo;シンフォニエッタほか(ZPO自主製作)
クロアチアの現代作曲家の作品を集めた1枚とおぼしい。
Boris Papandopulo(1906-1991);シンフォニエッタ(1938)
Milko Kelemen(1924-);チェロと管弦楽のための"Changeant"(1968)
独奏チェロは現代曲のスペシャリスト、ジークフリート・パルム
この曲の初演は、パルムとクリストフ・フォン・ドホナーニ(指揮)ケルン放送響によるとのこと。
Dubravko Detoni(1937-);ピアノと管弦楽のための"Elucubrations"(1969)
独奏ピアノは作曲者。
すべて1971年7月11日、第27回ドブロヴニク夏の音楽祭での収録。

11月27日(土): 今日は、コンサート・ダブルヘッダー。

 先週に続き、長谷川陽子さんのバッハ;無伴奏チェロ組曲を聴く。
 会場は、神戸学院大学メモリアルホール。
 神戸学院大学「グリーン・フェスティバル」というシリーズを主催しており、けっこうメジャーな演奏家を招いて、学校関係者+一般を対象に無料(!)で公開されている(事前申込制)。
 長谷川さんは早くから出演して、このところ「三大Bチェロ組曲・ソナタ連続演奏」というプロジェクトに取り組んでこられた。
今日はその最終回、前回6月の第5回と合わせてバッハの全曲演奏ということになる。

曲目は、もちろん6月にやってない3曲で、
組曲第2番
組曲第4番
組曲第5番
 
どの曲も、先週の演奏会よりは、かなり落ち着いた、優しい演奏となった。
ホールも客席の雰囲気も全然異なるので、違った傾向の演奏になるのは当然といえよう。
このホールでは6月の時も、「優しい歌」を感じるタイプの演奏だった。
 
アンコールはまず、
第1番より「サラバンド」
驚いたことに、2曲目からは、「第1番から第5番まで、どの楽章でも」と、会場からのリクエストに応じられた。
第4番より「ブーレ」
第1番より「プレリュード」
第3番より「ブーレ」
 
このシリーズ、休憩のあとにいつもインタビューの時間がある。そこで語っておられたことをいくつか。
「バッハのCDは、録音したホールが残響の長いところだったことや、季節の違いもあり、今日の方がテンポが速いかもしれない。
録音は、じっくり弾く傾向が出る。」
「いわゆる『三大B』は、どれも難しく、どれも好き。
バッハでは、第5番が好きで、それゆえ演奏の理想も高く、難しい。」
「バッハで4つの音の和音は、いちおう、自分の耳には聞こえている。
全部同時に弾くとバッハに適さないこともあり、バラして弾くことになるが、どれくらいバラすかは難しい問題。
『はっきり』・『何となく』・『ゆっくり』、言葉にするとこの程度になってしまうが、重音の処理は非常に難しい。」
 
「信頼している楽器屋さんがいて、駒や弦、テールピースなどを替えながら、太くて暖かい音を追求している。」
「今の楽器は、アメリカでいいゴフリラーが出ているという話があったとき、自分は日本で演奏会が入っていて行けなかったところ、ノラス先生が偶々アメリカに演奏旅行することになっていて、見に行ってくれた。
そしたら、勝手に(笑)持って帰ってきて、『買うことにしなさい』と。
楽器とは運命的な出会いがあると思う。」
 
「母親になってから、子供に対し、人に対し、無報酬で何かしてあげたい、という気持ちが強く出るようになってきた。」

 夜は、「ロジェと華麗なる管楽アンサンブルの夕べ」@京都コンサートホール小ホール。
 全然予定していなかったのだが、23日の演奏会が素晴らしく、急遽、当日券で聴くことにしたもの。
 客席にカントロフが来ていたほか、京都市響の楽員の顔も多く見られた。

23日(祝)に続いて、プーランクを中心にしたプログラム。
プーランク;P、Ob、Fgのための三重奏曲
モーツァルト;Pと管楽のための五重奏曲
プーランク;Obソナタ
プーランク;Pと管楽のための六重奏曲
モーツァルトを除いて、実はあまり聴き馴染んでいない曲だが、きっと素晴らしいはず。
 
演奏者は、
パスカル・ロジェ(P)
中野富雄@N響(Fl)
ジャン・ルイ・カペツァリ@フランス国立放送フィル(Ob)
横川晴児@N響(Cl)
ジルベール・オダン@パリ・オペラ座管(バッソン)
樋口哲生@N響(Hrn)
 
三重奏曲では、駆けめぐる音の愉悦が印象に残った。
ファゴットとはまったく違うバッソンの音色にも感激。
 
モーツァルトはオーボエが活躍する曲だが、それが非常に素晴らしい吹奏で、大満足。
ホルンも上手かった。当初は同じN響の松崎裕氏の出演とされていたので、代役とは…とあまり期待していなかったのだが、何の何の、みごとなコントロールを示された。
ただ、斉諧生的には、4本の管楽器の和音の溶け合いの美しさを求めたいところ、それは満たされなかった。このあたりは古楽系かウィーン系の団体か。
ロジェのピアノも、どうしたことか、ちょっと粗いタッチ。
 
一転してObソナタでのロジェのタッチは詩的に美しく、最上。
 
全員揃っての六重奏曲も素晴らしい出来。
プーランクといえば「洒落た感覚」「快活な音楽」が代名詞だが、更にその中に悲しみの影や苦い味が明滅する。
 
アンコールは、
プーランク;六重奏曲より第1楽章後半

11月25日(木): 

 今日は、我らがマエストロ、ズラタン・スルジッチ(指揮)大阪教育大学教養学科芸術専攻音楽コース@大阪国際交流センター大ホール の第43回定期演奏会を聴きに行く。
 プログラムの最初は、声楽専攻によるブラームス;4つの女声合唱曲op.17だったのだが、これには間に合わなかった。

今日の曲目は、
ブラームス;VnとVcのための二重協奏曲
チャイコフスキー;交響曲第6番「悲愴」
というもの。なかなか重量級である。
 
ブラームスの独奏は、
稲垣琢磨(Vn)
大木愛一(Vc)
と、いずれも教官が担当された。
第1楽章の最初のトゥッティで、まず活力十分の音楽に感心。
しかし、この曲では、どうしても独奏者に*目と*耳がいってしまう。
ヴァイオリンのソロは「あおり」気味、チェロのソロは「沈み込み」気味、独奏者二人のコントラストがとにかく面白かった
チェロはミクロシュ・ペレーニに学ばれたとのこと、音色のイメージがよく似ている。
一方、ヴァイオリンは細めの硬質な音、大きな身振りから「乗り」のいい音楽が繰り出される。
 
さて、お目当ての「悲愴」
第1楽章冒頭の静かな低弦の響き、ファゴットのソロからして素晴らしく、休憩後の少々ざわついた場内が、一瞬で静まり返った。
大袈裟なテンポの操作や扇情的な表情づけは排され、終始、正攻法の音楽。
しかし、再現部での緊張感の持続は、プロのオケでも滅多にないものだったと思う。
 
第2楽章が、非常に面白かった。
終始速めのイン・テンポ。こういうアプローチは実演でも音盤でも聴いたことがない。
中間部もテンポを落とさず(かえって速めたように聞こえる)、弦の内声を強めに弾かせていたのが印象に残る。
中間部の終わりから主部再現の入りは、多くの指揮者がリタルダンドやら何やら細工をするところだが、ぶっきらぼうなまでにストレート。
指揮者に、何か「隠しテーマ」があったのでは?と感じたが、それが何なのかまでは、つかめなかった。
 
第3楽章の後半からオーケストラが凄く鳴ってきて、素晴らしい高揚となった。
この楽章も基本的にイン・テンポ。
斉諧生的には、281〜282小節で大きなリタルダンドをかけて、283小節以下の行進曲を遅めのテンポ・重めのリズムで演奏する…というのが好みなのだが、そんなことは忘れてしまうほど、納得の音楽であった。
 
第4楽章は終始、弦合奏が絶好調、音楽の「いのち」のこもった響き・音色で、聴く者の胸を熱くしてくれた。
このあたりが、マエストロと大教大オケの真骨頂で、もうプロのオーケストラの*並みの*演奏など、話にならないくらいの感銘を覚えるのである。
特に終結では、どんどんデクレッシェンドしていって、コントラバスのピツィカートが本当に「意味」を担って響き、最後は死ぬようなディミヌエンドが見事に決まって、大感動!
 
アンコールは、マエストロらしく、
「悲愴」の第3楽章後半
この指揮者とオーケストラが、一般に知られること薄いのは、非常に残念。
名前が「教育大」なので、サークルのオーケストラと勘違いされるがちなのだろうか? 音大の学生オーケストラと同じものだと考えていただければよいのだが。
指揮者もロヴロ・フォン・マタチッチの薫陶を受けた人。
広報に熱心なアマチュア・オーケストラと違ってWebpageもなかったのだが、最近、非公式ページも出来たので、来聴される方が増えることを望みたい。

 コンサートの行きがけに、大阪のCD屋で購入。

浦川宜也(Vn)モーリーン・ジョーンズ(P)シューベルト;幻想曲ほか(FONTEC)
斉諧生が好きなシューベルトは、交響曲第9番アルペジオーネ・ソナタピアノ・ソナタ第21番と、この幻想曲。
ヴァイオリニストにとっては鬼門筋だそうで、3曲のソナチネなどより録音頻度がずっと落ちるが、とにかく歌に溢れた素晴らしい曲なので、見れば買う曲にしている。
また、浦川氏はバンベルク響のコンサートマスターを務めたこともあり、中欧風の音色で、わりと好きな人。
曲と演奏者両方の面で欲しいディスク、タワーレコードのポイントが貯まったので、それで交換。
 
ゲルト・アルブレヒト(指揮)ベルリン放送響ほか、シュレーカー;オペラ「はるかなる響き」(CAPRICCIO)
最近、コルンゴルトやシュレーカー、クシェネックといった作曲家への再評価の動きが進んでいる。
斉諧生的にも、このあたりから新ヴィーン楽派は、従来手薄なので、ちょっと気になってきた。
これはシュレーカーの出世作となったオペラ。前に通販で注文したが入荷せず、店頭在庫を見つけていた店で購入。
今や読売日響のシェフとして有名なアルブレヒトだが、このころ(1990年録音)は、このあたりのレパートリーをWERGOやKOCHなど、ドイツのマイナー・レーベルにせっせと録音していたものである。
なお、来年1月に東京フィルでこのオペラを取り上げる大野和士ファン・ページに、シュレーカー特集が掲載されており、非常に参考になる。

11月24日(水): 

 各社の12月新譜等を購入。

小林研一郎(指揮)日本フィル、ムソルグスキー(ラヴェル編);組曲「展覧会の絵」ほか(EXTON)
このところ毎月のように出る小林研一郎の新譜を購入。
彼の「展覧会の絵」は、実演に接したことがないが、味の濃い描写が聴けるのではないかと期待。
1999年8月22日、サントリー・ホールでの収録。
ビゼー:「カルメン」組曲(抜粋)シャブリエ;狂詩曲「スペイン」をカプリング。
 
イェヒム・ブロンフマン(P)エサ・ペッカ・サロネン(指揮)ロサンジェルス・フィル、ショスタコーヴィッチ;P協第1・2番ほか(Sony Classical)
第1番は好きで集めている曲ということもあるし、サロネンの録音も見逃せないので購入。
第1番の独奏トランペットはトーマス・スティーヴンス、オーケストラの(元)首席奏者である。録音時には在団中だったかもしれない。
この人にはアンドレ・プレヴィンのピアノと録音したジャズ・アルバムもある(DRGレーベル)。
ピアニストとジュリアードQによる同じ作曲家のピアノ五重奏曲をカプリング。
ところで、ジャケット表紙やCDのレーベル面が、玩具箱をモチーフにしているのは、どうしてなのだろう? 斉諧生的には、曲のイメージと合わないのだが。
 
ハインツ・ホリガー(Ob)ほか、ゼレンカ;トリオ・ソナタ集(ECM)
ホリガーのゼレンカ(ツェレンカ)というと、ARCHIVレーベルにソナタや協奏曲の名演があり、このレーベルからの新録音もCD店で見かけていたものの、それよりは衰えているかも…と手を出さずに来た。
『レコード芸術』12月号の新譜月評で、皆川達夫先生が「さわやかでみずみずしく、音楽のよろこびと楽しみとにみちている」と絶讃しておられたので、購入に踏み切った。
共演のメンバーも凄い。
モーリス・ブールグ(Ob)トーマス・ツェートマイヤー(Vn)クラウス・トゥーネマン(Fg)クラウス・シュトール(Cb)ジョナサン・ルービン(Lute)クリスティアーネ・ジャコテ(Cem)と、ソロ・アルバムを作れる面々ばかりである。
1997年、スイス、ラ・ショー・ド・フォンでの録音。
 
寺神戸亮(Vn)シャレフ・アド・エル(Cem)CPEバッハ;Vnソナタ集(DENON)
斉諧生的に注目の古楽系のヴァイオリニストは、寺神戸亮とアンドルー・マンツェの二人。
バッハの息子連中までは手を拡げないようにしているのだが(買い出すとキリがない)、これは寺神戸の新譜ゆえ、買わざるべからず。
アド・エルは未知の人だが、1968年イスラエル生まれとのこと。
 
清水靖晃(Sax)バッハ;無伴奏Vc組曲(Sax編)第4・5・6番(VICTOR)
バッハの音楽を、本来の指定以外の楽器で演奏しているという音盤に、ついつい手が伸びてしまうのは、どうしてなのかな? (笑)
まあ、これは既に買っている第1・2・3番が面白かったこともあり、問題なく購入。
全6曲とも録音場所が異なり、第1巻では第2番が大谷石の採石場での録音だったが、今回は第4番が釜石鉱山という、すごいロケーション。
もっとも第5番はコンタリーニ宮ギターの間、ここはイタリア合奏団のDENON録音でよく使われていたところだ。
そうそう、第1巻はCLASSICAの新譜紹介で取り上げられていて知ったのである。

11月23日(祝): 

 今日は、プーランク・ソワレ@京都コンサートホール小ホール。

今日の曲目は、大きく前後半に分かれ、前半は
プーランク;モノオペラ「人間の声」
 
後半は
プロコフィエフ;Vnソナタ第2番
プーランク;Vnソナタ
というもの。
 
「人間の声」の出演は
奈良ゆみ(Sop)
寺嶋陸也(P)
ピアノ版の由来については明記されていないが、台本は若杉弘の日本語訳による上演。
 
舞台下手に、奏者が客席に背中を向ける位置にピアノが置かれ、中央に机・イス・ソファ。
机の上には、もちろん電話が置かれている。水差しとコップがあるのは一石二鳥を狙ったものか。
舞台暗転の中、歌手が登場、中央に横たわる。
何度か、電話のベルがスピーカーから鳴らされるが、この効果音は少しやかましすぎ、何度も聴かされて不快に感じた。
そのあとピアニストが登場、オペラ本体では、高音の連打で電話のベルを表現していた。
 
初めて実演に接するオペラだが、なかなか良かった。
訳詞上演には限界があるというものの、原語上演より遥かに内容を理解しやすいのも事実。
最初の頃こそ、「違いますわ〜!」といった日本語としては不自然な抑揚に少し抵抗を感じたが、それがかえって不安やヒステリックな味を強調する効果もあり、劇が進むにつれて、どんどん気にならなくなっていった。
歌唱については、斉諧生に論評能力が極めて乏しい上、歌と朗誦の間をゆく特殊な音楽だから何とも評価しがたいが、約45分間、疑問を抱かず、聴き入っていたことを記しておきたい。
本来は管弦楽のはずだが、ピアノ伴奏にも違和感が無かった。撫でるようなレガートからフォルティシモの強打まで、味わいの濃い表現が気に入った。
問題は戯曲そのもの。
電話を介した会話をモノローグで聞かせるという特異なアイデアは凄いと思う。
しかし、ああいう結末を迎える愛の姿というものが、斉諧生的には理解を絶している。
共感とか感情移入は、できないままであった。
 
客席は八分以上の入り、外国人の姿が多いのが目立った。
これだけ渋い(?)演目で、これだけの客が集まるのは、京都も捨てたものではないと感じた。
なお、個人的な意見かもしれないが、舞台が暗転して終わる場合は、出演者が退場して明かりがつくまで、拍手せずに見守るべきではないか。
 
後半の演奏者は
ジャン・ジャック・カントロフ(Vn)
パスカル・ロジェ(P)
今日は、カントロフのヴァイオリンを間近に聴きたくて足を運んだようなものである。
 
カントロフは金曜日の京響との共演同様、黒っぽいカジュアルな格好、ロジェもスーツ・シャツ・ネクタイを黒〜濃いグレーでコーディネイトしたお洒落な服装。
やはり金曜日と同じく、譜面つき。
 
プロコフィエフ;Vnソナタ第2番
名演と言うしかない演奏。音が飛び来たり飛び去って、アレヨアレヨという間に、全曲が終わってしまった。
カントロフの音色は本当に美しいが、突き進むべきところでは多少の軋みや掠れを厭わないことが、音楽の生命を活かしていたと思う。
フルート・ソナタから編曲された平明な親しみやすい曲…というのが一般的な解説だが、その中にも山葵のような苦い味わいが織り込まれているのが感得できた。
走句の中で、ちょっと一音だけ低音弦に飛ぶところなどが、そうした味わいの元なのである。
全曲の中では、終楽章の主題が、実に生き生きとしたニュアンスを与えられていたのに感服。こうした表現、他のヴァイオリニストの録音では聴いたことがなかった。
 
プーランク;Vnソナタ
これまた、名演と言うしかない演奏。曲の出来もあって、こちらの方が、感銘が深かった。
この曲は、ガルシア・ロルカの追悼に書かれたという作曲事情を持つことから、深刻気味に演奏されることもある。
しかしカントロフは、第1楽章で速めのテンポをとるなど、音の運動性を損なわないようにしていたと思う。
プーランクの美しいメロディ、ちょっとキッチュな味わいを活き活きと表現しながら、陰の濃い気分も十分に表出されていた。
この曲の演奏・録音頻度が、かなり低いのは納得できない。
比べるのは悪いかもしれないが、プロコフィエフの2番より、数等いい曲だと、今日は思ったのである。
カントロフの録音もなかったのではないか? 勿体ない。
 
アンコールは、
ラヴェル;Vnソナタより第2楽章
これは素晴らしかった! 今日の白眉かも。
ダイナミックなピツィカートに続いて奏されたブルースのテーマが、ちょっと力を抜いた弓と微かに付されたポルタメントで、もう、絶妙としか言いようのない、それはそれは美しい、夢のような音楽。
ヴァイオリンもいろいろ聴いてきたが、これだけの蠱惑的な音は聴いた記憶がないし、これからも聴けないのではないか…そんな気がした。
CDでもカントロフのラヴェルは名演だが、ここまで美しいとは!!
プーランク;Vnソナタより第3楽章
本プロよりも、より激しく、活気のある演奏。
これは本プロの方が良かったような気がしたが、それでも、もう一度聴けて嬉しかった。
 
カントロフの音はやや小さいが、よく伸びる音ではないかと思われる。斉諧生は前から3列目に座っていたので、確認はできていないが。
ロジェのピアノも「伴奏」に堕さない、立派なもの。ヴァイオリンとの駆け引き、呼吸の合わせ方、見ているだけでも楽しかった。

 通販業者4社から次々と荷物が届く。土日を留守にしていたせいでもあるが…。(^^;;;

ロヴロ・フォン・マタチッチ(指揮)チェコ・フィル、ベートーヴェン;交響曲第3番「英雄」(チェコSupraphon、LP)
前に「悲愴」を買った時にも書いたが、マタチッチの録音が、意外に手元にないので、SupraphonのLPを集め直している。
「英雄」の初期のプレスのものをカタログに発見したので、オーダーしたもの。
 
ポール・パレー(指揮)デトロイト響、ベートーヴェン;交響曲第7番(米Mercury、LP)
 
ポール・パレー(指揮)デトロイト響、ワーグナー;管弦楽曲集(米Mercury、LP)
 
ポール・パレー(指揮)デトロイト響、ラヴェル;ボレロ&R・コルサコフ;スペイン奇想曲(米Mercury、LP)
パレーのモノラル盤は、ひととおり架蔵しているのだが、バーゲン品等が多く、音溝が傷んでいるなど、状態の悪いものが多いのが実状。
カタログに安いものが3点、出ていたので、今あるものよりいい音で聴けるかもしれないと、オーダー。
中でもワーグナー集のうち序曲「タンホイザー」は、スコアの指定を無視したティンパニの強打の効果が物凄いので、楽しみである。
なお、ラヴェルの盤は、ジャケット・デザインが別なもの(後のもの)であった。
早くMercuryがモノラル時代の録音もCDに復刻してくれるといいのだが。
 
ヨルマ・パヌラ(指揮)彼のアンサンブル、シベリウス;管弦楽曲集(芬rytmi、LP)
パヌラの一般的知名度は低いが、サロネンサラステヴァンスカら、最近躍進中のフィンランド人指揮者の師匠である。
彼のシベリウス録音ならぜひ聴いてみたいとオーダーしたもの。
現物が届いてみるとなかなか妙なディスクで(笑)、まずタイトルが、「フィンランディア号の酒場のジャン・シベリウス」。ジャケット裏には客船「フィンランディア号」の写真。
ライナーノートの冒頭に、「ジャズ・ファンにも楽しめるシベリウス録音」と謳っている。
まあ、要するに、シベリウスの管弦楽曲・歌曲から、軽いもの、楽しめるもの15曲を集めたLP。
有名なところでは「カレリア」組曲の「行進曲ふうに」フィンランディア讃歌が入っている。
 
ミクロシュ・ペレーニ(Vc)ジョルジ・レヘル(指揮)ハンガリー放送響、ヒンデミット;Vc協&ミハーイ;Vc協(洪HUNGAROTON、LP)
先日来、とにかく集めているチェリスト、ペレーニ。
ヒンデミットは、CD(LASERLIGHT)で架蔵済みだが、ミハーイは未架蔵の音源ゆえ、是非盤とオーダー。
1953年に初演され、「コッシュート賞」を受けたとか。作曲者自身、優れたチェリストで、技術的可能性を窮めつくした作品…と、解説にある。
また、バルトークの影響が著しい作風の時期で、ロマンティックな音楽だという。
 
ミクロシュ・ペレーニ(Vc)イムレ・ローマン(P)ほか、リスト;VcとPのための作品集ほか(洪HUNGAROTON、LP)
音源としては、既にCDで架蔵済みだが、「アナログはLPで聴く」原則からオーダーしたもの。
もっとも、届いてみれば、デジタル録音だったのだが、まあ、いい。ペレーニのLPは、ぜひ全部蒐集したい。
ペレーニが演奏している曲は、「忘れられたロマンス」「悲しみのゴンドラ」エレジー第1・2番
スザーナ・エレケシュという人が弾いた、ハルモニウムのための曲集をカプリング。
 
サルヴァトーレ・アッカルド(Vn)ロドヴィコ・レッソーナ(P)バッハ;無伴奏Vnパルティータ第2番&シューベルト;幻想曲(伊FABBRI、LP)
シューベルトの幻想曲は、もう一つ知名度が低いが、アルペジオーネ・ソナタ同様、シューベルトの歌の魅力が溢れる、絶美の佳曲。
アッカルドの美音でどう聴かせてくれるか、期待してオーダーしたもの。
録音年等は表示がないが、マルPは1980年となっている。
 
「第3回国際チャイコフスキー・コンクール チェロ部門」(露MELODYA、LP)
通販業者のカタログにアルト・ノラスの名前を発見したので、オーダーしたディスク。
↓に書いた1982年のLP同様、1966年のチャイコフスキー・コンクールの記録で、この年、ノラスは第2位に入賞した。
ジャケットが無く、レーベル面もロシア(キリル)文字でしか書いてないので、何の曲を演奏しているのかよくわからないが、おそらくフィンランドの現代曲だと思われる。
また、ミシャ・マイスキーの名前も見える。
なお、ノラスの演奏の次に宮城道雄;春の海が収録されており、おそらく日本人の出場者の演奏と思われるが、カタログに記載が無く、レーベルの字も読めないので誰のものかわからない。
(附記)上記「春の海」の演奏者について、Oh! That Cello!の掲示板でお尋ねしたところ、すぐに御返事をいただいた。
それによれば、この年に第3位を受賞した安田謙一郎であるとのこと。
当時、「春の海」のほか、ブラームスやボッケリーニのソナタも含めて、国内盤LPが発売されたそうだ。
 
ハリー・ベラフォンテ(Vo)&リーナ・ホーン(Vo)ほか、ガーシュウィン;「ポーギーとベス」抜粋(米RCA、LP)
「ポーギーとベス」には目がない斉諧生、カタログに発見して、即オーダー。
女性の方は知らない名前だが、ベラフォンテは、我々よりかなり上の世代の偶像的ポピュラー歌手として、よく聞く名前だ。
必ずしも忠実な抜粋ではなく、"There's a Boat That's Leavin' Soon for NewYork"で終わっている。ジャケットにも"in their own interpretation of songs from PORGY and BESS"とあり、かなり自由な歌唱を行っているのではないか。
もっとも、斉諧生がこれまでに聴いた「ポーギー〜」で最も感動的だったのは、ルイ・アームストロングエラ・フィッツジェラルドのものだった(VERVE)。
その域に迫るものを聴くことができないか、期待したい。
1959年、ニューヨークでの録音、レニー・ヘイトンロバート・コーマンの編曲と指揮による。
 
ミカエル・ヘラスヴォ(Fl)ユハ・カンガス(指揮)オストロボスニア室内管、モーツァルト;Fl協(全集)(BIS)
御贔屓のアンサンブル、カンガス&オストロボスニア管のモーツァルトを発見したのでオーダー。
彼らのモーツァルトでは、前に聴いたディヴェルティメントK.136ほかが、速めのテンポ、生きたリズム、清潔なフレージング、抑えめのヴィブラート、内声の息づき、実にフレッシュで、見事なモーツァルト演奏で、感服した。
これは1987年の録音なので、ずっと前の演奏ということになるが、やはり期待したい。
フルーティストは未知の人だが、1948年生まれ、フィンランド放送響の首席を務めたこともあり、シベリウス・アカデミーでも教えているとか。
 
クリストフ・ヘンケル(Vc)ジョルジュ・プリュデルマシェ(P)プフィッツナー;Vcソナタ&R・シュトラウス;Vcソナタ&ヒンデミット;Vcソナタ(SIGNUM)
プリュデルマシェは、野々村さん「クラシック招き猫 名演奏家の名盤はこれだ!」紹介記事を書いておられるように、中古音盤堂奥座敷同人に評価の高いピアニストなので、ずっと気になっている。
ヘンケルとは、前にベートーヴェン;Vcソナタ全集を録音しており(Lyrinx)、これもなかなかの出来であった。
このディスクの存在は野々村さんから御教示いただき、この2人の共演とあらばぜひ聴いてみたいものだが、オーダーしたもの。
1995年の録音。
 
エンリコ・マイナルディ(Vc)カルロ・ゼッキ(P)カール・ゼーマン(P)バッハ;Vcソナタ第2番&レーガー;Vcソナタ(Orfeo)
先日、無伴奏を買ったマイナルディの、こんどはソナタを購入。
ピアノがゼッキというのも興味深い。マイナルディの弟子ペレーニもゼッキとソナタ全集をライヴ収録しているのだ。
1956年3月21日、ザルツブルクでの放送用録音。
レーガーは、ゼーマンのピアノで、1973年3月2日の録音。
マイナルディが1913年にレーガーに出会ったときの回想を語った録音(約9分)をフィルアップ。
 
エンチョ・ラドゥカノフ(Cb)ステファン・リンドグレン(P)コントラバスのための編曲集(Bluebell)
なんとなんと、ステンハンマル;2つのセンチメンタル・ロマンスをコントラバス用に編曲して弾いてしまったCD。
こういう珍盤(?)も、ステンハンマル全録音蒐集には、欠かせないのでオーダーしたもの。
ラドゥカノフは1946年ブルガリア生まれ、現在はスウェーデン放送響の首席奏者。
その他の収録曲も、すべて、演奏者自編で、
フランクール;ソナタホ長調
モーツァルト(クライスラー編);ロンド(ハフナー・セレナードより)
アウリン;4つの水彩画(これも佳曲)
ヴラディゲロフ;ロマンティック・ポエム
 
アンリ・マルトーとスウェーデンの弟子と同僚たち(CAPRICE)
CD4枚組の大物。これはステンハンマルカール・フォン・ガラグリの関連で購入。
ヴァイオリニスト、アンリ・マルトー(1874〜1934)は、「モーツァルトから埃を取り去り、センチメンタルな要素を取り除いた」(ヨアヒム・ハルトナック『二十世紀の名ヴァイオリニスト』)と評され、近代的モーツァルト演奏で有名。
バッハとモーツァルトを愛し、血縁的にも音楽的にもフランスとドイツの相剋に悩んだ彼は、第一次世界大戦後、活動の場をスウェーデンに移した。
そのとき指揮者・ピアニストとしてマルトーと共演を重ねたのが、ヴィルヘルム・ステンハンマルである。
200頁近いブックレットには、スウェーデンにおけるマルトーの演奏記録が収められているが、そのかなりの部分にステンハンマルが登場する。
演奏曲目等、非常に興味深い。これはいずれ、ステンハンマルのページに掲載したいと思う。
 
CD4枚のうち1枚は、マルトー自身の録音で占められている。
バッハ;無伴奏Vnのためのパルティータ第3番(1912年)やサラサーテ;カルメン幻想曲(1928年、1930年の2種)等、おそらく残存するすべての音源であろう。
残念ながら、ステンハンマルがピアノを弾いているものは、無い。
 
次の2枚は、マルトーがスウェーデンで教えた弟子達8人の録音。
その筆頭が、カール・フォン・ガラグリで、12曲の演奏、約37分を収録。
曲目は自作の小品からペルガメント;Vn協第3楽章まで、録音は1929年から1983年までにわたっている。
 
また、オットー・キィンデル(1904〜1983)の演奏で、ステンハンマル;Vnのためのセンチメンタル・ロマンス(第2曲のみ)が収められており、全録音蒐集上、欠かすことはできない。(^^;
最後の1枚は、マルトーと同世代にあたるスウェーデンのヴァイオリニスト、無慮26人の録音を集成したもの。
 

11月21日(日): 

 昨日に続き、長谷川陽子;バッハ;無伴奏チェロ組曲 全曲演奏会@武蔵野市民文化会館小ホール。
 今日は終演後、サイン会も開かれた。

今日の曲目は、もちろん昨日やってない3曲で、
組曲第2番
組曲第3番
組曲第6番
 
第2番プレリュードは、優しい愁いの歌から張り裂けるような悲しみへクレッシェンドしていく描写が見事。
サラバンドの嘆きの歌も心に残る。
 
組曲第3番カザルス以来有名なプレリュード冒頭の下降音形が、まさしく太陽のように輝かしい。これでノック・アウト。
疾風のようなクーラント、呼吸の深いサラバンド、懐かしいブーレ
ただただ感服して聴き惚れる。
 
通常の4弦のチェロではメカニカルな面で至難を極める第6番
プレリュードは、6月に神戸で聴いたより遥かに力強い。
あの時は、「優しい歌」が全曲を一貫するのを感じたが、今日は、難曲に雄々しく挑む長谷川さんの「力溢れる歌」を聴いた。
その達成の高さは賞讃したいが、まだまだ上を目指してほしい…という気持ちが芽生えたのも事実。
 
アンコールは3曲で、
組曲第5番よりガヴォット
組曲第1番よりサラバンド
組曲第3番よりブーレ
 
2日間、全6曲を通じて、時に優しく時に厳しく、まさに彼女にしか歌えないバッハが鳴り響いた。
幸いなるかな、この2日間を彼女の音楽とともにした人。
 

 演奏会の前に渋谷の某外資系大型店で買い物。

オレグ・カエターニ(指揮)ロベルト・シューマン・フィル、シューマン;交響曲第1・3番(CALIG)
昨日のオフミで話題に上った『クラシック輸入盤パーフェクト・ガイド』(音楽之友社)をCD店で立ち読み。
知人は酷評していたが、斉諧生的には知らない曲・盤が多く取り上げられており、なかなか面白そうだった。京都に戻ってから買うつもり。
中で目に付いたのが、「ニュー・フェイスたち爛熟の個性を聴け!」というページ。斉諧生御贔屓のシュテファン・ザンデルリンクの録音も取り上げられており、ちょっと注目。
その記事の冒頭に挙げられていたのが、この盤。「各声部の強烈な抉りだしと重量感で終始聴く者を圧倒し尽くす。」という。
それ以上に、斉諧生的に重要なのは、この指揮者がイーゴリ・マルケヴィッチの息子ということ。マルケヴィッチの最初の妻はニジンスキーの娘だが、再婚相手とのあいだの子供で、カエターニは母の姓である。
演奏への期待半分、マルケヴィッチ関連資料としての興味半分で購入。
ブックレットにカエターニの近影が掲げられているが、もう、マルケヴィッチに生き写し
 
飯守泰次郎(指揮)名古屋フィルほか、ショスタコーヴィッチ;交響曲第5番ほか(LIVE NOTES)
先日、ブルックナー;交響曲第4番に非常に感心した飯守さんを聴いてみようと、旧録音を購入。
1996年7月25日、サントリー・ホールでのライヴ録音。
新実徳英;二十絃箏とオーケストラのための「宇宙樹」をフィルアップ、箏独奏は野坂恵子
 
ルドルフ・ケンペ(指揮)コルンゴルト;交響曲(VARESE SARABANDE)
最近、コルンゴルトの交響曲(1950年完成)は、プレヴィン盤(DGG)など、ちょっとした流行になっているが、これはその遥か前、1972年の世界初録音
英RCAのLP(たぶん廉価盤)で架蔵しているのだが、CDになっているとは知らなかった。丁寧なマスタリングを期待して購入。
 
カトリーヌ・コラール(P)ミシェル・タバシェニク(指揮)モンテ・カルロ・フィル、シューマン;P協&グリーグ;P協(LYRINX)
昨日のオフミで強く薦められたCDが店頭にあったので購入。とりわけシューマンの終楽章が絶品とか。
コラールは1993年、46歳で世を去った、あまり有名ではない(かもしれない)ピアニストだが、斉諧生の周囲にも隠れ(ていないかもしれない)ファンが何人かいる。
特にシューマンに愛着を持ち、得意にしたそうだ。
1970年代のエラート録音も有名だが、80年代以降、このLYRINXレーベルにソロや室内楽を残した。この協奏曲は、1990年の録音。
 
長谷川陽子(Vc)バッハ;無伴奏Vc組曲(全曲)(VICTOR)
長谷川陽子さんの新録音、買わざるべからず。
録音は今年の4〜5月だから、6月に神戸のコンサートで1・3・6番を聴いたときには、既に完了していたことになる。
これは、演奏会場で購入。終演後、長谷川さんにサイン(日付入り)をしていただいた。(^^)
そもそも昨日・今日の連続演奏会自体、このCDの発売記念の意味も込められていたのである。
 
サーストン・ダート(クラヴィコード)バッハ;フランス組曲ほか(J Martin Stafford)
 
サーストン・ダート(クラヴィコード)フローベルガー;クラヴィコード曲集ほか(J Martin Stafford)
ダートの名前は、ひょっとしたら、もう忘れられているのかもしれないが、1950〜60年代の古楽草創期、イギリスで重要な役割を果たした人物である。
レコード・ファンには、初期のネヴィル・マリナーの理論的支柱、コンティヌオ奏者として知られているが、かの天才デヴィッド・マンロウも、ダートの導きを受けたのである。
音楽学者として著名であるのみならず、指揮者としてもバッハ;ブランデンブルク協奏曲の全曲録音を残している。
この人のチェンバロは、以前、英L'Oiseau-LyreのLPで聴いたことがあり、なかななに滋味豊かなものであった。
この2枚は、クラヴィコードを弾いたもので、録音は1954〜1961年。
英L'Oiseau-Lyreから発売されたものだが、イギリス・クラヴィコード協会の協力のもと、Stafford氏がデッカのライセンスを取得してCDに復刻したもの。
リリース情報は、以前に得ていたが、ようやく現物を発見。@3,000円超であったが、クラヴィコードの、打ち震えるような、かそけき音色を聴きたくて、購入。
両盤とも、パーセル等、イギリス作曲家の初期鍵盤曲をフィルアップ。
ブックレットに復刻資金を提供した予約購入者の名簿が挟まっているのが面白い。

11月20日(土): 今日から2日間、東京へ出かける。目的は、長谷川陽子さんの演奏会である。
 もちろん、ついでに音盤蒐集に励み、Web上の知人とのオフミーティングも楽しませていただいた。(^o^)

 長谷川さんの演奏会というのは、バッハ;無伴奏チェロ組曲 全曲演奏会@武蔵野市民文化会館小ホール。
 ここは500席ほどのようだが、パイプオルガンを備えているし、天井が高いせいか、音響的にも素晴らしい。
 エントランスやロビーが少々貧相だが、接客姿勢もちゃんとしているし、いいホールだと思う。
 この演奏会のように、企画力も十分、地元の方が羨ましい。
 しかも、2日間通し券が1,000円という価格設定! (◎-◎)

今日の曲目は、
組曲第1番
組曲第4番
組曲第5番
全6曲を初日と2日目にどう振り分けるかが、よく問題となる。
神戸では、1・3・6番2・4・5番という構成。
斉諧生的には、今回の分け方のほうが好み。バランスがよいと思う。神戸式では、2日目が軽くなってしまうように思う。
 
第1番プレリュードが、やや速めのテンポで軽やかに流れ出す。長谷川さんは白のドレス。
四角四面にならず、ルバート等を挟みながら、自在のフレージングである。古楽奏法に囚われた窮屈さは全く感じられない。
もちろん、長谷川さんのことだから、研究は怠っておられないと思うが。
深い深いサラバンドが、軽やかなメヌエットに引き継がれる対比も心地よい。とりわけメヌエットIIの速いテンポが印象的。
一転、大胆に攻めたジーグも素晴らしい。
 
第4番は、やや不満が残った。
曲の弱さか、斉諧生の理解不足か。(ひょっとして)演奏者の楽曲把握の問題か。
あるいは、演奏者の想いと斉諧生のそれが、かみ合わないのかも。
 
休憩をはさんで、第5番プレリュードの冒頭に発せられた一音の畏るべき深さに、大感激。
この音色の玄妙さは、筆舌に尽くしがたいばかりか、CDでも録りきれないだろう。
その精神的深さゆえに難曲として知られるサラバンドは、終始、弓を軽く使った、やや淡い音色で奏でられ、「白い哀しみ」とでも言おうか、胸が締め付けられるような情感を湛えた。
これまた大感動。
至高の名演は、力強いジーグでしめくくられた。
 
アンコールは、
組曲第3番よりサラバンド

 演奏会がマチネだったので、その前後に中古LP店を3軒ほど廻る。

イェフディ・メニューイン(指揮)ポーランド室内管、モーツァルト;交響曲第35番&バルトーク;ディヴェルティメントほか(MUZA)
これは前にCDで聴いて、大感激した演奏。
LPを見つけ、「アナログ録音はLPで聴く」原則を適用して購入したもの。(実際のところアナログ録音かデジタル録音かよくわからないが)
1984年4月27・28日のワルシャワでのライヴ録音で、標記の2曲の他にバッハ;2つのVnのための協奏曲エルガー;序奏とアレグロを収録。LP2枚の各1面に1曲づつを収めている。
バッハのヴァイオリン独奏は、メニューイン本人と、リーランド・チェンという台湾出身の弟子(1965年生れ)が弾いている。
4曲とも優れた演奏だが、とりわけモーツァルトとバルトークが素晴らしかった。なかんずく前者は、カザルスの指揮を思わせる、音楽の生命に満ちた名演であったという記憶である。
 
カルロ・ゼッキ(指揮)チェコ・フィル、ベルリオーズ;幻想交響曲(チェコSupraphon、LP)
ゼッキの「幻想」は、先月、いったん入手したものの、パチパチ…という盤面ノイズが激しく、状態の良いものを探していた。
今回のはレコード番号も付けなおされ、プレスも新しいもののようだが、その分、痛みも少なかろうと購入したもの。
少し聴いてみたが、ノイズは極小、音もなかなか豊かで、まずまず良い状態である。
 
ハンス・シュミット・イッセルシュテット(指揮)ハンブルク北西ドイツ放送響、ドヴォルザーク;交響曲第9番「新世界より」(独TELEFUNKEN、LP)
イッセルシュテットは昔から(というかクラシックを聴き始めた最初期からずっと)集めている人だが、この「新世界」のLPは3枚目にあたる。
最初は南アフリカ・プレスという妙なもの、2枚目は英デッカ・プレス。いずれもノイズや音溝の傷みが激しく、満足できるものではなかった。
今回、ようやくオリジナルの独テレフンケン・プレスのものを見つけ、店頭で少し鳴らしてもらったところ、状態が良さそうなので購入したもの。
少し聴いてみたが、前の2枚とは比べものにならない音の生々しさ、音場の奥行き。少し高価ではあったが、いい買い物だった。
(しかし、プレスの良否を追求していると、どんどん深みにはまっていく… (>_<))
 
ネーメ・ヤルヴィ(指揮)イェーテボリ響、ステンハンマル;交響曲第1番(瑞BIS、LP)
もちろんCDでは架蔵済みだが、元来は1982年9月24日にイェーテボリのコンサートホールでライヴ収録されたアナログ録音。
で、「アナログ録音はLPで聴く」原則を適用して購入したもの。
なお、これがBISの最初のステンハンマル録音で、次からはデジタル録音になるので、これ以上はLPで買い直さずにすむのである。
 
エフゲニー・スヴェトラーノフ(P)レオニード・コーガン(Vn)フョードル・ルザーノフ(Vc)ラフマニノフ;悲しみの三重奏曲第2番(独ETERNA、LP)
何と、指揮者スヴェトラーノフがピアノを弾いた録音。
はやしさんのスヴェトラーノフのページディスコグラフィによれば、1973年録音とのこと。
ヴァイオリンはもちろん大名人だが、チェロも前にアナトリー・ヴェデルニコフとのブラームス;Vcソナタ集を聴いて良かった人なので、探していた。
CDにもなっているが(Russian Disc)、「アナログ録音はLPで聴く」原則から、歓迎して購入したもの。
旧ソ連・メロディア音源だが、この盤は旧東独・エテルナのプレス。この方がいいかもしれない。
スヴェトラーノフとルザーノフによる同じ作曲家のチェロ・ソナタも録音があり、これも早く見つけたいものである。
 
岩崎洸(Vc)岩崎淑(P)ショスタコーヴィッチ;Vcソナタほか(日ビクター、LP)
集めている曲の未架蔵盤、しかも、日本人の演奏ということで、即、購入。
岩崎姉弟は、1970年の第4回国際チャイコフスキー・コンクール(チェロ部門)に参加、洸が第3位、淑が伴奏者特別賞を受賞した。
その際、上位入賞者の特典として旧ソ連でレコード録音を行ったものが、日本国内で発売された盤である。
時に洸26歳、淑33歳。ジャケット写真の2人が若いこと若いこと。
ショパン;序奏と華麗なポロネーズR・コルサコフ;熊蜂の飛行等、小品をカプリング。
 
「第7回国際チャイコフスキー・コンクール チェロ部門 第1巻」(露MELODYA、LP)
1982年の同コンクールの記録である。チャイコフスキー・コンサート・ホールでの録音と記載されているが、コンクールそのものの実況録音なのかどうかははっきりしない。
で、斉諧生的に重要なのは、この年に出場し、北欧から初のファイナリスト・入賞者となったトルルス・メルクの演奏が含まれていること。
ここで彼が弾いているのはチャイコフスキー;"Pezzo Capriccioso,Op.62"で、ピアノ伴奏はラルス・ユンソンLars Junsson、演奏時間は6分半。
メルクの録音とあらば、何であれ買わざるべからずと即購入。
その他、Alexander Rudin(旧ソ連)、Michal Kanka(チェコスロヴァキア)等の名前がある。
 
イーゴリ・マルケヴィッチ(指揮)聖チェチリア音楽院管・合唱団、ダラピッコラ;「囚われ人の歌」ほか(米Angel、LP)
今日の最大の収穫である。
畸匠列伝中、マルケヴィッチ 略年譜に「EMIで1950年代初めに聖チェチリア音楽院管とダラピッコラ『囚われ人の歌』の重要な録音がある。」と書いたものの、ずっと聴いたことが無かった。
1938〜41年の作曲。ムッソリーニのファシスト政権への抵抗を、歴史上の有名な虜囚の詞に託して歌い、20世紀の名作に数えられる曲を有名にした名演である。
マルケヴィッチとしても、ストラヴィンスキー以後の世代の作曲家の録音は、自作を除けば、かなり珍しい。
もちろん長年の探求盤であったが、国内盤すら一度も見たことがなかったほど。
ジャケットにUNESCOのロゴが入っているところから見て、これはオリジナル盤ではなく、再発以降の盤であろう。米Angelの発売だが、中味は英プレスなので、まずまず。
アンドレ・クリュイタンス(指揮)ほか、デラージュ;4つのヒンドゥーの歌曲パスカルQ、グァルニエリ;弦楽四重奏曲第2番をカプリング。
 
カール・デイヴィス(指揮)ロンドン・フィル、J・シュトラウス;「こうもり」組曲&ディーリアス;「村のロメオとユリア」組曲ほか(Virgin)
カール・デイヴィスの名前は、前にロイヤル・リヴァプール・フィルを振ったガーシュウィン;交響的絵画「ポーギーとベス」他のCD(EMI)で知っていた。
実は、あまり印象に残っていないのだが(^^;、妙な盤を見つけたので買ってみた。
ライナーノートによると、どうやらデイヴィスがロンドン・フィルの副指揮者になってポップス・コンサートを指揮するようになったことから、彼の紹介用に製作されたもののようである。
曲目が面白い。
自作;フィルハーモニーのファンファーレ
J・シュトラウス(デイヴィス自編);「こうもり」組曲(序曲と4つの舞曲)
ブラームス(マシューズ編);弦楽六重奏曲第1番よりアンダンテ(弦楽合奏による)
ディーリアス(マシューズ編);「村のロメオとユリア」組曲
コープランド;市民のためのファンファーレ
ディーリアスのレア物ということで、購入。「こうもり」も面白いかも。
 
ジョルジュ・プリュデルマシェ(P)カロロス・トリコリディス(指揮)グルベンキアン管、モーツァルト;P協第20・27番(LYRINX)
ずっと気になっているピアニスト、プリュデルマシェの未架蔵盤を発見、曲も好きなものなので(特に27番)、購入。
指揮者は知らない人だが、1947年生まれのギリシャ人、スワロフスキーカラヤンに学び、テッサロニキ響の常任指揮者等を歴任しているとか。
なお、カデンツァは20番がベートーヴェン、27番がモーツァルトのものを使用。
 
タカーチQ、ミクロシュ・ペレーニ(Vc)、シューベルト;弦楽五重奏曲ほか(DECCA)
ああ、恥ずかしい。(>_<)
ペレーニの録音は全点蒐集などとホザいておりながら、見落としていた録音があったとは…。しかもメジャー中のメジャーといっていいレーベルで。
新譜で出たときは、まだペレーニに注目していなかったということもあるのだが…。
このCDのことは、同じくペレーニを愛するかとちぇんこさんに御教示いただき、この盤の入手についてもお世話をいただいた。
かとちぇんこさんのWebpage"KLASSISCHER PLATZ"も充実したもの、特にCDエッセイ「KLASSISCHE MUSIK 1! 2! 3!」の筆力は、斉諧生の及ぶところではありません。ぜひ一度、御訪問ください。
 
エンリコ・マイナルディ(Vc)バッハ;無伴奏Vc組曲第1・2・3番(Orfeo)
そのペレーニの師匠にあたるマイナルディのバッハを見つけたので購入。
1957年7月31日、ザルツブルグ音楽祭でのライヴ録音である。
マイナルディは1897年ミラノ生まれ、1976年ミュンヘンで没した。神童として知られ、レスピーギのピアノ伴奏で演奏会をしたこともあったとか。
これも新譜の頃は、まだペレーニに注目していなかったせいもあって見逃していたもの。後半第4・5・6番の音源はあるのだろうか? CDは?
ペレーニの素晴らしいバッハ演奏の淵源が、あるいは発見できるか? 期待したい。

11月19日(金): 

 京都市交響楽団第419回定期演奏会(指揮:ウーヴェ・ムント)@京都コンサート・ホールを聴く。
 今日は、ステージ向かって左手の2階バルコニー席を取ってみた。最近ずっとポディウム席(ステージの向こう側)に座っていたのだが、たまには正面から聴いてみようと思ったのである。
 結果としては、あまりいい音響ではなかった。特に、打楽器(舞台左奥に配置)の音が壁沿いにくっきり伝わってきて、バランスを崩す感じ。
 次は、3階のバルコニーを試してみようと思う。

実は、2階正面の席を狙っていたのだが、そこは京響友の会が丸ごと押さえてしまっているとのこと。
さて、今日の曲目は、ちょっとムントのイメージと違う近代ロシア・プロで、
プロコフィエフ;組曲「3つのオレンジへの恋」
ストラヴィンスキー;Vn協(Vn:ジャン・ジャック・カントロフ)
同;バレエ音楽「ペトルーシュカ」(1947年版)
というもの。
第一の目的は、カントロフ。特に、ストラヴィンスキーの協奏曲は、彼のCDで開眼したので、ぜひライヴでも聴いてみたい。
第二には、京響が、どこまで「ペトルーシュカ」をこなすか。当初、年間予定では1911年版となっていたので、余計に期待(というか心配というか)したのだった。
 
プロコフィエフ;組曲「3つのオレンジへの恋」
これは、まずまず無難な仕上がり。ムントらしく、手堅く堂々とした音楽に演奏していた。
反面、プロコフィエフ的な機知とか諧謔には乏しかった。
一番有名な「行進曲」で、最初に主題を出すオーボエがくっきりしなかったのは残念。
 
ストラヴィンスキー;Vn協
お待ちかねのカントロフが、登場した瞬間、吃驚した。
頭の中にある彼のイメージは、細身の体躯にピシッと燕尾服を着ているのだが、目の前に現れた実物は、イヴリー・ギトリスそっくりのラフな衣装に、隠しようもなく突き出した腹。(^^;
それはさておき演奏だが、冒頭の例の「十一度の和音」を無造作にバーンと鳴らして開始。
意外に音が小さい。ホールのせいなのか、本人の問題なのか、23日に小ホールでソナタを聴くので、その時に確認したい。
実に鮮やかというか、楽々と弾いていく。曲が手の内に入りきっている感じである。
速いパッセージで音が潰れたり低音弦のフォルテの鳴りが悪かったりするのが気になったが、これは元来、曲がアクロバティックなせいかもしれない。
ともかく、全4楽章20分ほどが、あれよあれよと瞬く間に過ぎていった。
 
なお、ソリストが譜面台を使用、譜めくりを一部、指揮者が手伝うという、面白い光景が見られた。
また、作曲者は弦合奏の編成を8-8-6-4-4に指定しているが、斉諧生の目測では8-6-5-4-4であった(数え間違っていたら失礼)。
 
ストラヴィンスキー;バレエ音楽「ペトルーシュカ」
独奏ピアノに渡邉康雄が来演。
 
管楽器の布陣に目を惹かれた。一番オーボエに呉山平煥が復帰していたこともあるが、ファゴットのトップにジョヴァンニ・ガレッティが着席、クラリネット首席のサルヴァドーレ・レーニと並んで異彩を放っていた。
終演後の帰り道、ふと耳にした老婦人同士の会話。
「異人さんが増えはったなァ…」
チェロのトップサイドにドナルド・リッチャーが座っていたので、なおさら目に付いたのかもしれない。
もっとも、京響在籍の欧米人奏者は上記の3人だけなのだが。
 
閑話休題、肝心の演奏だが、実に感慨深かった。特別な名演奏というわけでもないのだが、「京響が『ペトルーシュカ』を立派に演奏できるまでになった」ということが、古くから聴いてきた者としては嬉しい限りである。
整理された1947年版とはいえ、なお複雑なリズムを弦合奏がキッチリこなしていた。
ムントが指揮するときの京響らしく、弦合奏がきちんと磨き上げられ、例えば、第4部の冒頭の響きの美しさなど、感涙ものであった。
打楽器陣も鮮やかに決めていた。
そうそう、各部をつなぐドラム・ロールも省略されず、きちんと演奏された。
素晴らしかったのは、やはり管楽器、特に木管で、中でもフルート(清水信貴)は音量・表情とも数多の名盤に刻まれた一流オーケストラの演奏に引けを取らない出来。第1部での人形遣いの笛など、素晴らしかった。
また、ファゴットは、瞬発的な表情の濃さが、実に効果を挙げていた。このあたりは日本人奏者だと、どうしても薄味になってしまうところだ。
残念ながら、オーボエは木管の中で一番弱くなってしまった。音は綺麗な人なのだが、音量が小さく、フルートよりも通らないくらい。また、表現の幅も狭く感じる。
 
驚いたのは終結。
楽譜では、弦のピツィカート4つで消えるように終わるところ。
ところが、今日の演奏では、ピツィカートのあとに全合奏のクレッシェンドが付加されていたのである!
そういえば京響の「ペトルーシュカ」というと、昭和61年1月に(もう13年前!)、当時の常任指揮者、小林研一郎で聴いたことがある。この時は、ストラヴィンスキーの記譜どおりの演奏会用終結を用いた。
つまり、ペトルーシュカ殺しからあとをバッサリ省略、祭の喧噪の最高潮で終わってしまうバージョン。
あの時も、終わった瞬間、あっけにとられたが、今回も吃驚した。
ひょっとしたら、その演奏会用終結の最後の部分をくっつけたのかも。
あえて言えば、蛇足の感なしとしない。

11月17日(水): 

 京都の十字屋四条店が改装なったというので、記念セールでもやっていないかと覗いてみた。

カーメン・ドラゴン(指揮)ハリウッド・ボウル響、「クリスマスの音楽」(EMI)
これは正直言って出谷啓氏の影響が大きいのだが、ドラゴンの管弦楽編曲ものは、面白いので好きである。
1957年録音のオリジナル・アルバムで、「樅の木」「天には栄え」「諸人こぞりて」「アデステ・フィデレス」「神の御子は今宵しも」「オ・ホーリィ・ナイト」「聖しこの夜」等、有名なクリスマス・キャロル13曲を収める。
斉諧生は中学・高校時代、いわゆるミッション・スクールにいて、別に信仰はなかったのだが、クリスマス行事には熱心に参加したものだ。
このディスクで聴ける曲の大半は、その若き(幼き?)日の想い出と結びついている。懐古の念とともに購入。
 
チョン・キョンファ(Vn)イタマール・ゴラン(P)「スーヴェニール」(EMI)
チョン・キョンファの最新小品集。
新譜の時は、ちょっと敬遠していたのだが、記念セールの特別価格で並んでいたので、この際と購入。

 さっそく聴いてみた。

カーメン・ドラゴン(指揮)ハリウッド・ボウル響、「クリスマスの音楽」(EMI)
やはりドラゴンの編曲の腕は冴えており、全13曲、まったく飽きさせない。
中では金管がバリバリ咆哮する「諸人こぞりて」が痛快そのもの!
あたかもビーチャム(指揮)ヘンデル;メサイア(グーセンス編曲版、BMG)のハレルヤ・コーラスの如し。

11月16日(火): 

 昨日買ったパレーのCDのデータをパレー・ディスコグラフィに追加。


11月15日(月): 

 日曜にWebの掲示板で、ケーゲルのブルックナーが店頭に並びだしたことを知り、退勤後、音盤屋へ捕獲に向かう。
 それに加えて、予期しない収穫多し。

ヘルベルト・ケーゲル(指揮)ライプツィヒ放送響、「ケーゲルのブルックナー 70年代のステレオ録音」(ODE) 
ヘルベルト・ケーゲル(指揮)ライプツィヒ放送響、「ケーゲルのブルックナー 別録音」(ODE)
前者が7枚組、後者が3枚組のボックス・セットである。分売はまだのようだ。
前者の収録曲と録音は、
交響曲第3番(1978年6月6日)Live
交響曲第4番(1971年9月21日)Live
交響曲第5番(1977年7月6日)Live
交響曲第6番(1972年12月12日)Live
交響曲第7番(1971年5月17〜28日)Studio
交響曲第8番(1975年3月11日)Live
交響曲第9番(1975年12月16日)Live
後者は、
交響曲第4番(1960年4月3日)Live、Mono
交響曲第7番(1961年5月9日)Live、Mono
交響曲第9番(1969年4月1日)Live
 
特記した以外はステレオ録音、次の2曲以外の録音場所は、ライプツィヒ・コングレスハレである。
第4番(1960年盤);ベルリン・コーミッシェ・オーパー
第7番(1971年盤);ライプツィヒ・ベタニア教会
また、全て、ケーゲル未亡人と中部ドイツ放送(MDR)響の承認を受けた正規のリリースである。
 
ブックレットはいずれも二つ折りの簡素なものだが、ありきたりの曲目紹介ではなく、ケーゲルの人となりや芸術についてのエッセイ(英文)である。筆者はフリッツ・ヘンネンベルク博士(元・ライプツィヒ歌劇場・演出監督Chefdramaturg)。
一つ興味深かったのは、ベームとの関係。
1930年代、ケーゲルがドレスデンで音楽学校に通っている頃、カール・ベームがドレスデン(ザクセン)国立歌劇場の音楽監督に在任し、R・シュトラウスのオペラを初演するなどの活躍をしていた。
ケーゲルはベームのリハーサルをつぶさに見学して、オーケストラの扱い方について、深く理解するところがあったという。
 
8番を少し聴いてみたが、録音は極めて鮮明、演奏も上乗の予感である。
 
ラファエル・クーベリック(指揮)バイエルン放送響、マーラー;交響曲第5番(audite)
クーベリックのライヴは、苦手なマーラーでも聴いてみたいので購入。スタジオ録音とはずいぶん違ったらしいので。
1981年6月12日のヘルクレス・ザールでのライヴ録音。バイエルン放送協会の正規音源からのリリースである。
余談だが、ジャケット写真のクーベリックが、実にいい顔をしている。
 
ポール・パレー(指揮)コンセール・コロンヌ管ほか、「パリ時代1932〜49年」(LYS)
パレーのフランス時代のSP復刻の3枚組が出ていたので、驚喜して購入。
野村あらえびすの名著『名曲決定盤』(中公文庫)でタイトルだけ見ていた、垂涎の録音ばかりである。
以下、収録曲。「」内は、あらえびすの評言である。
ベートーヴェン;交響曲第6番「田園」
「これはフランスのベートーヴェンであり、夢も詩もない『田園』であり、水蒸気のない、あまりに透明過ぎる『田園』である。技術的には見事だが、味に乏しいのである。」
同;トルコ行進曲
同;P協変ホ長調Woo4(オラツィオ・フルゴニ(P))
ムソルグスキー;「禿山の一夜」
「一枚物ではムソルグスキーの『裸山の夜』が良い。あらゆるこの曲のレコードの中で傑出したものだ。」
デュカス;「ラ・ペリ」へのファンファーレ
同;舞踊詩「ラ・ペリ」
ダンディ;フランス山人の歌による交響曲(マルグリット・ロン(P))
「非常に香気の高い良いレコードだと思う」
ベルリオーズ;序曲「ベンヴェヌート・チェッリーニ
同;ラコッツィ行進曲
サン・サーンス;P協第2番(ジャンヌ・マリー・ダルレ(P))
モーツァルト;Vn協第3番(ジャック・ティボー(Vn))
同;P協第9番(ギャビー・カサドシュス(P))
 
なお、SP時代の名演奏家に関心がある方は、上記の『名曲決定盤』を座右に備えられることをお薦めしたい。彼の洞察は、いまだに色褪せない。
 
ナタン・ミルシテイン(Vn)ウィリアム・スタインバーグ(指揮)ピッツバーグ響、ドヴォルザーク;Vn協&グラズノフ;Vn協ほか(EMI)
好きなヴァイオリニストの一人、ミルシテインのリマスタリング盤が出ていたので購入。
この2曲、なかんずくグラズノフは、ミルシテインの十八番と言われた。10歳の時に作曲者と共演したこともあり、アメリカ・デビューもこの曲で飾ったのである。
同じ組合せの新録音もあったが(指揮はラファエル・フリューベック・デ・ブルゴス)、一般的にはこちらの方の評価が高いようだ。
1957年4月のステレオ録音。
もっとも、ミルシテインには古典やドイツ音楽の方が名演が多いと思うが。
なお、シューベルト;交響曲第2番のモノラル録音をカプリング。
 
サシュコ・ガヴリーロフ(Vn)ギリード・ミショリー(P)バルトーク;Vnソナタ第1・2番(TUDOR)
昨日聴いたブラームスに感心したガヴリーロフの新録音が入荷していたので(何という偶然!)、一二もなく購入。
現代音楽を得意にしてきたガヴリーロフゆえ、バルトークにも大いに期待できよう。
1997年11月、バイエルン放送協会でのスタジオ録音である。
なお、このコンビで同じレーベルに、ヤナーチェク;Vnソナタ他の録音(1993年)もあり、そちらは架蔵済み。
 
パラディアン・アンサンブル、バッハ;トリオ・ソナタ集(LINN)
バッハがオルガンのために書いた6曲のトリオ・ソナタ(BWV.525〜530)を、元来の(?)室内楽によるトリオ・ソナタに復元(?)して演奏したCD。
バッハの作品の編曲には、アレンジの面白さと、どうアレンジしてもバッハらしさを失わない面白さとがあり、何となく買ってしまう。
リコーダーとヴァイオリンを旋律楽器とし、ヴィオラ・ダ・ガンバとリュート(ギター、テオルボ)を通奏低音としている。
4人の奏者のうちヴァイオリニストは、先頃CHANDOSレーベルからバッハ;無伴奏Vnのためのソナタとパルティータを出したレイチェル・ポッジャーである。
6曲の配列は必ずしも番号順ではなく、また、合間に4つのドゥエット(BWV.802〜805)の同様の編曲、最後に「ゴルトベルク変奏曲」の主題による14のカノン(BWV1087)を置く。
(訂正;上記記事のうち、ポッジャーがバッハをリリースしたレーベル名が間違っておりました。CHANDOSは間違いで、CHANNEL CLASSICSが正しいものです。謹んで訂正するとともにお詫び申し上げ、併せて御教示いただいた皆さんに御礼申し上げます。11月23日)

11月14日(日): 

 「ペトルーシュカ」4種聴き比べ。

ピエール・モントゥー(指揮)パリ音楽院管、ストラヴィンスキー;バレエ音楽「ペトルーシュカ」(1911年版)(DECCA)
モントゥーは、バレエの初演時の指揮者その人である。彼は、終生、1911年版しか振らなかった。
1957年録音のこのディスク、魅力は何と言っても、往年のパリ音楽院管の典雅な音色・響きに尽きる。
第1部冒頭のフルートの軽やかな美しさ、ややあって登場する手回しオルガンのクラリネットののどやかな味わい、金属味のないトランペットの雰囲気のある音色。
人形遣いのフルート・ソロはもちろん、それを導く木管合奏とチェレスタ・ハープ等の音色の混合美!
第3部、バレリーナの踊りでのコルネット、それに続くファゴット(バッソン)・フルートとの三重奏の美しさ!
弦合奏の縦の線や打楽器のリズム感は少々あやしいし、ホルンの高音域はちょっと頼りないが、そういうものには目をつぶって、この響きを愛でたいものである。
残念なことに、ステレオ最初期の技術的な制約からか、CD復刻時の問題か、録音に不自然さが残ること。妙にクローズアップされた音が聴こえるかと思うと、弦合奏は薄くしか聴こえない。
ピアノ・パートをジュリアス・カッチェンが担当しているのだが、録音の問題もあって、美しいタッチが生かし切れていない。
なお、ヴァイオリンを両翼に配置している。
 
ピエール・モントゥー(指揮)ボストン響、ストラヴィンスキー;バレエ音楽「ペトルーシュカ」(1911年版)(BMG)
上記のパリ盤の2年後、1959年の録音である。その間の技術の進歩か会社の違いか、こちらの音は極めて良好。
表現的にはパリ盤と酷似しているが、オーケストラの性格の違いが表面に出てくる。
こちらの方が、管楽器は全体に華やかな音色。しかし、溶け合った響きの美しさという点ではパリ音楽院管に一歩を譲る。
弦合奏は、録音とも相俟って、ボストン響の方が、しっかり弾いていると聴こえる。
演奏至難で知られる複雑なリズムは、さすがにこなしきれていない感もあるが、パリ盤よりは危なげがなく、モントゥーのペトルーシュカを聴くならば、こちらだろう。
 
ハンス・ロスバウト(指揮)アムステルダム・コンセルトヘボウ管、ストラヴィンスキー;バレエ音楽「ペトルーシュカ」(1947年版)(Philips)
1947年版は、ストラヴィンスキーが四管編成から三管編成に縮小し、オーケストレーションやリズムを整理したもの。
すっきりしたが、舞台作品的な味わいに関しては失われたものも多い。
第3部のバレリーナの踊りも、コルネットからトランペットに変えられ、柔らかみを失ってしまった。
ロスバウトの指揮は、そういう1947年版の特徴に添った、非常にリズムの切れの良い、明瞭なもの
オーケストレーションの隅々まで明らかにされ、スコアの絵解きを見ている感じさえある。録音も非常に優れており、とても1962年のものとは思えない。
第1部の「手回しオルガン」も、クラリネットが溶け合ったオルガン的な響きより、横の線の絡み合いが明確に強調される。
「ロシアの踊り」等でのリズムの切れ味は、実に迫力に富み、推進力を感じさせる。
バレエの舞台を思わせる…要素は薄いが、1947年版の再現としては、一つの極を達成したものと言えよう。
この盤は、ロスバウトの芸術の良いサンプルとして、もっと聴かれてよいものであり、バジェット・プライスの国内盤で入手できることを喜びたい。お薦めである。
もっとも、彼は、けっして洋泉社系の筆者が言うような「音楽を解剖するマッド・サイエンティスト」でない。それは、第1部の人形遣いのフルートを、モントゥーの両盤よりフェルマータを大きくとって、ゆったり歌わせていることからも聴き取ることができよう。
 
オットー・クレンペラー(指揮)ニュー・フィルハーモニア管、ストラヴィンスキー;「ペトルーシュカ」(1947年版)(TESTAMENT)
クレンペラーが1967年という時期に、この曲を演奏したがった理由はわからないが、彼の狙いはロスバウトと似たところにあったのではないか。
リズムを明確にし、ストラヴィンスキーのオーケストレーションの隅々までくっきりと聴こえさせる。
故・福永陽一郎氏が喝破したように、クレンペラーは、楽譜に書いてある音が、すべて、*あるべきように*鳴り、聴こえることを望んだのだろう。
モントゥーもロスバウトも省略した、第3部や第4部を導入する小太鼓の連打を、ちゃんと叩かせているあたりに、その片鱗を伺うことができよう。
問題は、オーケストラの合奏力不足か、彼の年齢から来るものか、特にリズムの扱いにおいて、重さが目立ってしまったことにあると思う。
冒頭のフルートからして、いくらなんでも、と思わせるギクシャクぶりである。
リズムの重さが、逆に*巨大さ*として作用している部分もないわけではない。
第3部冒頭のトロンボーンは怪鳥の雄叫びのようだし、同幕切れ近く、ペトルーシュカとムーア人の決闘の部分の迫力は凄まじい。
もっとも、第4部後半で、踊りの一つのまとまりの途中で減速する現象が2回ほど聴かれるが、これは疑問だ。
ニュー・フィルハーモニア管も、ソロ・パートには聴くべきものも多い(例のオーボエ・パートを除いて)。
なお、録音は極めて優秀。
 
カール・シューリヒト(指揮)バイエルン放送響ほか、ディーリアス;「海流」(archiphon)
録音は良好なモノラル。
やや速めのテンポをとり、響きの作り方など、ビーチャムやバルビローリ等のイギリス人指揮者のディーリアス演奏とはかなり違う。どことなくR・シュトラウス等のドイツ後期ロマン派の音楽を思わせ、この作曲家がドイツ生まれであったことを思い起こさせる。
バリトン独唱がクローズアップされ、オーケストラを覆うほどなのは残念だが、そこかしこに聴かれる木管のソロや独奏ヴァイオリンには、シューリヒト特有の詩情があふれている。特にオーボエは聴きものだ。
残念なのは、バリトンの歌唱がモッサリしていること。
なお、ブックレットにはホイットマンの原詩が掲載されているが、ここで歌われている独訳が掲載されていないのは、辛い。下記のマッケラス盤の独訳とも違うのだ。
 
チャールズ・マッケラス(指揮)ウェールズ・ナショナル・オペラ管ほか、ディーリアス;「海流」(ARGO)
前から架蔵しているマッケラス盤を取り出して、比較試聴してみた。
ディーリアスの抒情と陶酔に不足しない演奏。トーマス・ハンプソンの独唱も美しい。
ところが、こちらは合唱が不出来。オーケストラも下手ではないものの、特段の魅力までは備えていない。
 
オスモ・ヴァンスカ(指揮)BBCスコットランド響、ピツェッティ;管弦楽曲集より(hyperion)
収録されている4曲のうち、"Preludio a un altro giorno"と"Tre Preludii Sinfonici(per L'Edipo Re')"を聴く。
前者は1952年、72歳の作品、後者は1920年代の作だが、作風に大きな変化はない。前衛的なところは皆無、レスピーギの同時代人(1歳しか違わない)を思わせるもののままである。
後者は、たぶん(イタリア語は不案内なので)、ギリシア悲劇「オイディプス王」への付曲を想定して書かれたもの。
それもあって、いずれも悲劇味を帯びた英雄性を感じさせる音楽で、気持ちよく聴ける。
もっとも、悪く言えば、いくぶん映画音楽的な感じがしないでもない。
 
イェフディ・メニューイン(指揮)ローザンヌ室内管、モーツァルト;ディヴェルティメントK.136・セレナード「ポストホルン」ほか(Virgin)
期待どおりの好演。
弦合奏の生き生きとしたリズム、暖かい輝きのある音色、見事なモーツァルトである。
管楽器も「ポストホルン」等で繊細かつ美しい音色を聴かせてくれる。
録音も優れており、珠玉のような盤である。
 
ヨウコ・ハルヤンネ(Trp)ユッカ・ペッカ・サラステ(指揮)フィンランド放送響、ハイドン;Trp協(FINLANDIA)
高音域でも、けっしてうわずらない、見事にコントロールされたトランペット。
音色は渋めだが、音楽は鮮やか。もう少し、表情とか表現があってもよさそうな気もする。
 
ミクロシュ・ペレーニ(Vc)ゲザ・オーベルフランク(指揮)ブダペシュト・フィル、ドヴォルザーク;Vc協(洪HUNGAROTON、LP)
ペレーニの旧録音、いつもながら、過不足のない立派な再現。
ロストロポーヴィッチあたりなら、思いっきり見得を切る第1楽章再現部への突入部分も、実にあっさりクリアしてしまうのが、この人らしい。
もちろん、「あっさり」弾けてしまう、技術的な高さあってのことだ。
一つ特徴的だったのは、第1楽章224小節以降、"molto sostenuto"の指定に応えて、オーケストラとのアンサンブルが崩れないぎりぎりまでテヌートして、歌い上げるところ。
そこまでが、速めのテンポにのって調子よく追い込んできていただけに、対比が鮮やかであった。
オーケストラはあまり上手くなく、指揮も清潔だが特徴に乏しい。録音もパッとせず、イヴァン・フィッシャーとの新盤(LASERLIGHT)を押し退けるだけの存在価値はないと思う。
 
ヨゼフ・スーク(Vn)ジュリアス・カッチェン(P)ブラームス;Vnソナタ第3番(DECCA)
ちょっと「泣き」の入った音色(音程もフラット気味)が、ブラームスにぴったり。
しかし過度のセンチメンタリズムはなく、第2・3楽章でも、音楽はけっして崩さず、音色だけでモノを言っている。
ちょっと軟派なブラームスを好む人にはお薦めできる演奏である。
ピアノのカッチェンも良い。ピアノの録音がオフでタッチがボケ気味になっているのは残念だが、ヴァイオリンを凌がず、しかし引っ込みすぎない呼吸がいいし、音楽も実に真っ当なもの。
 
サシュコ・ガヴリーロフ(Vn)アルヌルフ・フォン・アルニム(P)ブラームス;Vnソナタ第3番(PODIUM)
スークとは正反対の、硬派な音色。音程も実にいい。
「泣き」が一切入らない音楽で、第2楽章アダージョも「嘆きの歌」にはならない、堂々たるもの。
斉諧生的には、スークよりも、こちらが好み。
手に入りにくいレーベルだが、ヴァイオリン愛好者には、お薦めしたい。
ピアニストの音楽に癖があるのと、残響過多な録音が残念。

11月13日(土): 

 通販サイトH&B Recordings DirectからCDが届いた。

バルトークQ、ミクロシュ・ペレーニ(Vc)ほか、シューベルト;弦楽五重奏曲ほか(HUNGAROTON)
ペレーニの未架蔵音源をオーダーしたもの。
この曲では、ゲスト・チェリストを第1・第2Vcどちらに入れるかということが、いつも問題になる。
合奏精度の観点からは第2に入れるべきなのだろうが、大物ソリストを招んだ場合など(ロストロポーヴィッチとか)第1に入れないと失礼、という問題である。
ここでは、謙虚(を通り越して奇人、と言う人もいる)なペレーニらしく、第2を弾いている。
1984年の録音、新ブダペシュトQによる四重奏断章(弦楽四重奏曲第12番)をフィルアップ。
いっとき、あちこちの輸入CD店で見かけたのだが、いつでも買えると思っているうちに姿を消してしまい、あわてて通販サイトを探すことになってしまった。
やはり、輸入盤と中古盤は見つけたときに買わないとダメ。
…なんてことを言っているから「音盤蟻地獄」なのであるが…。(^^;;;

11月11日(木): 

 

ヨルマ・パヌラ(指揮)イェーテボリ響ほか、シベリウス;管弦楽付き歌曲集(BIS)
サロネンサラステヴァンスカら、最近躍進中のフィンランド人指揮者の師匠、パヌラのシベリウス録音を発見したので購入。中古格安。
独唱はヨルマ・ヒュンニネン(Br)とマリー・アン・ヘガンデル
通常は管弦楽曲に分類される「ルオノンタール」も含まれている。
 
マーカス・クリード(指揮)RIAS室内合唱団、ブラームス;宗教合唱曲集(HMF)
以前、中古音盤堂奥座敷プーランクが取り上げられ、非常に評価の高かったRIAS室内合唱団の代表盤を中古格安で発見したので購入。
なお、奥座敷のプーランクのログは→ここを押して

11月9日(火): 

 

オットー・クレンペラー(指揮)ニュー・フィルハーモニア管、ストラヴィンスキー;「ペトルーシュカ」(1947年版)ほか(TESTAMENT)
またまた驚きの未発表音源が出た。
若い頃から同時代の音楽の紹介に熱心だったクレンペラー、ストラヴィンスキー演奏は珍しくなかったようだし、このCDにもカプリングされている「プルチネッラ」の録音もあった。
とはいえ、「プルチネッラ」のような作曲家の新古典派時代の作品ならともかく、こういう初期作が出てきたのには、意表をつかれた。
ライナーノートによると、事情は次のとおり。
1967年春、パウル・クレツキがニュー・フィルハーモニア管のコンサートを健康上の理由でキャンセルしたとき、クレンペラーが代わりに振ることになった。
予定されていたプログラムは、ハイドン;交響曲第101番「時計」マーラー;歌曲集「子どもの魔法の角笛」よりブラームス;交響曲第1番という、クレンペラーにお誂え向きのもの。
それなのに彼は、ブラームスの代わりに「ペトルーシュカ」をやる、と言い張り、EMIはコンサートに先立って3日間の録音セッションを行った。
しかしながら、演奏自体に発売できるだけの完成度が得られず、お蔵入りが決定。
その時には3日目の演奏を中心にマスターテープが作成されたが、今回は初日のセッションを中心に新たに編集作業を行ったという。
 
オリヴィエ・シャルリエ(Vn)ヤン・パスカル・トルトゥリエ(指揮)BBCフィル、ラロ;Vn協・ロシア協奏曲ほか(CHANDOS)
フランスの名手(パリ音楽院教授)、シャルリエの新録音を見つけたので、購入。
ラロの珍しい作品のカプリングである。付けがトルトゥリエなのも嬉しい。
ラロといえば「スペイン交響曲」だが、この曲は、スペインのヴァイオリニスト、サラサーテとの出会いから生まれ、彼によって初演された。
ここに収められたVn協は、それに先だって書かれ、やはりサラサーテが初演している。
序曲「イスの王」スケルツォニ短調をフィルアップ。

11月8日(月): 

 

イェフディ・メニューイン(指揮)ローザンヌ室内管、モーツァルト;ディヴェルティメントK.136・セレナード「ポストホルン」ほか(Virgin)
弦楽器の大家の指揮には、独特の暖かい味わいがもたらされることが多いが、メニューインも、その典型。
珍しくローザンヌ室内管を振ったモーツァルトを中古格安で見つけたので購入。
ポストホルンを、ナチュラル・トランペットの名手、クリスピアン・スティール・パーキンスが担当しているのも楽しみ。
1989年の録音。
 
カール・シューリヒト(指揮)バイエルン放送響ほか、ディーリアス;「海流」ほか(archiphon)
しばらく途絶えていた、このレーベルからのシューリヒトの放送録音が新譜で出ていたので、迷わず購入。
シューリヒトのディーリアス、考えただけでも詩情のかたまりのような気がする。大いに楽しみ。
1963年3月8日、ヘルクレス・ザールでのライヴ録音(モノラル)。
SP録音のシュテファン;管弦楽のための音楽(1912)をカプリング。
なお、晩年のシューリヒトと親交があったというガブリエル・サーブという人の交響曲第1番をカプリング。
 
ラファエル・クーベリック(指揮)バイエルン放送響ほか、自作;「オルフィコン」・「歌詞のないカンタータ」(MELISMA)
指揮者の自作自演となると買いたくなるのが、斉諧生の悪い癖。
ドラティの交響曲とか、スクロヴァチェフスキのイングリッシュホルン協奏曲とかがあったりする。
「オルフィコン」は1979年作曲、「3楽章の交響曲」と副題が付いている。
「歌詞のないカンタータ」は1980年作曲、合唱と管弦楽のための作品。
 
ジョルジ・パウク(Vn)アントニ・ヴィット(指揮)ポーランド国立放送響、バルトーク;Vn協第1・2番(NAXOS)
パウクの暖かいVnの音色は好き。
ハンガリー出身で、バルトークを得意にしている。NAXOSからは無伴奏ソナタなども出ていたが、協奏曲とあっては買わざるべからず。
 
マルガリータ・ヘーエンリーダー(P)広上淳一(指揮)バイエルン放送響ほか、ズーダー;P協ほか(CALIG)
広上淳一の未架蔵盤を見つけたので購入。
録音は1988年9月28日だから、彼が国際的なキャリアを始めたごく初期のもの。
ズーダーは1892年マインツ生まれ、1980年ミュンヘン没。これは1938年の作品で、「ピアノ、独奏クラリネットと管弦楽のためのアダージョとロンド」とも。
なお、クラリネットはエデュアルト・ブルンナー、同じ作曲家のピアノ小品数曲をカプリング。

11月7日(日): 

 今日は2枚の素晴らしいディスクに出会えた。

オスモ・ヴァンスカ(指揮)BBCスコットランド響、ベートーヴェン;交響曲第8番(BBC Music)
ライヴとは思えない完成度の演奏。残念ながら残響過多でダイナミック・レンジの狭い録音がスポイルしてしまっているが…。
この曲でポイントになる"sf"は、主として明るい音色で金管のアクセントを効かせることで処理しており、小気味よい。
残念ながら弦合奏のズッシリしたスフォルツァンドを聴くことはできない。もっとも基本テンポが速いので、ちょっと無理かもしれないが。
ヴァイオリンを両翼に置き、かつチェロ・コントラバスを第1ヴァイオリンとヴィオラの間に入れるという、古典的な配置によっていることと併せ、古楽器派の影響を受けているものと思われる。
一方、まことに面白いのは、第4楽章398小節以降で、"sf"をずらし、3拍子にしていること。これはシューリヒトの表現を採用したのであろうか??
また、第3楽章トリオで、ホルンが吹く主題のフレージングが独特、弧を描く頂点にブレスを入れるのである。これはひょっとしたら、カザルスの表現を採用したのであろうか??
何はともあれ、オスモ・ヴァンスカ、注目し続けたい指揮者である。
 
飯守泰次郎(指揮)東京シティ・フィル、ブルックナー;交響曲第4番(fontec)
正直言って、半分、「ハズレ」覚悟で買ったCDだが、何の何の、実に素晴らしいブルックナーであった。
まず、楽譜の問題だが、ノヴァーク版IV/2に基づきつつ、部分的に改訂版を採用している。
第1楽章325小節以下のティンパニ、第4楽章76小節のシンバルがそのはずだが、第1楽章169小節で、弦の入りを"fp"にしているのも改訂版にある表情かもしれない(ノヴァーク版ではpp又はppp、改訂版の楽譜は手元にないので確言はできないが)。
第4楽章後半でグロッケンシュピールを鳴らしている…とライナーノートに記述があり、これは少し心配の種だったのだが、練習番号Nの329〜330、333〜334小節で少し叩かせている程度で、別に珍妙な入れ方ではない。もっとも、あまり効果的でないと思うのだが。
 
まず、弦合奏の美しさに心を奪われる。
第1楽章冒頭のホルンを支えるところから、この特長は明らかだ。内声が充実した立体感や、随所に見られる"gezogen"や"▼(実際にはもっと細い)"等の指定をくっきり活かす緻密さ!
残念ながら、時に(特に後半で)高音域で音程に幅が出てしまうのは、ライヴゆえの傷か、非力さか。
木管楽器、金管楽器の和音も極めて美しく、ブルックナー独特の金管の咆哮も、全然煩くならない。ソロが薄味なのは日本のオーケストラの通弊だが。
例えば、第1楽章の練習番号K、288小節のfffの厚みのある響きは、ブルックナー・ファンなら随喜の涙を流すだろう。そのあとの緊張の持続が、325小節以下のティンパニ(上記)で解決される運びも素晴らしい。
バランスのよさも特筆したい。録音の手柄でもあろうが、金管が轟然と鳴り渡っても、その下の弦合奏がちゃんと聴こえる。
テンポの緩急も、いわゆる「ブルックナー・サウンド」そのもので、第2楽章213小節からテンポを落とし、さらに221小節(練習番号P)で、もう一段減速するのは、感涙もの。
この曲の中心となる第4楽章も、43小節からの主題の巨匠的提示、とりわけティンパニの最後の1音をくっきり区別して打たせるところで成功を約束する。
221小節からの第1ヴァイオリンのトレモロ、とりわけ224小節でのクレッシェンドの繊細な美しさ!
316・320小節でのテンポを落として粘るところ、もう、ブルックナー・ファン随喜である。
350小節以降の繊細さ、383小節以降の壮麗な響き、終結に向けての持続、素晴らしいの一語に尽きる。
 
朝比奈隆に続く日本のブルックナー指揮者として、飯守泰次郎の名を挙げたいと思う。
来春に発売されるという7番が、実に楽しみ。
(附記)
改訂版の指定について、楽譜をお持ちの方から御教示をいただいた。それによれば、
第1楽章325小節以下のティンパニと第4楽章76小節のシンバルは、やはり改訂版で追加されている。
第1楽章169小節での弦は、
第1Vn〜Vaf、171小節からdim.、173小節1拍めでp
Vc・Cbはアクセント付きのf、170小節からdim.、172小節でppと、更にディミヌエンド記号が付されている。
とのこと。
御教示に心から謝意を表します。<(_ _)> (11月13日)
 
イヴァン・フィッシャー(指揮)ブダペシュト祝祭管ほか、ブラームス;ハンガリー舞曲全曲(Philips)
なにやら、ハンガリーのオーケストラの来日公演のアンコールを聴いているような「ノリ」である。
けっこう大胆なテンポの揺らし、ポルタメント等が頻発。
ただし、いつもの彼らの演奏よりは、粗いものを感じる。
期待(?)していたジプシー・ヴァイオリンやツィンバロンだが、あまり目立った音の録り方ではなく、ちょっと拍子抜け。
また、録音全体も、少しダンゴ気味。
このコンビには、もっと、いいディスクを作ってほしいもの。
 
トルルス・メルク(Vc)イェフディ・メニューイン(Vn、指揮)ポーランド室内管、ヴィヴァルディ;Vn&Vc協(EMI)
メニューインが中心のディスクだが、彼の音が豊かさを失っており、少々、聴いていて気の毒だった。
しかし、メルクのチェロは実にノーブル、「チェロの貴公子」の異名をほしいままにするといえよう。(って勝手に言ってもダメかな?)
弦合奏も上手く、いい響きをしている。
 
トルルス・メルク(Vc)サイモン・ラトル(指揮)バーミンガム市響、エルガー;Vc協(Virgin)
期待に違わず、素晴らしい演奏
元来が技術的には非常に高い人である上、今回のエルガーは更にespressivoの表現力に凄みが加わったから、鬼に金棒である。
第1楽章冒頭のソロは朗々と、そのあとの"ad lib."のパッセージの憂愁。
その表情が、ヴィオラやチェロの合奏に、そのまま受け継がれるところはラトルの上手さだろう。全体に、渋い響きを一貫させている。
"poco allargando"から管弦楽のトゥッティを導く上昇音形の頂点となる高音で、なおヴィブラートを深くかけて美しく歌えるのは、この人ならでは。
第2楽章では、レシタティーヴォでの深い味わいと、アレグロ・モルトの軽やかな疾走の、両方が全うされている。
第3楽章でもコクのある音色で歌い、第4楽章は力強く。
デュプレの凄演を除けば、それに次ぐ名演として推せるのではないか。

11月6日(土): 

 H&B Recordings Directから荷物が届いた。CD3点は、アンゲルブレシュト絡みである。

アラン・マリオン(Fl)ルイズ・アンドレ・バリル(P)アンゲルブレシュト;ソナチネほか(ANALEKTA)
アルバム・タイトルが"Autour de Debussy"(「ドビュッシーを回顧して」くらいの感じか?)、彼の「牧神の午後への前奏曲」・「シランクス」とともに、キャプレピエルネケックランデュカスといったドビュッシーゆかりの作曲家のFl作品を収めている。
アンゲルブレシュトのソナチネは、本来、フルートとハープのための作品だが、ここではピアノで演奏している。
なお、マリオンは三協製のフルートを使用しているとのこと。
 
デヴィッド・ネトル&リチャード・マーカム(2台P)アンゲルブレシュト;『子守歌』より「アヴィニョンの橋の上で」ほか(CARLTON)
イギリス人のピアノ・デュオによる、フランス名曲選。
ミヨー;スカラムーシュが入っているのはもちろんだが、自分たちで編曲したカントルーヴ;バイレロがあったりする。
アンゲルブレシュトの作品は、1907〜1936年にかけて、6曲づつ6巻、計36曲が出版されたフランス民謡の編曲である(オリジナルはたしか四手ピアノ用)。
「アヴィニョンの橋の上で」は、第3巻(1911年)の第4曲に当たる。原曲はもちろん「♪輪になっておどる〜」で有名なもの。
しかし、CD1枚中、1分33秒とは…。(@_@;)
 
デジレ・エミール・アンゲルブレシュト(指揮)ドリーブ;歌劇「ラクメ」よりバレエ音楽ほか(MALIBRAN)
SP期に各社から出た「ラクメ」のアリア等を1枚に集めたCDで、アンゲルブレシュトの演奏は、10分強のバレエ音楽のみ(オリジナルはPathe)。
なお、オーケストラについては、表記がない。
 
ジャン・クロード・カサドシュス(指揮)フランス国立リル管ほか、フォーレ;レクイエム&プーランク;グローリア(KULTUR、ビデオテープ)
JCCことカサドシュスの未架蔵CDと思いこんでオーダーしたのだが、着いてみればビデオテープ。(^^;
独唱はバーバラ・ヘンドリクス(Sop)、カール・ヨハン・ファルカム(Br)。
箱の表記・写真など、むしろヘンドリクスのアルバムとして製作されている。
ビデオには詳しいデータの記載がないが、このうちフォーレは、以前、LDで国内発売されていた映像と同じだろう(プラッツ、PLLC5003、1990年3月発売)。
その時のデータによれば、合唱は北カレー合唱団、1988年6月、サンドニ大聖堂でのライヴ収録ということである。

 上記CD3点のデータをアンゲルブレシュト・ディスコグラフィに追加。


11月5日(金): 

 

イヴァン・フィッシャー(指揮)ブダペシュト祝祭管ほか、ブラームス;ハンガリー舞曲全曲(Philips)
コチシュとのバルトーク;P協全集以来、けっこうファンになっているこのコンビの新譜なので購入。
ヨーゼフ・レンドヴァイ父子のジプシー・ヴァイオリン、オスカル・エクレシュのツィンバロンをフィーチャー。
力のある指揮者・オーケストラなのだが、こういうお国ものしかやらしてもらえないのが気の毒。まぁ、紙ジャケット仕様での発売だから、ある程度力を入れてもらっているのかもしれないが…。
 
矢崎彦太郎(指揮)大阪センチュリー響ほか、ラヴェル;バレエ音楽「マ・メール・ロワ」&プーランク;「子象ババールの物語」(東芝EMI)
斉諧生が国内の団体中最もひいきにしているオーケストラ、大阪センチュリー響の新録音が発売されたので、とにかく購入。
今年8月31日〜9月2日に録音されたもの。そのニュースは奥田一夫@センチュリー響首席Cb奏者のBBSコントラバス弾きの広場でも報じられていたが、こんなに早く発売されるとは思わなかった。
どうも家庭向きに企画されたディスクらしく、ジャケットの装画は子どもの絵、幸田弘子によるナレーション入り。
「マ・メール・ロワ」はバレエ音楽全曲版、「子象ババール」はフランセ編曲。
斉諧生的には、ナレーションにトラックを打って、スキップして音楽だけ聴けるように作ってほしかったところだ。
(附記) 上記のナレーションの扱いだが、ちょっと聴いてみたところ、スキップできるわけもない。音楽にかぶせて録音されている! これは酷いなァ…。
 
ハンス・クナッパーツブッシュ(指揮)ウィーン国立歌劇場管ほか、R・シュトラウス;歌劇「薔薇の騎士」(BMG)
1955年11月16日の上演をオーストリア放送が録音したものの正規音源からの復刻。
この日付には大きな意味がある。戦災で破壊された国立歌劇場が修復され、カール・ベーム(指揮)の「フィデリオ」で再開されたのが同年11月5日。
この上演は、再建記念の一連のプレミエの、ハイライトとなるべきものであったのだ。
特にウィーン劇場がリハーサル会場にあてられ、総稽古のためにセットが組まれ、歌手、合唱、オーケストラが集められたところへ現れたクナッパーツブッシュ、口癖の
「あなた方はこの曲を御存知です。私も知っています。それじゃ、なんのために練習しますか?」というセリフとともに、出て行ってしまった。
(オットー・シュトラッサー『栄光のウィーンフィル』音楽之友社による)
主な歌手は次のとおり。
  元帥夫人    マリア・ライニンク
  オックス男爵  クルト・ベーメ
  オクタヴィアン セーナ・ユリナッチ
  ゾフィー    ヒルデ・ギューデン
チラッと聴いてみたが、音は非常にきれいである。
なお、これはタワーレコードが格段に安い値付けだった。

11月3日(祝): 

 リンク集電網四方八通路に新着サイトを追加。


11月2日(火): 

 

フランツ・ヴェルザー・メスト(指揮)カメラータ・アカデミカ・ザルツブルグ、シュレーカー;室内交響曲ほか(EMI)
BBS現代音楽研究室で話題になったシュレーカーを聴いてみようと、購入。
オペラ「はるかな響き」も欲しかったのだが、店頭に見当たらず。また通販サイトで探してみることにする。
シューベルト;弦楽四重奏曲第14番「死と乙女」(マーラーによる弦楽合奏版)をカプリング。
 
エステル・ペレーニ(Vn)「献呈作品集」(HUNGAROTON)
CD屋のカウンターに↓のオペラ全曲盤を持っていったら、ちょうどHUNGAROTONの新入荷品が整理中だった。
ミクロシュ・ペレーニ(Vc)を集めているので、このレーベルは見逃せない。一言断ってチェックさせてもらうと、あったあった、彼が参加している録音が! さっそく購入。
同姓のヴァイオリニストとの関係が分からないのだが、エステルは1943年生まれ、ミクロシュは1948年生まれ。
これはハンガリーの現代作曲家から献呈された作品を集めた盤で、ことごとく知らない名前が並んでいる。(^^;;;
無伴奏曲や、ギュラ・キシュ(P)との二重奏もあるが、お目当てのチェリストが登場するのは、Janos Vajda;VnとVcの二重奏曲。約12分の曲である。
 
ヤープ・テア・リンデン(Vc)バッハ;無伴奏Vc組曲(HMF)
突如として(?)輸入盤店の店頭を賑わしているHMFのバジェット・プライスのバッハ・エディションから、無伴奏Vc組曲を購入。
僅か2年ほど前の新譜、その時にも買おうかどうしようか迷って見送ったもの、この値段なら即、である。
テア・リンデンは、コープマン等との共演で知られる古楽器奏者、第6番では5弦チェロを使用しているとのこと。
それにしても、この曲集の全曲盤も増殖してきたなァ…。(^^;;;
 
カール・ベーム(指揮)シュターツカペレ・ドレスデンほか、R・シュトラウス;歌劇「エレクトラ」(DGG)
最近、よくチャットで御一緒するMusik PlatzのWebmasterに、R・シュトラウスのオペラのお薦めをお尋ねしたところ、これを挙げていただいたので、購入。
ベームの引き締まった音楽と、エラクトラのインゲ・ボルクの素晴らしい歌唱が、凄いそうだ。
1960年のスタジオ録音、LP期の代表盤でもあった。
しかし、対訳もない輸入盤、どうしよう…? (^^;;;
 
エーリヒ・ラインスドルフ(指揮)ミュンヘン放送管ほか、コルンゴルト;歌劇「死の都」(BMG)
以前は映画音楽作曲家としてのみ有名で、ハイフェッツやパールマンが録音したVn協くらいしか知られていなかったコルンゴルト、最近、再評価の声が高い。
彼がアメリカに渡る前、1920年に初演されたオペラで、代表作と目される曲。先年、井上道義が京都市響で日本初演したのも記憶に新しい(残念ながら斉諧生不参)。
↑のシュレーカー同様、BBS現代音楽研究室で話題になり、ひとつ聴いてみようと購入。
この盤は1975年の世界初録音。独唱陣にはルネ・コロ等が参加している。
しかし、この調子でオペラの全曲盤が増殖していったら、どうしよう…? (^^;;;

平成11年10月24日(日): ラハティ交響楽団シベリウス・チクルス特集を掲載。

平成11年8月28日(土): 「逸匠列伝」にカール・フォン・ガラグリを掲載。

平成11年5月9日(日): 「作曲世家」にリリー・ブーランジェを追加。

平成10年5月5日(祝): 「作曲世家」にステンハンマルを掲載。

平成10年2月8日(日): 「逸匠列伝」にルネ・レイボヴィッツを掲載。

平成9年11月24日(休): 「名匠列伝」に、アンゲルブレシュトを追加。

平成9年9月15日(祝): 「畸匠列伝」に、マルケヴィッチを掲載。

平成9年8月24日(日): 「名匠列伝」にカザルスを追加。

平成9年8月8日(金): 『斉諧生音盤志』を公開。


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