音盤狂日録


9月29日(水): 

 

レオポルト・ストコフスキー(指揮)シカゴ響、バッハ(ストコフスキー編);トッカータとフーガニ短調ほか(VAI、ビデオテープ)
月初めに買ったライナーセルに続いて、シカゴ響の歴史的映像が2点発売されていたので購入。
ストコフスキーの指揮姿は、戦前の映画「オーケストラの少女」で見た記憶もあるが、これは1962年1月3日の収録。
彼のテーマ音楽というべき標記のバッハの他、ブラームス;ハイドン変奏曲R・コルサコフ;スペイン奇想曲を収録。
 
ピエール・モントゥー(指揮)シカゴ響、ベートーヴェン;交響曲第8番ほか(VAI、ビデオテープ)
これは狂喜乱舞の1本である。
モントゥーのフィルムは長く未見だったが、今年の正月にNHKで放送された『20世紀の名演奏』でロンドン響との来日時の映像が取り上げられ、風格あたりを払う指揮姿に感銘を受けたものである。
とはいえ放送時間は極めて短く、欲求不満を残したが、今回のテープは45分間にわたって、標記のベートーヴェンのほか、ワーグナー;「マイスタージンガー」第3幕への前奏曲ベルリオーズ;序曲「ローマの謝肉祭」を収録。
収録は1961年1月1日。

9月27日(月): 

 

レオポルト・ストコフスキー(指揮)ニュー・フィルハーモニア管、スクリアビン;法悦の詩&ベルリオーズ;幻想交響曲(BBC LEGENDS)
BBCのライヴ・シリーズの新譜、先日は見送ったのだが、サロ様城での情報によれば、とりわけスクリアビンが素晴らしいとのことなので、追加購入。
1968年6月18日のロイヤル・フェスティヴァル・ホールでのライヴだが、両曲ともストコフスキーにはスタジオ録音があった。
なお、ストコフスキーのインタビュー(約9分)付き。
 
次の2枚は、北欧でのローカル・リリースのため、輸入盤としては日本に入ってこないものだが、さるステンハンマル愛好家の御厚意により、御旅行先のストックホルムで入手していただいたもの。
この場を借りて御礼申し上げます。<(_ _)>
 
ラルス・ルース(P)「北欧のピアノの抒情詩」(Philips Sweden)
ピアニストは未知の人だが、ジャケット写真を見たところ四十代半ば(?)、ブックレットによればCDも10枚弱リリースしているようだ。
ステンハンマル;3つの幻想曲op.11のほか、作品番号のない小品間奏曲即興曲ワルツ風即興曲を収録している。
その他、リンドベリグリーグペッタション・ベリエルシベリウスシンディングセヴェルーの小品を収録。
 
イェスタ・ヴィンベリ(Ten)マッツ・リリエフォシュ(指揮)王立スウェーデン室内管、「スウェーデンの心の歌」(Sony Classical Sweden)
ヴィンベリはストックホルム生まれ、ストックホルム・オペラやドロットニングホルム音楽祭オペラで歌った後、チューリヒ・オペラでアーノンクール&ポミエのモーツァルト・シリーズで活躍、その後は世界の主要なオペラで歌っている。
これはスウェーデン国歌から民謡までを収めたアルバム、ステンハンマル;スヴァーリエが入っている。
なお、オーケストラはスウェーデン国王のパトロネイジを受けている…とあるので、"Royal"は問題なく「王立」と訳すことになる。
それにしても、国歌を「心の歌」として歌うことのできるスウェーデン、羨ましいといえよう。

 今日届いたものをはじめ、最近入手したCD・LPのデータをステンハンマル 作品表とディスコグラフィリリー・ブーランジェ 作品表とディスコグラフィに追加。


9月26日(日): 

 昨日届いたLPを取っ替え引っ替え聴く。

カルロ・ゼッキ(指揮)スロヴァキア・フィル、ハイドン;交響曲第44番「悲しみ」(チェコSupraphon、LP)
きりりとしたフレージング、張りのある音、いい音楽である。この人は、もっと評価されていい指揮者だ。
録音的には少し不満が残る。
 
パーヴォ・ベルグルンド(指揮)フィンランド放送響、シベリウス;交響曲第4番(英DECCA、LP)
FINLANDIA盤LPと「鳴き比べ」をしてみたが、一長一短と言うところか。
中音域の温かさ・充実でDECCA盤、周波数レンジ・ダイナミックレンジの広さや余韻の広がりでFINLANDIA盤。
 
アレクサンダー・ギブソン(指揮)スコットランド・ナショナル管、シベリウス;「恋する人」(英RCA、LP)
この弦合奏は美しさの極み。素晴らしい曲だと思わせられる。
 
小林研一郎(指揮)ブダペシュト響、R・シュトラウス;「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快な悪戯」(洪HUNGAROTON、LP)
↓昨日の項に引用したような事情からか、確かに「コバケン」的な熱さ・一回性の思い入れはないが、過不足ない立派なR・シュトラウスである。
もっともオーケストラの地力に今一歩の面があり、名盤目白押しの中では分が悪かろう。チェコ・フィルあたりと再録音を望みたい。
 
ヘルベルト・ブロムシュテット(指揮)ストックホルム・フィル、ステンハンマル;間奏曲(カンタータ「歌」より)・組曲「チトラ」(瑞EMI、LP)
間奏曲は、ゆっくりしたテンポで弦合奏を中心に旋律が盛り上がっていく…という趣の曲だが、全曲録音のときのものより、「熱さ」を感じる。音的にも、CDより厚みがある。
「チトラ」はCDに繊細美きわまりないサロネン盤があるので分が悪い。大味に聴こえてしまう。妙にチェレスタがピックアップされる録音も変。
 
ヨゼフ・シヴォー(Vn)ホルスト・シュタイン(指揮)スイス・ロマンド管、プロコフィエフ;Vn協第1番(第2楽章)(英DECCA、LP)
ヴァイオリンは健闘しているのだが、他の名手に比べると、もう少し切れがあれば…と思う。むしろグラズノフに適性のある人かもしれない。
管弦楽は堂々たるもので、これは感心。ただ、独奏者の方向性に合わせるなら、もう少し軽妙さが必要。
 
ポール・トルトゥリエ(Vc、指揮)ロンドン室内管、ハイドン;Vc協第2番(英UNICORN、LP)
管弦楽の序奏が、ずいぶん柔らかく、優美な表情なのに吃驚。トルトゥリエならもっと骨っぽい音楽ではないか…と予想していた。
チェロの音色もEMI録音とは少し異なり、やや甘口。ただ、高域での詰まった感じ・音程の甘さが強調された感じで、聴いていて最後まで違和感があった。
使用楽譜が通常のものと異なるようで、かなり技巧的で難しそうなパッセージが入っている。
 
アルト・ノラス(Vc)パーヴォ・ベルグルンド(指揮)ボーンマス響、ブリス;Vc協(英EMI、LP)
ブリスはストラヴィンスキーエルガーの影響を強く受けたそうだが、この曲にもリトミックな動きとイギリス風の抒情が交錯している。
1楽章後半でチェロがピツィカートを掻き鳴らすところなど、エルガー;Vc協そっくり。(^^;
終楽章冒頭はマーラー;交響曲第7番の終楽章のごときティンパニの連打。痛快な音楽。
ただ、全体に今ひとつ印象的な部分、魅力的な部分がなく、他の演奏者の盤も集めてみたい…とも思わなかった。
 
アーヴェ・テレフセン(Vn)スティグ・ヴェステルベリ(指揮)スウェーデン放送響ほか、ステンハンマル;2つのセンチメンタル・ロマンスほか(瑞Caprice、LP)
英crd盤と「鳴き比べ」、これはCaprice盤が圧勝。音のリアリティが全然違う。
もっともcrd盤は聴きやすい音にまとめてあり、それなりのメリットはあろうが。
 
ミクロシュ・ペレーニ(Vc)ゾルタン・コチシュ(P)ブラームス;Vcソナタ集(洪HUNGAROTON、LP)
CD同様ピアノにウェイトのかかった録音バランス。ただ、チェロの音のボディがしっかりしており、両者の拮抗が、ぎりぎりのところで成立している。
まあ、チェロとピアノの本来の音量差が、しっかり出てしまった…ということなのかもしれないが。
この曲については、再録音を望みたい。ペレーニの音楽は、このLPに記録されているようなものではないはず。
 
ポール・トルトゥリエ(Vc)マリア・デ・ラ・パウ(P)サン・サーンス;アンダンティーノ(仏EMI、LP)
Vn協第3番第2楽章を編曲したものである。
ピアノの音が何とも薄っぺらく、奏者に気の毒なくらい。チェロは、まずまずしっかり入っているので、まるで別の部屋で録音したみたい。
ここでのトルトゥリエのソロはしっかりしており、立派なもの。
 
ペーター・ザードロ(Marimba)バッハ;無伴奏Vc組曲第1番(schwann-KOCH)
これは素晴らしい。愛聴盤になりそうだ。
演奏・録音とも優れているのだろう、音色が実に美しい。
その上、アゴーギグやデュナーミクが絶妙、ちっとも機械的な感じを受けない。
サラバンドはさすがに苦しいが、それでも何とかしているところはさすが。
 
ロヴロ・フォン・マタチッチ(指揮)チェコ・フィル、チャイコフスキー;交響曲第6番「悲愴」(チェコSupraphon、LP)
このところ続いている「悲愴」の聴き比べ。
この演奏は、昔々、1,300円の国内廉価盤LPで聴いて以来。
その時の印象は、「特に変わったことはしていない」というものだったが、やはり今回も同様に、「端正」・「篤実」といった感想である。
粘るとか崩すとかいったことが、ほとんどない。第1楽章305小節で第2主題が再現するところも譜割りどおりで全然、引っ張らない。
第3楽章でも金管の音を重くしないので、非常に軽快な行進曲に仕上がっている。
楽譜にも非常に忠実。チャイコフスキーが、こまめに書き込んだ<>や速度の変動にも、他の指揮者より敏感に反応している。
第1楽章の121小節で弦がスピッカートからテヌートになるところの描き分けや、第2楽章の23(118)小節の最後の四分音符を流さずにくっきりテヌートさせるところなど、感心した。
第1楽章87小節と88小節でスラーが切れているのも、そのとおりに弾かせるし、201小節以下のトロンボーンのコラールも(スラーでつながっていないからだろう)マルカートで吹かせる律儀さ。
格別変わったことはしていないのだが、先日のオーマンディ盤とは違って、不満には思わなかった。
マタチッチが、十分に感じているのは、両端楽章の第2主題の心に沁みる音色を聴けば明らかだ。
ただ、木管がチト頼りないのには、少々フラストレーションが残った。
 
ヴィヤチェスラフ・オフチニコフ(指揮)モスクワ放送響、チャイコフスキー;交響曲第6番「悲愴」(日ビクター、LP)
オフチニコフは指揮者としてより作曲家として有名で、特にセルゲイ・ボンダルチェク監督の長い長い映画「戦争と平和」の音楽で知られている。
これは、1982年、アナログ末期の録音で、斉諧生も新譜で出たのを見たことを憶えている。
当時、褒める評論家もいたので、2・3年前に中古盤で見つけた折に購入していた。
それが最近、いわゆる「爆演系」として評判がたっているらしく、当「斉諧生音盤志」の読者の方から問合せを頂戴したりしたので、久しぶりに取り出して、聴いてみた。
なるほど、冒頭のファゴットからして、かなり重い音色で粘っこく吹いている。
何より金管がガンガン鳴っており、非常に刺激的だ。
ところが、第1楽章の第二主題など、けっこうあっさりと通過してしまう。いや、多少の「思い入れ」は付いているのだが、まあ、ありきたりのもので、そこまでの「爆裂」ぶりとのバランスが取れていない。
聴き進むにつれて、この刺激は、指揮者の音楽づくりよりも、録音上のものだという気がしてきた。
個々の楽器をクローズアップしたマイク・セッティングと、高域が持ち上がり気味のエネルギー・バランス。弦が、かなりメタリックに響く。
中間楽章は両方とも流し気味で、第2楽章で主要主題が再現するところ(95小節)も何の工夫もない。第3楽章では縦の線が多少、乱れ気味。
フィナーレでは、まずまず真実味のある思い入れを聴くことができてホッとした。とはいえ、115〜136小節あたりの金管の響きはいかにも未整理のバランスだ。

 23・25日の演奏会のデータを演奏会出没表に追加。


9月25日(土): 

 京都市交響楽団特別演奏会(指揮:ウーヴェ・ムント)@京都コンサート・ホールを聴く。
 例によってポディウム席(ステージの向こう側)の当日券を購入。京響では1,500円と格安である。
 それ以上に、響きやバランスはまずまず良いが、音の飛びが悪いこのホールでは、管楽器のソロやコントラバスの低音が、くっきり聴こえるのはP席である。
 ヴァイオリンが遠くなる等、バランスに多少の問題はあるのだが。
 なお、チェロの首席奏者ピーター・バランが退団したのか名簿から名前が無くなって「客演首席」としてヴァーツラフ・アダミーラという銀髪の奏者が加わっている。
 また、オーボエ・パートも首席不在となっており、プログラム後半では「客演ソリスト」として招かれた柴山洋が1番オーボエとイングリッシュ・ホルンを持替で吹いていた。

さて、今日の曲目は、オール・シベリウス・プロで、
「フィンランディア」
「悲しきワルツ」
組曲「カレリア」
4つの伝説曲
というもの。
「フィンランディア」初演100年記念の企画なのだろうか。
あまり一般受けしそうにない曲目…と思っていたのだが、入りは普段の定期演奏会並みだった。
 
「フィンランディア」は、ドイツ系の指揮者らしく、ズッシリした入り方。その重みを引きずって、主部の"Allegro moderato"は遅めに始め、小節の"Allegro"で軽快に転じる。
このテンポの違いを出すのが大事と教わった。
中間部、例の「讃歌」の旋律では、特に弦合奏になるところが実にしみじみした感じで良かった。
逆に言えば、あまり熱っぽくない「フィンランディア」だったのである。
コーダの金管が、もう少しパワフルだと良かったのだが。
 
「悲しきワルツ」では、シルキーな弦合奏(弱音器付き)が、実に良かった。
中間部でテンポがどんどん遅くなっていく味わいにも満足。
 
組曲「カレリア」も良い出来映えだった。
特に、ホルンが強奏も弱奏もきれいに決まり、中でも第3曲の116〜117小節で、一際高らかに吹き上げるところが、実に気持ちよかった。
 
4つの伝説曲の全曲演奏は、わが祖国より頻度が低いと思うが(そういえばムントは昨年こちらの全曲演奏もしていた)、充実した音楽を聴かせていた。
P席にいたおかげで、ムントが歌う(というか管楽器に向かって「タカタタカタカ!」等と刻んでみせるのである)のもよく聴こえた(^^;
「トゥオネラの白鳥」(通常どおり第2曲に演奏)でのイングリッシュ・ホルンも、ちょっと虚無感を湛えた優れた独奏だったし、それを支える弦合奏も実に見事な響き。
ただ、斉諧生的には木管にはもっと清澄さを、金管にはもっと厳しい自然音を求めたいのだが、これはオーストリアの指揮者と日本のオーケストラという組合せには無い物ねだりだろう。
 
思うに、ムントが振るときの京響は、普段より一段も二段もグレードが上がる感じである。
格別個性的な・強烈な印象を残す音楽ではないのは事実だが、聴いていて、「ああ、いい音楽だなぁ…」と思わずにはいられない。
ムントは白髪白髯だが1941年生まれだからまだ60歳にならない。ひょっとしたら、ヴァントヨッフムのような大成をする可能性もあると思う。
近隣の方には、ぜひ一度、耳にしていただきたい。

 出かける前に通販業者からLPが届いた。また、コンサートホールの前にCD屋を廻る。

カルロ・ゼッキ(指揮)スロヴァキア・フィル、ハイドン;交響曲第44番「悲しみ」&第49番「受難」(チェコSupraphon、LP)
ゼッキは草津国際音楽祭ライヴのモーツァルト;交響曲第41番が、なかなか良かったし、チェコ・フィルを振った幻想交響曲も素晴らしいという話を聞いていたので、気になっていた。
彼のディスコグラフィは全然知らないのだが、ハイドンを見つけたのでオーダー。
ハイドンは指揮者の音楽性や力量が、はっきり出るように思うので、ゼッキの芸術を確かめるには好適。
 
アレクサンダー・ギブソン(指揮)スコットランド・ナショナル管、シベリウス;「歴史的情景」組曲第1・2番ほか(英RCA、LP)
ギブソンのシベリウスは評価しているので、これは前からの探求盤。ようやく見つけたので即オーダー。
彼は後にChandosから交響曲全集を出しているが、これはその少し前の録音。英RCAからは、これも含めて、LP4枚分の管弦楽曲を出していた。
「恋する人」「抒情的なワルツ」op.96-1をフィルアップ。
実はこの盤、ジャケットに"A Chandos Production"と入っており、ブライアン・カズンズら現CHANDOSのスタッフが録音製作、英RCAから発売されたもの。後にCHANDOSからCD化されている。
アナログ録音なのでCDよりLPをと前にCHANDOSのLPを購入したら、デジタル・リマスタリングされていてガッカリだった。
ようやくオリジナルの英RCA盤が手に入れられて、非常に嬉しい。
フィンランディアタピオラを収めた2枚組は既に入手済みだが、あとまだ4つの伝説曲op.22の1枚が残っており、早く見つけたいもの。
なお、オーケストラの名称"Scottish National Orchestra"は、いろいろ考えたのだが、現時点では上記のように表記することにしたい。
 
小林研一郎(指揮)ブダペシュト響、R・シュトラウス;「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快な悪戯」・「ドン・ファン」(洪HUNGAROTON、LP)
小林研一郎の初期録音(1977年頃)である。
前にHUNGAROTONからCDも出ていたが、これもやはりアナログ録音ゆえLPがほしかったもの。
「ティル〜」は、彼がブダペシュト国際指揮者コンクール(1974年)で優勝したときにガラ・コンサートで振って大成功、熱狂的な拍手が20分以上止まらず、審査員のヴィリー・ボスコフスキーが「ウィーン・フィルでも聴いたことがない」と絶讃したという。
これは、それを踏まえてのレコード製作だったろう。
小林のエッセイ集『指揮者のひとりごと』(騎虎書房)によると、仕事の都合でどうしても編集に立ち会えなかったところ、「でき上がったレコードを聴いて驚天した。練習のつもりで振った初めのほうの演奏が、そっくり入っている。」とか。
 
ヘルベルト・ブロムシュテット(指揮)ストックホルム・フィル、ステンハンマル;間奏曲(カンタータ「歌」より)・組曲「チトラ」ほか(瑞EMI、LP)
実は、こういう録音があると知らなかったので、カタログで見つけて吃驚。手に入って誠に目出度い。ステンハンマル全録音蒐集プロジェクトが、また一歩前進した。
1966年12月13〜16日の録音、録音製作はPHONO SUECIA、発売がスウェーデンEMIである。
ブロムシュテットは、後に「歌」の全曲録音を果たす。また、「チトラ」はローセンベリによる組曲版(3楽章)の、おそらく世界初録音である。
リドホルムの管弦楽付き歌曲等をカプリング。
ジャケットにはモノラルの表記があり、なぜわざわざ別にマイクを立ててモノラル録音したか…という能書きまで書いてあったが、なぜか中味はステレオ版。
 
ライナー・クスマウル(Vn)ハイデルベルク室内管、バッハ;Vn協第2番ほか(英ORYX、LP)
1968年8月の録音というから、先日までベルリン・フィルのコンサートマスターに招聘されていた大ベテランも22歳の頃。
ヴェルナー・リヒターというフルーティストを独奏とする管弦楽組曲第2番をカプリング。
 
ヨゼフ・シヴォー(Vn)ホルスト・シュタイン(指揮)スイス・ロマンド管、プロコフィエフ;Vn協第1番&グラズノフ;Vn協(英DECCA、LP)
大好きなプロコフィエフの1番の未架蔵盤なのでオーダー。国内の業者のカタログに結構な値段で掲載されていたので見送ったことがあるが(DECCA盤だからか)、今回は海外の業者、かなり安かった。
ヴァイオリニストは未知の人だが、ハンガリー生まれ、エネスコオドノポソフに学んで、ウィーンで教えているとか。
 
ポール・トルトゥリエ(Vc、指揮)ロンドン室内管、C.P.E.バッハ;Vc協第3番&ハイドン;Vc協第2番(英UNICORN、LP)
トルトゥリエ大師匠の弾き振り。
1970年5月5〜6日の録音、C.P.E.バッハは唯一の、ハイドンは3回中2回目の録音(1回目はフルネとのSP、3回目はフェルバーでCD化されている)。
ずっとEMIと仕事をしていたトルトゥリエが、珍しく英UNICORNに行った録音で未CD化。
ディスコグラフィで見てから長く探していた盤ゆえ、カタログに発見して即オーダー、入手できて非常に嬉しい。
 
アルト・ノラス(Vc)パーヴォ・ベルグルンド(指揮)ボーンマス響、ブリス;Vc協ほか(英EMI、LP)
ノラス師匠の未架蔵盤、驚喜してオーダー。
一時期のEMIによくある4チャンネル・エンコード盤で、あまり好きでないフォーマットなのだが、そんなことは言っていられない。
1977年頃の録音だが、どうもイギリスでは無名の存在だったようで、A面のソリストなのに、ジャケットに写真が無く、トルトゥリエ大師匠による推薦文が掲載されている。
ブリスの曲はロストロポーヴィッチが1970年に初演した曲で、「壮絶なほどソリスティック」(山尾敦史『近代・現代英国音楽入門』)とのこと、ノラス師匠の名演を期待したい。
バレエ音楽「ゴーバルスの奇蹟」(抜粋)をカプリング。
 
ユリアン・フォン・カーロイ(P)ハンス・ロスバウト(指揮)ミュンヘン・フィル、ラフマニノフ;P協第2番ほか(独DGG、LP)
ロスバウトのラフマニノフ! 最初信じられなくて、カタログの間違いだろうと思ったが、ディスコグラフィで調べてみると、確かに存在する。
1947年11月13日の録音、当初はSPで発売されたもの。
ピアニストについては承知しないが、ソロの前奏曲第1・6番をフィルアップ。
とにかく彼の録音の中でも異彩を放つ1枚、怖いもの見たさもあってオーダー。
 
アーヴェ・テレフセン(Vn)スティグ・ヴェステルベリ(指揮)スウェーデン放送響ほか、ステンハンマル;2つのセンチメンタル・ロマンスほか(瑞Caprice、LP)
ステンハンマル お薦めの3曲に取り上げた曲であり、その推奨盤として掲げた演奏である。
CDでも架蔵しており、LPでは英crd盤もあるが、やはりオリジナルのCaprice盤で持っておきたく、オーダーしたもの。
ジャケットの装画も幻想的で素晴らしく、やはり購入してよかったと思う。
 
ミクロシュ・ペレーニ(Vc)ゾルタン・コチシュ(P)ブラームス;Vcソナタ集(洪HUNGAROTON、LP)
ペレーニも全録音を蒐集したいチェリスト。
1980年録音のブラームスはCDを架蔵しているが、ピアノを偏重したようなバランスが非常に聴きづらく、ぜひLPで聴いてみたいと願っていたもの。
 
ポール・トルトゥリエ(Vc)マリア・デ・ラ・パウ(P)サン・サーンス;Vcソナタ第1番ほか(仏EMI、LP)
もちろんトルトゥリエ大師匠も全録音蒐集が目標。
この愛娘のピアノ伴奏によるサン・サーンス集は、CD化されていないのではないか?
ソナタをA面に、「白鳥」ほか小品8曲をB面にカプリング。
 
クリストフ・エッシェンバッハ(指揮)北ドイツ放送響、シューマン;交響曲全集(BMG)
ここからはCD。
「ピアニストとして名を挙げたのは、指揮者になるためだった」と言っているエッシェンバッハ、フィッシャー・ディースカウの伴奏等、ピアニスト時代にもシューマンは得意とされていたようだ。
ジャケットの写真を見ると、すっかり老匠風になっていて驚かされる。
前にヒューストン響を指揮した2・4番のCDがあり(Virgin)、全体としてはともかく(^^;、4番の第4楽章の序奏は思い入れたっぷりの素晴らしい音楽で感心したことがある。
いよいよ北ドイツ放送響を振っての全集録音、期待して購入。
なお、珍しい序曲「メッシーナの花嫁」をフィルアップ。また2枚組で1枚分の価格、更にタワーレコードでは1,890円の値付けが嬉しい。
 
ナディア・ブーランジェ(指揮)BBC響ほか、リリー・ブーランジェ;作品集&フォーレ;レクイエム(BBC LEGENDS)
姉ナディアによるリリーの作品集である。詩篇第24番ピエ・イェズ詩篇第130番(深き淵より)を収録。
リリース情報に接して以来、鶴首していた1枚。
演奏自体はintaglio盤で既発だが、今回は何といっても正規音源からの初発売。音質の向上に大きく期待。
ちょっと聴いてみたが、かなり向上している。intaglio盤に比べ、バックグラウンド・ノイズが消滅、音場がまともなステレオになり、音質も一段とクリアに伸びた。
なお、録音時期をintaglio盤では1968年11月としていたが、今回は10月30日と表記されている。
逆に、intaglio盤で明記されていたピエ・イェズの器楽アンサンブルの奏者が、今回は表記されていない。
 
シュテファン・フッソング(Accord)バッハ;ゴールトベルク変奏曲ほか(THOROFON)
アコーディオンによるゴールトベルク変奏曲で、昔、輸入CD店でベストセラーになった盤。それがきっかけになったのか、フッソングはDENONからバッハ作品集等をリリースしている。
当時はあまり関心がなかったのだが、最近、バッハへの興味が復活していることもあり、@1,000円のセールで出ていたのを購入。
スヴェーリンク;ファンタジアをフィルアップ。
 
ペーター・ザードロ(Perc)「クラシック・パーカッション」(schwann-KOCH)
チェリビダッケ時代のミュンヘン・フィルでティンパニを叩いていたペーター・ザドロのソロ・アルバム。表情まで出してしまう彼のタイコは、本当に凄かった。
バッハ;無伴奏Vc組曲第1番を叩いていたりするのが興味深く、購入(マリンバによる演奏)。
自作の6つのティンパニのためのカデンツァも面白そうである。
その他、安部圭子田中利光といった日本人作曲家を含む6人の作品を収録。
最近の録音もあるが、これは1990年のもの。

9月23日(祝): 

 びわ湖ホールに出かける。
 ここは初めて行くが、意外に足の便が良かった。
 往きは京阪電車で「京都市役所前」から30分強、帰りはJRで京都駅まで30分弱。けっこう利用できそうだ。
 問題は、開館当初に比べて、公演の数・質に翳りが見えること。いずこも同じ財政問題なのだろう…。
 なお、ホールのWebpageは、→ここを押して

目的は、村治佳織ギター・リサイタル
デビュー・アルバム以来のファンではあるのだが、本格的な演奏会は初めて。
3年前、販促イベントのミニ・コンサート@フェニックス・ホールに行ったことがあったくらいだ。
会場(小ホール、300席強)は満席。チケットも即日完売だったとか。
小ホールは地下というので、一瞬、不安がよぎったが、中に入ると別に問題はなかった。
斉諧生の座席は壁際だったが、何ら遜色なく、音響的には満足できた。
なお、ホール附設のレストランは琵琶湖が一望できる、素晴らしいロケーション。次の機会には、ぜひ座ってみたいもの。
さて、村治さん登場。
第一印象は、「あんな大柄の女性だったっけ?」。
3年前は本当に可愛らしいお嬢さん…という感じだったのだが、写真等で拝見するに、留学されてから随分大人っぽくなられたのは承知していたが、背丈まで大きくなられたのか??
それとも見る角度の違いから来るものか、こちらの気のせいか。
なお、お召し物は黒の上着に黒の肘当て、白のスカート。
とにかく音色の多彩さ・美しさに惚れ惚れ。
ギタリストは村治さん以外にほとんど聴かないため(それもアランフェス協奏曲程度)、演奏評をする資格はないのだが。
CDには入りきらない(ないし斉諧生宅のオーディオ装置では再生しきれない)、繊細な響き、撥弦の余韻、時に披露される柔らかな音色…、とにかく堪能させてもらった。
個別の曲で、斉諧生的に気に入ったのは、
ダウランド;涙のパヴァン
ブローウェル;黒いデカメロン(第2曲)
プホール;あるタンゴ弾きへの哀歌
ロドリーゴ;古風なティエント
といった、いずれも、ゆっくりしたテンポの悲歌的な楽曲。
ギターが一番素晴らしいのは、そういう、心の琴線をかき鳴らすときだと思っている。
プログラムの冒頭にルネサンス・リュート音楽が少し奏された以外、残り全部がスペイン〜ラテン・アメリカ系の作品だったのは、ちょっと単調に傾いたような。
バッハとか、日本の現代作品とか、あるいは他の楽器との共演とか、ちょっと変化がほしかった。
まあ、これは斉諧生がギター音楽に不案内ゆえの感想かもしれないが。
アンコールは、
ディアンス:タンゴ・アン・スカイ
マイヤーズ:カヴァティーナ
特にカヴァティーナの味わいはCD以上に深く滋味豊かなものがあった。
終演後のサイン会は無し。
そのかわり、CD・有料プログラムを購入した人のうち先着50人にサイン済みの色紙が配付された。
斉諧生はプログラムを購入して御親筆を拝領 (^^)
そのあと、加入している村治佳織MLの皆さんともお話しできて、楽しいひとときを過ごさせていただいた。
 
なお、最後のトゥリーナ;セヴィリアーナの演奏中に、客席で鞄か何かが倒れて大きな物音が起こること2回(別々の場所だったが)。
特に2回目は、曲が最後のクライマックスにさしかかった時だっただけに、ちょっとダメージが大きかった。
自戒も含めて、心したいものである。

 出かける前に通販業者からLPが1枚届いた。また、行きがけに十字屋@三条のセールに参戦。

ロヴロ・フォン・マタチッチ(指揮)チェコ・フィル、チャイコフスキー;交響曲第6番「悲愴」(チェコSupraphon、LP)
先日ふと気がついたのだが、マタチッチの録音が、意外に手元にない。昔に国内廉価盤LPで買ったままになっていたりするのだ。
これはいかんと思っていたところ、まず「悲愴」の比較的初期のプレスというのをカタログに発見したのでオーダーしたもの。
 
クリスチャン・テツラフ(Vn)ハインリヒ・シフ(指揮)ノーザン・シンフォニア、ハイドン;Vn協第1・3・4番ほか(Virgin)
F.P.ツィンマーマンに続くドイツ期待の若手、テツラフの未架蔵盤をセールで発見したので購入。
モーツァルト;ロンドK.373をフィルアップ。
 
フランス・ブリュッヘン(Fl)グスタフ・レオンハルト(Cem)アンナー・ビルスマ(Vc)ほか、バッハ;Flソナタ全集(BMG)
ブリュッヘンがトラヴェルソ・フルートを吹いている録音。
元はSeonレーベルで発売されていたもの、1975年の収録である。
この時期のブリュッヘンは揃えておきたくて、前から探していたのだが、なかなか出会えなかったもの。中古格安で購入できた。
 
塩川悠子(Vn)バルトーク;無伴奏Vnソナタ&バッハ;無伴奏Vnパルティータ第2番(カメラータ東京)
バッハは全曲盤からの流用なので、新譜のときは少し買いづらかった。
バルトークの他の作品は夫君アンドラーシュ・シフとDECCAに録音しているので、カプリングに困ったあげくの措置だったようだ。
今回は、中古格安だったので、迷わず購入。
 
ハンス・ヴァイスバッハ(指揮)ライプツィヒ大学カントライほか、バッハ;マタイ受難曲(PREISER)
バッハの声楽曲の中では「マタイ」に最も馴染みがあり、見かければ買うことにしている。
今日のセールで未架蔵の2組を発見。中古格安だったので両方購入。
これは1935年4月19日、ライプツィヒでの、最古の全曲録音とされる盤。
ただし、第二部を中心にかなりのカットがあり、CDでも2枚に収まっている。
指揮者は1885年生れ・1961年没のドイツ人で、1930年代にライプツィヒ響の音楽監督をしていたらしい。
歌手はたいていが未知の人だが、バスにクルト・ベーメの名前が見える。
 
ギュンター・ラミン(指揮)ライプツィヒ・聖トマス教会聖歌隊ほか、バッハ;マタイ受難曲(PREISER)
これは、別なレーベルでも復刻されている有名な録音。
1941年3月の収録なので、もちろん第二次世界大戦の最中である。
演奏に参加した人の中には、キリストの受難を通じて平和への祈りを神に捧げる気持ちの人もいたのだろうか。
あるいは、ドイツの卓越を精神文化面で証する意気込みの人もいたかもしれない。
指揮者は、バッハ以来の伝統あるトマス・カントル(聖トマス教会の音楽監督)を当時つとめていた人、歌手はカール・エルプ(福音史家)、ゲルハルト・ヒュッシュ(イエス)等。
これもCD2枚組で、第二部を中心にかなりのカットがある。

9月22日(水): 

 

イーゴリ・マルケヴィッチ(指揮)コンセール・ラムルー管ほか、ベートーヴェン;交響曲第9番「合唱」(Philips)
LPでは架蔵しているし国内廉価盤CDだが、マルケヴィッチとあらば購入。
1961年の録音で、この時期、マルケヴィッチはラムルー管と1・5・8番も録音している。
 
ルドルフ・ケンペ(指揮)BBC響ほか、マーラー;交響曲第1番・第2番(BBC LEGENDS)
ケンペのライヴ盤は、見逃せないので購入。
第1番はBBC響で1965年5月22日(モノラル、放送用録音か)、第2番はミュンヘン・フィルで1972年9月10日のロイヤル・アルバート・ホールでのライヴ録音。
 
ハンス・ロスバウト(指揮)アムステルダム・コンセルトヘボウ管ほか、ストラヴィンスキー;バレエ音楽「ペトルーシュカ」ほか(Philips)
ロスバウトの未架蔵音源なので、国内廉価盤CDだが、購入。
使用しているのは1947年版、ピアニストはLuctor Ponseとディスコグラフィにある。
1962年7月4〜5日の録音、この年12月29日に死去したロスバウトの、スタジオでの最後の仕事(ライヴ録音は9月のヒンデミットがある)。
大病(1959〜60年)の後なので、ちょっと心配ではあるが…。
また、ディスコグラフィによれば、直前のオランダ音楽祭でのライヴ盤もあったらしい(6月28日)。
ベルナルト・ハイティンク(指揮)『火の鳥』(1919年版)をカプリング。
 
シモン・ゴールトベルク(Vn、指揮)オランダ室内管、ヴィヴァルディ;協奏曲集「四季」&モーツァルト;セレナード第13番「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」(Philips)
ゴールトベルクの未架蔵音源なので、国内廉価盤CDだが、購入。
Philipsへの録音は、もっと色々あるので、丁寧なCD化を望みたい。
同じ『四季』でもミヨーの自作自演で「春」を独奏した音源もあるのだ。
 
クリフォード・カーゾン(P)ピエール・ブーレーズ(指揮)BBC響、ベートーヴェン;P協第5番「皇帝」&モーツァルト;P協第26番「戴冠式」(BBC LEGENDS)
スタジオ録音を嫌ったカーゾンのライヴなので、指揮者に多少の不安を抱きつつも(^^;、購入。
ベートーヴェンは1971年2月17日、モーツァルトは1974年8月14日の録音。
 
ヨーヨー・マ(Vc)コダーイ;無伴奏Vcソナタ&チェレプニン;無伴奏Vc組曲ほか(Sony Classical)
最近、あまり買っていないヨーヨー・マだが、コダーイは聴いてみたく、購入。
それ以上にチェレプニンは珍しい。ひょっとしたらトルトゥリエのLP録音以来かもしれない。
オコナー(米)、シェン(中)、ワイルド(英)といった現代作曲家の作品をカプリング。
なお、斉諧生が買ったのは輸入盤だが、ブックレットには竜安寺の石庭をバックに演奏するヨーヨー・マの写真(サントリーのCM?)が掲載されているのが目をひく。無伴奏には禅のイメージがあるのだろうか。
 
(附記)チェレプニンの録音について読者の方からメールを頂戴し、安田謙一郎の1975年録音が、一昨年CD化されていることを御教示いただいた(DENON)。訂正とともに謝意を表します。(9月26日)

9月20日(月): この夏最後の休暇を取る。

 

ベルンハルト・パウムガルトナー(指揮)モーツァルテウム・カメラータ・アカデミカ、モーツァルト;交響曲第28・33番ほか(Salzburger Festspiele)
いずれもザルツブルグ音楽祭のライヴ録音で、28番は1962年7月29日、33番は1961年7月30日の、それぞれモーツァルテウム音楽院大ホールでの演奏。
両曲とも素晴らしいモーツァルト。モノラルながら音も良く、音楽を堪能できる。
1楽章の彫りの深さ、推進するリズム。
緩徐楽章の優美な歌と慈しむようなリタルダンド。
歯切れの良いメヌエット。
楽しいお喋りを聴くようなフィナーレ。ウキウキしてくるのを感じる。
テンポ感などに古いものがあるかもしれないが、こういう愉悦感に満ちたモーツァルトは、現代の古楽派の演奏にも通じるのではなかろうか?
パウムガルトナーのモーツァルト、もっと再評価されていいはずだ。
 
イーゴリ・マルケヴィッチ(指揮)コンセール・ラムルー管、モーツァルト;交響曲第35番&ハイドン;協奏交響曲ほか(独DGG、LP)
特にモーツァルトが素晴らしい。
1楽章は予想どおり、ティンパニや金管楽器を抑えない演奏。ただし、金管は柔らかい美しい音で吹かれており、決して安っぽい音楽にはならない。木管もパリのオーケストラらしい美しい音。
1950年代のマルケヴィッチらしい、強烈な音楽エネルギーが放射され、まさしく"con sprito"の趣。
2楽章は内声部を生かした立体感が良く、コーダのラレンタンドも美しく決まっている。
メヌエットではホルンの音色を生かしたコクが美しく、トリオも歌でいっぱい。
フィナーレは白眉。1950年代のマルケヴィッチ特有の素晴らしいリズム感が光り輝いている
そのリズムを刻む金管の音の美しく、効果的なこと!
ラムルー管も見事な出来映え、ぜひ、ORIGINALSシリーズでCDに復刻し、広く聴いてもらいたい録音である。
グルック;シンフォニアのアンダンテの憂愁、ハイドン;協奏交響曲での独奏楽器の美しさも素晴らしかった。
 
セルゲイ・クーセヴィツキー(指揮)ボストン響、チャイコフスキー;交響曲第6番「悲愴」(BMG)
1930年のSP録音の復刻である。
1930年といえば、1893年の初演から40年と経っていない。1874年生れのクーセヴィツキーは当時19歳くらいだから、このCDは初演当時のロシアの音楽趣味を残す録音なのかもしれない。
今の指揮者で聴いたことがないロマンティックな表情が多発するので、聴いていて非常に楽しめる。
一番驚いたのが、1楽章で展開部に入ったところ。
普通は「ヨーイ、ドン!」で走り出すのだが、なんと、四股を踏みはじめたかのように、重々しいリズム・テンポになるのだ。
具体的には、162・166小節のアクセントをすごく粘る。もちろん、163〜4・167〜8小節のダウンボウも同様。とどめは170小節の大きなリテヌート!!
2楽章でも、6小節(繰り返しの101小節)だけテンポを落として、実にノスタルジックな味わいを醸し出す。
また、3楽章の304〜311小節、fffから一旦デクレッシェンド、クレッシェンドし直してffffに持っていくのにも吃驚した。(↓のオーマンディが同じことをしており、二重に驚いた。)
クーセヴィツキーは元来がコントラバス奏者として有名になった人物…だからというわけでもなかろうが、低弦が実に強烈に収録されている。
これはたぶん当時の蓄音機で聴かれることを前提にした音づくりだと思うので、CDから聴こえるままには受け取れないだろうが、逆に言えば、「このパートがはっきり聴こえなければならない」という彼の意図があったのは確実だ。
こうしたことから来る偶然かもしれないが、フィナーレの126小節以下でコントラバスが轟々と鳴ることで、音楽にすごい迫力が加わっている。ここは意図的にやっても面白いかもしれない。
 
エフゲニー・ムラヴィンスキー(指揮)レニングラード・フィル、チャイコフスキー;交響曲第6番「悲愴」(DGG)
LP時代以来、定盤中の定盤。1960年のロンドン録音を久々に聴く。
やはり、凄い演奏である。未聴の方は、ぜひお聴きください。
録音もいまだに鮮烈な音色、比較的オン・マイクで収録されており、オーケストラの表情を手に取るように聴くことができる。
 
この頃のレニングラードの音は、いわゆる「ロシア的な音」とは全然違うと考えている。
 
もちろん、ここぞというところでガンガンくるのは事実で、例えば…
1楽章の展開部の入りは猛烈な嵐のようなテンポと音量、190小節からのトランペットの強力なこと!
245小節あたりは地震か何かのよう、278小節から放射される猛烈なエネルギーには汗びっしょり、ほとんど金縛り状態になる。
また、フィナーレの115〜125小節でトロンボーンからトランペットに渡される上行音型も凄いクレッシェンドで、恐ろしい迫力。
 
しかし、それだけじゃないのが、ムラヴィンスキーの偉いところ。
例えば、楽譜の指定よりずっと弱い音を、天才的に駆使する面がある。
1楽章の第2主題や2楽章の中間部が繰り返されるところ(2回目の57小節)がそれ。
とりわけフィナーレ冒頭の柔らかいmpや第2主題の色彩感を殺したpppは感動的だ。
ここは斉諧生の「思い入れ」だけかもしれないが、1楽章の248小節の4拍目にfの指定があるが、ここをmfくらいに弱めて、ゾッとするような深さを見せる。
 
その他、細部の彫琢には目を見張るばかりである。
1楽章冒頭の第4小節、ディヴィジの下のコントラバスに付されたテヌート記号が、アクセントを置くという処理で実現されている。
95・99小節の後半のデクレッシェンドで、音量をかなり大きく落とし、情感を強く打ち出している。
121小節以下のホルンの雄々しい吹奏。
130小節以下(第2主題が2回目に出るところ)でのヴァイオリンの音色に湛えられた哀しみ。
提示部を締めくくるクラリネットの繊細な吹奏。
2楽章16小節(2番括弧の方)でのヴァイオリンの上行音型の弾み方。
17小節後半に付されたデクレッシェンドと18小節のクレッシェンドの対照の美。
中間部でテンポが大きく落とされることで、こぼれ始める涙。
95小節、主部再現に入るところのクレッシェンド。ここはフリッチャイのディミヌエンドが「はかなさ」を表現して素晴らしかったが、クレッシェンドで「期待」を表現するムラヴィンスキーも素晴らしい。
111小節のヴァイオリンに付されたクレッシェンドとデクレッシェンドのセンス。
120小節以下の木管の繊細さ。
3楽章での各楽器の出し入れの見事さ、それぞれの音の煌めき。
フィナーレ、11・12小節に置かれたアクセントの「思い入れ」。
とにかく最初から最後まで、聴き手に息をつかせない強烈な訴求力に満ちあふれた演奏である。
 
なお、この録音はレコード会社の要求により、オーケストラの配置がアメリカ式になっている。(レニングラード・フィルは1Vn-Vc/Cb-Va-2Vnの配置)
 
ユージン・オーマンディ(指揮)フィラデルフィア管、チャイコフスキー;交響曲第6番「悲愴」(DELOS)
CD初期に、これや5番が出たときには、オーマンディ&フィラデルフィアが「変なマイナーレーベル」(失礼>DELOS御中)から登場したのに、皆が驚いたものだ。
当時、けっこう好評だったので、一時期「悲愴」に凝った頃に中古で見つけて買ったのだが、最初に聴いたときの印象は「円満」
久しぶりに聴き直したのだが、それは変わらない。
オーケストラは上手いのだろうし、特に木管の美しい音色や金管のバリッとした華麗なサウンドは聴いていて楽しい。
録音も明晰、全てのパートが手に取るように聴こえる。ちょっと弦の音に潤いがないが…。
しかし、どうも「?」である。良く言えば「楽譜に忠実」というか「チャイコフスキーの書いた音符に全てを語らせている」演奏なのだろうが、斉諧生的には魅力に乏しい。
「もうちょっと『言いたいこと』が無いのですか?」と問い返したくなった。
 
セルジュ・チェリビダッケ(指揮)ミュンヘン・フィル、チャイコフスキー;交響曲第6番「悲愴」(EMI)
両端楽章のみの摘み聴き。
いつもながら、チェリの濃密な世界―ある種の陶酔境―には感心する。
ムラヴィンスキーのようなチャイコフスキーの音楽への思い入れは感じられないが、チェリにそれを求めるのは、たぶんお門違いなのだろう。
斉諧生的には、作曲者が書き込んだホルンやトロンボーンの音型の意味深さが実感できる演奏であるところにも価値がある。
 
エミール・ギレリス(P)フリッツ・ライナー(指揮)シカゴ響、ブラームス;P協第2番(BMG)
この曲をきちんと聴いてみようと思い、先日、ポケット・スコア(全音)を購入した。
で、聴き始めてから気が付いたのだが、ピアノ・パートがヴィオラとチェロの間の段に印刷されていて、これが見づらいこと!
これは全音版だけなのか、外国の出版社のものもそうなのか?? よく確かめてから買えばよかった…と少々後悔。
それはさておき、演奏の方だが、ずっと「真っ向唐竹割り」の剛演だと思っていたのだが、スコアを参照しながらじっくり聴いてみると、そうでもない。
もちろんベートーヴェンの「英雄」か「皇帝」を思わせるような剛毅な部分もあるのだが、しなやかさにも欠けてはいない。
3楽章の独奏チェロも、情緒てんめんとはいかないが、自ずとシミジミしたものを漂わせる好演だと思う。71小節以下で再現するところなど、特にそれを感じる。
終楽章もグラツィオーソの指定どおりの気分だ(色気はないけど)。
録音が古いせいか、高域よりの硬い音なのが残念。ギレリスのタッチが美しそうなのに。"LIVING STEREO"等の上質な復刻を望みたい。

9月19日(日): 

 

ヤシャ・ホーレンシュタイン(指揮)ニュー・フィルハーモニア管、チャイコフスキー;交響曲第5番(Chesky)
かなりゆっくり目の序奏から、やはり金管を大幅に強調した音楽が導かれる。聴かせ上手というか、ツボを心得たというか、聴いていて面白いことは事実。
ただ、では推薦できるかというと、そうでもない。
全体にフレージングが甘く、弾き流しているようなところも見受けられなくもない。音色の練り上げも不足し、3楽章のホルンのゲシュトップ音は少し汚い。
低弦がずっしり響いているが、どうも録音上の操作で強調されているような気もする。
 
オイゲン・ヨッフム(指揮)アムステルダム・コンセルトヘボウ管、ブルックナー;交響曲第8番(TAHRA)
1984年9月26日のライヴ録音。
この演奏は本当に素晴らしい。至高のブルックナーである。この日、会場にいた人は、本当に幸せだったろう。
1984年はヨッフムの絶頂期だったのではないか。1982年のバンベルク響との来日時の8番はテンポの変動が少し煩わしかったし、1986年のコンセルトヘボウ管との来日では7番だったが衰えを感じさせた。
この演奏では、落ち着いたテンポが一貫するとともに、時に味の濃いリタルダンドやラレンタンドが見られ(スケルツォ106小節、アダージョ183〜184小節・287小節以下、フィナーレ644・645小節)、例えようもなく立派な音楽である。
ところが誠に残念なことに、録音に問題がある。
マイクの数が足りないのかセッティングが悪いのか、ホルン、ワーグナー・チューバ、トロンボーンが極めて弱い。音にボリュームというかカロリーが無いのである。これはブルックナーの音楽には致命的。一生懸命、想像で補うのだが、それでは心の底からの感動は得られない。
また、低弦も音量のわりには音の輪郭がぼやけており、何とも締まらない。ヴァイオリン独奏も、ほとんど聴こえない。
それでいて、ハープだけは補助マイクが付いていたようで、巨大な音像で実にリアルに聴こえる。
ブックレットに掲載されている当日のプログラムには、放送予定日が印刷されているから、当初から準備された録音であったろうに、何とも残念至極である。
 
フレデリク・プラッシー(Vn)アンヌ・ロベール(Cem)バッハ;Vnソナタ第5番(BNL)
チェンバロはオンマイクで、音像が左右のスピーカーの幅一杯に拡がる。
独奏ヴァイオリンは、ややオフマイクで、むしろこもり気味の音。本来のプラッシーの音色ではないような気さえする。
音が気になって、ちょっと楽しめなかった。
 
ダラピッコラ;「囚われ人の歌」聴き比べ
ジョン・オリヴァー(指揮)タングルウッド音楽祭合唱団、ボストン響団員(Sony Classical)
ローラン・エイラベディアン(指揮)エクス・アン・プロヴァンス現代合唱団、ストラスブール・パーカッション(ACCORD)
ハンス・ツェンダー(指揮)新ロンドン室内合唱団、アンサンブル・アンテルコンタンポラン(ERATO)
エサ・ペッカ・サロネン(指揮)スウェーデン放送合唱団&エリク・エリクソン室内合唱団、スウェーデン放送響団員(Sony Classical)
先週日曜にコンサートを聴いたスウェーデン放送合唱団の歌声を聴いてみたくなり、ついでに思い立って、前から懸案になっている「囚われ人の歌」の聴き比べを実行。
 
ちょっと曲の解説をしておくと、1938年、ムッソリーニの人種政策への抗議を音楽作品によって表現しようと、歴史上著名な虜囚の詩を取って、3曲からなる声楽曲としたもの。
第3曲「ジロラモ・サヴォナローラの辞世の句」で繰り返される「私は何も恐れない。私の希望は、主よ、あなたにあるから。」が印象的。ただし、音楽は単純に希望を歌っているわけではない。
器楽部分は、ピアノ(2)、ハープ(2)、ティンパニ(4)、木琴、ヴィブラフォン、チューブラー・ベル、シンバル、銅鑼、トライアングル、小太鼓、大太鼓と、すべて打楽器か、それに近い性格の楽器。
十二音音楽の手法で書かれているが、グレゴリオ聖歌;「ディエス・イレ」の旋律が全曲を通じて用いられ、旋律感と統一感を与えている。特に、第2曲「ボエティウスの祈り」の冒頭、ティンパニが弱音で叩き出すところは聴きもの。
 
合唱の響きにも、お国ぶりというか風土感の違いがあって面白い。
タングルウッド音楽祭合唱団は一人一人の声が聞こえる感じのするざらついた感触、クライマックスでの「燃え方」も含め、良くも悪くもアマチュア的な感じがする。
エクス・アン・プロヴァンス現代合唱団の明るめの響きもフランス的で面白いが、高域で声が硬くなり、ちょっと聴きづらくなる。器楽パートの「尖り方」は、この盤が一番か。
 
新ロンドン室内合唱団とスウェーデン連合は、技術的には極めて安定しており、他の2盤とは隔絶した出来映え。
スウェーデン連合は、第1曲「メアリー・スチュアートの祈り」の冒頭、音程の美しい無声音(形容矛盾ではない!)を聴かせ、相変わらず舌を巻くしかないが、ホールの残響が豊かすぎるのか録音が悪いのか、ちょっと混濁感があるのが惜しい。
サロネンの指揮は合唱の響きを中心に据え、それに器楽の響きを調和させていく趣、この曲のロマンティックな側面、イタリアの「歌」を上手に引き出していると思う。
新ロンドン室内合唱団はスウェーデン連合に肉薄する美しい響き。ツェンダーの指揮も見事で、12分以上を要する第1曲(ERATO盤では9分弱)での息の長い盛り上がりは感動的。
時に器楽の響きが合唱を圧倒するが、この曲の現代的側面にはふさわしいように思う。奏者の力量も一際、冴えているようだ。透明度の高い録音も、更に価値を高めている。

9月18日(土): 

 通販業者からLPが届いた。

パーヴォ・ベルグルンド(指揮)フィンランド放送響、シベリウス;交響曲第4番ほか(英DECCA、LP)
1968年5月、ヘルシンキでの録音。ベルグルンドの同曲初録音である。
この演奏については、シベリウス;交響曲第4番聴き比べで触れているので、詳しくはそちらを参照されたい。
ベルグルンドは39歳にして既に完成されたシベリウスの演奏スタイルを持ち、オーケストラも緊張感がみなぎり、雄渾といっていい音楽が終りまで続く。冒頭の独奏チェロも絶佳。
FINLANDIAレーベルから発売されたLPを架蔵しているが(CDでも出ている)、最初は英DECCAからの発売だったというので、オリジナル盤を探していたもの。
もっとも、この盤には"Original recording by A B Europafilm,Stockholm"と書かれており、ひょっとしたらスウェーデンのマイナー・レーベルから出た真のオリジナルがあるのかもしれない。音盤道は奥深い…。
なお、サリネン;壁の音楽をカプリング。1962年に作曲された、(今は消滅した)「ベルリンの壁」の犠牲者を悼む作品である。
 
パーヴォ・ベルグルンド(指揮)フィンランド放送響、シベリウス;交響詩「タピオラ」ほか(英DECCA、LP)
この盤の来歴については、上記交響曲とまったく同じ。
コッコネン;交響曲第3番をカプリング。

 

フレデリク・プラッシー(Vn)ヴォルフガング・バドゥン(指揮)ボン・ユース響、メンデルスゾーン;Vn協(BNL)
プラッシーのヴァイオリンは、いつもながら美しい。アクの強さ・堂々たる押し出しといったものはないが、嫌味のない、すっきりした音楽である。
本人の音量がないのか、録音が悪いのか、独奏がオーケストラに埋もれ気味のバランスなのが、ちょっと残念。
また、オーケストラの録音も、全体に音がこもり気味。あるいは、ホールの問題かもしれない。
 
フランク・ペーター・ツィンマーマン(Vn)パガニーニ;奇想曲(全曲)(EMI)
とにかく惚れ惚れするくらいに上手いヴァイオリンである。この難曲群を、誠に素晴らしい音程で弾ききっているのも信じられないくらい。
全曲約74分を、一気に聴いてしまった。
ところで、渡辺和彦『ヴァイオリン/チェロの名曲名盤』(音楽之友社)によると、この盤について、
「CD化の際に繰り返しをバッサリ切られてしまったと本人が私にぼやいていた」
とある。これが気になる。
「CD化の際に」というのは、ひょっとして、「繰り返しが全部、収録されている*LP*」が存在する、ということなのであろうか? (日本ではCDでしか発売されていない。)
↑は深読みかもしれないが、CD2枚組になってもいいから、録音された全ての音楽を聴きたいと思う。
 
平尾雅子(Gamb)武久源造(Cem)バッハ;Gambソナタほか(ALM)
春に買ったCDだが、やっと聴くことができた。
演奏のバランス、録音とも宜しきを得て、「独奏ガンバ+伴奏チェンバロ」ではなく、「ガンバ+チェンバロの右手+チェンバロの左手」の三声部のソナタとして立派に成立している。
そのポリフォニーを解きほぐしながら聴いていると、実に愉しく、時の過ぎるのを忘れる。
中でも、斉諧生的には「チェンバロの左手」が好き。バッハのバス・パートは、本当に美しい。
バッハのあとに収録されているテレマン;Gambソナタは、逆に「独奏+伴奏」の平明な音楽で、これはこれで愉快。
しかし、それ以上に、CD冒頭に入っているアーベル;無伴奏Gambのための3つの小品が良かった。
バッハ;無伴奏Vc組曲のプレリュードを思わせる第1曲、第2曲の瞑想的なアダージョ、技巧と内容が両立した第3曲、いずれも実に聴き応えがあった。
平尾さんの表現も、ある面ではバッハ以上に積極的。
なお、このCDは録音も素晴らしく、古楽器の美しい音色を堪能できた。

9月15日(祝): 

 チャイコフスキー;交響曲第6番「悲愴」を、まとめ聴き。指揮者のABC順に掲載する。

フェレンツ・フリッチャイ(指揮)ベルリン放送響(DGG)
1959年9月のスタジオ録音。
世評どおりの素晴らしい演奏。
第1楽章に21分余り、第4楽章に11分余りをかけており、まさしく「悲愴」の情趣に耽溺。楽器の音色にも「思い入れ」が感じられる。
中でも素晴らしい箇所が2つ。
第2楽章で、中間部から主部の再現へ移行する部分で、どんどん音量を落としていって、最後(95小節)でディミヌエンドとリタルダンドをかける。そのはかなさ、再現される主題の懐かしさ。これは他のどんな演奏にも冠絶する見事な解釈だと思う。
終楽章で、第二主題が、一段*遅い*テンポで演奏される。通常は第一主題よりも速いテンポで、時には軽やかに奏されることもある部分だが、一度これを聴くと、他の表現が考えられなくなる。
 
フェレンツ・フリッチャイ(指揮)バイエルン放送響(Orfeo)
1960年11月のライヴ録音。
基本的な解釈は、59年盤とほとんど同じ。テンポの動かし方などに、ライヴ的な振幅の大きさが見られる。
録音もモノラルで、わざわざ…というものではないだろうが、スケルツォ282小節以降の踏みしめた足取りは、こちらの方が好み。
 
ヤシャ・ホーレンシュタイン(指揮)ロンドン響(Disky)
第1楽章の序奏はかなり遅く、6小節の長いパウゼが耳をひく。
285小節以下でトランペットが強調され、トロンボーンの呻き声が盛大に奏されているのは、斉諧生好み。
ただ、録音上の操作でソロがピックアップされていくのは気になる。
弦合奏は全体にヴァイオリン優勢なのだが、第2楽章の最後でコントラバスの刻みが妙にくっきりしたりする。
第3楽章は、やや合奏の精度が低い。
フィナーレ98〜102小節や126〜136小節で、ゲシュトップで吹かれるホルンにも疑問がある。後者は、そういう方法もあるのだが、音色が汚く、非常に無神経に感じるのである。
 
エーリヒ・クライバー(指揮)パリ音楽院管(DECCA)
演奏者の名前からすると、およそミスマッチと思われるかもしれないが、エネルギーの放射といい、音楽の「弾み」といい、カルロスもかくや…と思わせられる凄い演奏である。
 
イーゴリ・マルケヴィッチ(指揮)NHK響(NHKサービスセンター)
1983年1月12日のN響定期のライヴ録音。マルケヴィッチは翌々月、3月7日に急逝している。
マルケヴィッチらしく、テンポの改変や金管の突出を厭わず、大胆に音楽の本質の摘出を狙った演奏。
斉諧生にとっては、これが「悲愴」開眼の演奏だった。
それまでロストロポーヴィッチロンドン・フィル盤(EMI)等で聴いてもピンとこなかったのだ。
当日のFM中継を録音、それを聴き返したとき、豁然、この曲に心打たれたのである。
その後、このCDを関係者の御好意で頂戴したのだが(非売品なのである)、聴くたびに、あの時の震撼を追体験するのだ。
 
第1楽章展開部後半、284小節でトランペットが猛烈にクレッシェンドし、トロンボーンの凄まじい呻き声、最後の審判のラッパが鳴り響く中、ティンパニのクレッシェンドが298小節で頂点に達したと思われた瞬間、299小節で更に膨れ上がる!
スケルツォ281小節での乾坤一擲のリタルダンド! ここは普通なら加速して畳みかけるところ、それを逆にテンポを落として巨大な音楽を構築する天才!
第4楽章126小節のアンダンテ指定を無視して加速、ホルンの呻き声を効かせながら、133小節のテヌート指定を利用して減速し、銅鑼の音を導き出す感動的な運び!
 
それにしても、第2楽章中間部の反復の省略(64・72小節の反復記号の無視)には驚いた…。
 
ピエール・モントゥー(指揮)ボストン響(BMG)
1955年、最初期のステレオ録音で、少々、音の鮮度が悪いが、音楽は実に瑞々しい。いかにも「悲愴」的な感情には乏しいが、実に「音楽的」(陳腐だがそうとしか言いようがない)。
オーケストラも上手い。ホーレンシュタイン盤の次に聴いたので、余計にそう思ったのかもしれないが。
特に、木管の素晴らしさが全曲を通じて光っている。また、第1楽章冒頭のコントラバスの音程の良いこと!
ヴァイオリンを対向配置にしているのも、チャイコフスキーの書法と相俟って効果を発揮している。

9月14日(火): 

 

ヤシャ・ホーレンシュタイン(指揮)ロンドン響ほか、チャイコフスキー;交響曲第6番ほか(Disky)
今、中古音盤堂奥座敷で、この人のブルックナー;交響曲第8番を議論しているのだが、彼の演奏を考える上で「悲愴」を聴いてみたいと思い、購入。
聞き慣れないレーベルだが、EMI音源を廉価盤化したもの。
バルビローリ(指揮)交響曲第5番・弦楽セレナードマルコム・サージェント(指揮)「ロメオとジュリエット」他との2枚組で1,350円であった。
 
エリク・エリクソン(指揮)スウェーデン室内合唱団ほか、「スウェーデン現代合唱曲集」Vol.1(PHONO SUECIA)
日曜に聴いたヴェルレ;「樹々 Trees」をCDで聴きたくなり、「合唱の神様」エリクソン@パークマンの師匠 の盤を探したところ、運良く見つかったので購入。
リドホルム;"Laudi"・"Canto LXXXI"・"...a riveder le stelle"ヴェルレ;"Canzone 126"を収録。
 
大友良英ほか、「山下毅雄を斬る」(P-VINE)
これは中古音盤堂奥座敷同人、野々村さんが絶讃されていたので、購入してみたもの。
山下毅雄の名前は知らなかったが、TV番組の音楽で売れっ子だった作曲家とのこと。
彼の作品を大友さんがリメイクしたものだが、収録曲の一端を挙げれば、
『プレイガール』『ルパン3世』『ジャイアント・ロボ』『スーパージェッター』『悪魔くん』『大岡越前』
…、懐かしさの限りである。
なお、ジャケットはショッキング・ピンクの地にジャイアント・ロボの写真という、非常に目立つもの。

 

大友良英ほか、「山下毅雄を斬る」(P-VINE)
さっそく聴いてみる。
とにかく「面白い」としか言いようがない音楽である。
中でも素晴らしかったのは『スーパージェッター』。歌唱に挿入される「流星号応答せよ、流星号応答せよ」等の台詞の処理のアイデアには脱帽、感動した。

9月13日(月): 

 昨日の演奏会のデータを演奏会出没表に、CDの情報をリリー・ブーランジェ 作品表とディスコグラフィに、それぞれ追加。


9月12日(日): 今日は名古屋方面へ遠征を果たした。実は、名古屋をはじめ、愛知県内へ行くのは初めてである(通過・乗換を除く)。
 目的地は、豊田市コンサートホール。名古屋から地下鉄・名鉄で小1時間を要するが、サロ様城の人々と同行、お喋りしながらあっという間に到着。

 遠征の目的は、スウェーデン放送合唱団の演奏会を聴くこと。
 先週、N響定期でデュリュフレ;レクイエムほかを歌ったのがFMやBSで放送されたので、御存知の方もいらっしゃるだろう。
 昨年も来日していたのだが、何かの都合で大阪での演奏会を聴けなかった。今年の来日では関西での予定が無く、いちばん近いのが豊田市。
 しかしながら、その歌唱に接するため、何よりステンハンマルの曲を聴くためには、四の五の言ってはいられない。実は、斉諧生、ステンハンマルのページを作ってはいるのだが、まだ一度も実演に接したことがないのである。
 そんなこんなで、今日の遠征と相成った次第。
 
 1曲目のバッハ;モテット「主を讃えよ、全ての異教徒よ "Lobet den Herrn, alle Heiden"BWV230の冒頭で、いきなり圧倒されてしまった。
 ソプラノが"Lo-Lo-Lo"と歌い出したその響きの、あまりの美しさ!
 そして、バスが実にきれいに「ズーン」と出てきたときの驚嘆!
 音程といい、音色といい、声部間のバランスといい、ハーモニーといい、ただただ感心するほかのない完璧さ!
 もう、無条件降伏である。
 
 ドイツの合唱団のような盤石のバスの上に声部を積み重ねていく…という音楽ではないので、バッハにせよブラームス;6つの四重唱曲op.112にせよ、「ちょっと違う」という声が出るかもしれない。
 しかしながら、スウェーデン放送合唱団の至純崇高な音楽の前には、そういう「イメージ」は、一段次元が低いという気さえする。
 まさしく「この世でいちばん美しい楽音」ではないか、という思いで胸がいっぱいになってしまった。
 
 合唱団は男声16、女声17人の編成ながら、2曲目のメンデルスゾーン;詩篇第22番で、すでに1,000人収容のホールが小さく感じられるほどのボリュームの和音が、空間を満たした。しかも、音が、全然、きつく・硬くならないのである。
 あとは、ただただ聴き惚れるのみ。
 R・シュトラウス;夕べの精緻さ、プーランク;小室内カンタータ「雪の夕暮れ」の情趣、筆舌に尽くしがたい。
 
 休憩後は、20世紀スウェーデン合唱名曲選の趣のプログラム。
 冒頭をステンハンマル;「春の夜」が飾る。
 ピアノ伴奏が付くのだが、好演のピアニストには申し訳ないが、これがどうにも邪魔に感じられる。それほど合唱が美しい。
 
 ヴェルレ;「樹々」は、バリトン・ソロと四重唱(パート2人)と合唱の編成、四重唱を正面ギャラリー(オルガン設置予定場所)に上げて、立体的な音響構成。
 1979年の作曲(1982年改訂)で、無声音や囁きも用いられてはいるのだが、それさえも音程とハーモニーが与えられているのに、またまた仰天。
 スウィングのリズムも登場するこの曲、すっかり気に入ってしまった。エリク・エリクソンが指揮したCDがあるそうなので、ぜひ聴いてみたいもの。
 
 そのあとは、少しリラックスした感じ。
ユーハンソン;「ファンシーズ」より5曲の多彩、ペッタション・ベリエル:「ダンシング・ゲーム」のリズミック、アルヴェーン;「夕べ」の静謐、エドルンド;3つの民謡の快活が、それぞれ見事に歌われた。
 
 アンコールには、来日合唱団の定番武満徹(編曲);さくら、黒人霊歌のテイストで親しみやすいスンド;ハレルヤ、しっとりしたお国ものアルヴェーン;わが草原にての3曲を歌って、引き揚げたのだが、拍手はいっこうに鳴りやまず、急遽、スウェーデン民謡「輪になって歩く乙女達」が追加された。
 
 なお、会場でCDが販売されていたのだが、斉諧生お薦めのエサ・ペッカ・サロネン(指揮)スウェーデン放送響、ステンハンマル;セレナードほか(Musica Sveciae)が早々に売り切れたことは、欣快の至りであった。(^o^)

 演奏会終了後、名古屋市内のCD屋へ。

フレデリク・プラッシー(Vn)ヴォルフガング・バドゥン(指揮)ボン・ユース響、ブルッフ;Vn協第1番&メンデルスゾーン;Vn協(BNL)
このところ御贔屓のプラッシー、所属のBNLレーベルが入手難で困っているのだが、幸い、未架蔵盤を1枚捕獲することができた。
録音は1992年、ヴァイオリニスト20歳のときのものである。
付けが無名の指揮者(1951年ボン生まれ、マウリツィオ・カーゲルピエール・デルヴォーに師事したとか)とユース・オーケストラということで、多少「?」ではあるが、持ち前の美音でブルッフやメンデルスゾーンを歌い抜くところを期待したい。
 
ニラ・ピエロー(Vn)スティーグ・ヴェステルベリ(指揮)スウェーデン放送響、ペッタション・ベリエル;Vn協・交響曲第2番「南への旅」(PHONO SUECIA)
ペッタション・ベリエルにVn協があるとは気づいていなかった。抒情的な佳曲であることを期待して購入。
録音はVn協が1967年10月、交響曲が1977年5月とある。
ヴァイオリニストは未知の人だが、当時20歳そこそこだったらしい。
 
マリエッテ・レンツ(Sop)マルゴット・ルッツ・ヴァイ(P)リリー・ブーランジェ;歌曲集「空のひらけたところ」ほか(BAYER)
新譜でリリー・ブーランジェが出ていたので、飛びついて購入。
標記の歌曲集のほか、「はかりしれない悲しみに包まれて」「期待」「映像」「ユリシーズの帰還」をカプリング、これでピアノ伴奏独唱曲の全集となる。
歌手はルクセンブルク生まれ、同地を中心に活動している人だそうだ。

9月11日(土): 

 カール・フォン・ガラグリについて、ページを御覧いただいた方から頂戴した情報を、小伝ディスコグラフィに追加。
 また、昨日買ったCDの情報を、リリー・ブーランジェ 作品表とディスコグラフィに追加。


9月10日(金): 

 

ハンス・シュミット・イッセルシュテット(指揮)北ドイツ放送響ほか、ベートーヴェン;交響曲第9番・「ミサ・ソレムニス」(TAHRA)
TAHRAのイッセルシュテット・エディションの第3巻が出ていたので、さっそく購入。
交響曲は1970年5月5日、ミサは1966年11月13〜14日の、いずれもステレオ録音。
考えてみると、この2曲は、1970年の来日時に読売日響を指揮して好評を博した曲目である。
交響曲ではウィーン・フィルの持ち味を生かしたスタジオ録音(DECCA)と、また違った剛直な演奏が聴けるのではないか、と期待している。
 
インゴ・メッツマッハー(指揮)ハンブルク国立フィルほか、ベルク:歌劇「ヴォツェック」(EMI)
メッツマッハーによる「ヴォツェック」のライヴ録音が、ようやく店頭に並んだので購入。
これまで比較的地味な扱いだったメッツマッハーだが、ベルリン・フィル音楽監督の最終選考に残ったというニュースが効いたのか、ようやく表舞台に出てきた感がある(ブックレットの表紙など)。
収録された上演はハンブルク国立歌劇場が行ったもの、標記のハンブルク国立フィルは、歌劇場管がピットを出たときに用いるものである。
このオペラは、前から気になっていて、一度しっかり聴こうと思っているのだが、なかなか果たせていない。この演奏やケーゲル盤(Berlin Classics)で勉強したいもの。
 
リノシュ・アンサンブル、モーツァルト;歌劇「魔笛」・「コジ・ファン・トゥッテ」(管楽合奏版)(CAPRICCIO)
「魔笛編曲物」蒐集プロジェクト、今日は中古屋で管楽合奏版の未架蔵盤を発見。
編曲は、ヨゼフ・ハイデンライヒによるもの(1792年)にアンドレアス・タルクマンが補作(1991年)。

9月9日(木): 

 

スーザン・ミラン(Fl)イアン・ブラウン(P)「Recital Opus 1」(UPBEAT)
ふと思いついて、フルートの棚のオムニバス盤をあれこれチェックしていると、あったあった、リリー・ブーランジェ;「夜想曲」を収録している。
フルーティストの名前には見覚えがあるのだが、何でだったかな? ブックレットのバイオによれば、ロイヤル・フィルの首席からソリストに転じてCHANDOSに多く録音している…とあるので、そのあたりかもしれない。
プーランク;Flソナタ
ドビュッシー;シランクス
メシアン;黒つぐみ
といった有名曲のほか、Sichler(b.1933)、Rutter(b.1945)、Feld(b.1925)といった現代作家の作品を収録。

9月7日(火): 

 

ヴィルヘルム・フルトヴェングラー(指揮)ベルリン・フィル、ブルックナー;交響曲第8番(TESTAMENT)
 
クラウス・テンシュテット(指揮)ロンドン・フィル、ブルックナー;交響曲第8番(EMI)
 
カルロ・マリア・ジュリーニ(指揮)ウィーン・フィル、ブルックナー;交響曲第8番(DGG)
ブルックナー;交響曲第8番を3点まとめ買い。何と無謀な?!
先日来、中古音盤堂奥座敷試聴会で、この曲を取り上げての議論が進んでいるのだが、同人諸氏が名前を挙げられた盤のうち、架蔵していないものを購入。
このあたりを聴いてこなかったのは、何といっても宇野功芳*尊師*の感化である。
そろそろブルックナーに関しても、*尊師*の影響下から脱しなければ…。この3枚をちゃんと聴いてみるつもり。
なお、フルトヴェングラーは1949年3月14日盤、テンシュテットは残念ながら国内盤である。
 
レイフ・オーヴェ・アンスネス(P)「長い長い冬の夜」(EMI)
中古屋でアンスネスの北欧小曲集を発見したので購入。
グリーグトヴェイトセヴェルーらの、主として民謡旋律に基づく小品を26曲、収めている。

9月5日(日): 

 関西シティフィル第30回定期演奏会(指揮:ズラタン・スルジッチ)@シンフォニー・ホールを聴く。
 アマチュア・オーケストラの演奏会なのだが、今日の指揮者は、本欄にたびたび登場する「我らがマエストロ」ズラタン・スルジッチ氏。
 
 あらためて、マエストロの「音楽」に感心する演奏会になった。
 とりたてて珍奇な解釈があるわけではなく、誠に正攻法で、その中に充実した「音楽」を満たすという趣。
 それについていった関西シティ・フィルにも讃辞を呈したい。もちろん技術的な限界は窺えたにせよ。

メインのショスタコーヴィッチ;交響曲第5番は、氏が度々取り上げる曲。
第1楽章冒頭は、楽譜どおりの"f"、音価いっぱいに音を保つ。
よくあるのは、熾烈な"ff"で耳目を奪うやり方。
続いて第1ヴァイオリンに出る主題は虚無的な"pp"で奏され、真に悲劇的な音楽となる。
ここ(6小節)で、早くも感心してしまった。
「悲劇的」という印象は、この楽章を通じて、終始感じさせられた。
例えば、51小節から始まる新しい主題が、やはり"pp"で演奏されたこと。
254〜256小節のトロンボーンの、サビの効いた音色。
終結で、チェレスタを抑え、トランペットの低音を立てて悲劇性を強調した(これが実にいい音色だった)。
第2楽章は、引き締まったリズム・テンポが一貫、充実した音楽であった。
第3楽章も、美しい弦合奏の上に、フルートやオーボエが冴えたソロを聴かせ、非常に良かった。
フルートは第1楽章から素晴らしいソロを連発。
70〜84小節のオーボエ・ソロに関しては、プロの実演でも、これだけの表現を聴いた記憶がない。ちょっとした強弱なのだが、本当に「感じた」音楽だったと思う。
速めのテンポで始まった第4楽章は、オーケストラも相当の頑張りを見せ、ホールを一杯にするような"fff"など、迫力十分。
 
前半のペヤチェヴィッチ;交響曲は、20世紀初めにクロアチアで活躍した作曲家の代表作の日本初演。
オーケストラのこういう姿勢、素晴らしいと思う。
詳しくは、オーケストラのWebpageを参照されたい。
とりわけ、第3楽章は、気の利いた軽やかな舞曲で、面白く聴けた。
第1・2楽章の田園交響詩的な気分、第4楽章の英雄性も、悪くない。CDが手に入るなら、買って聴いてみたいもの。
 
アンコールは、マエストロらしく、本プログラムからの取り出しが中心になった。
ショスタコーヴィッチ;第1楽章のコーダ(300小節から終結まで)
ドヴォルザーク;スラヴ舞曲第1番
ショスタコーヴィッチ;第2楽章の後半(157小節から終結まで)
 
次回は1年後、2000年9月17日になるが、また聴きに行くつもり。
ファリャ;「三角帽子」第2組曲
R・シュトラウス;Hrn協第1番
ブラームス;交響曲第3番
というプロが予定されている。

 演奏会の前後に、久しぶりの大阪で買い物。
 リリー・ブーランジェの楽譜を手に入れることができた。
 ヴァイオリンとピアノのための「夜想曲」「行列」である。
 ぼんやりヴァイオリンの棚を眺めていると、"Frauen Komponieren"という背表紙が目についた。Schott社の本。
 女性作曲家による小品のアンソロジーとなると、リリーの作品が収められている可能性大と思って手にとると、表紙にしっかり顔が出ている。迷わず購入。
 なお、上記の演奏会に登場したドラ・ペヤチェヴィッチの作品も2曲が収められている。
 お決まりのクララ・シューマン以外は、かなり珍しい顔触れで、面白い。

フレデリク・プラッシー(Vn)アンヌ・ロベール(Cem)バッハ;Vnソナタ第2・3・5番(BNL)
最近御贔屓のプラッシーが偶々見つかったので購入。
バッハは無伴奏もチェンバロ付きソナタも全曲録音しているが、これはソナタの第2巻にあたる盤。
実は、少し以前に別な店で第1巻を見かけたのだが迷っている間に姿を消されてしまい、地団駄踏んでいる。(^^;;;
まあ、斉諧生的には一番心惹かれる第5番が入っているので、少しは気が休まるのだが…。
 
フランク・ペーター・ツィンマーマン(Vn)パガニーニ;奇想曲(全曲)(EMI)
何を今さら…なのだが。
1985年の録音、ドイツ人ヴァイオリニストによる初の全曲録音という点でも話題になり、ツィンマーマンの出世作といっていいパガニーニ;カプリス。
とっくに架蔵している…と思っていたのだが、先日、点検してみると欠けている盤がある。ひょっとしたら、人から借りて聴いたのかもしれない。
で、これは買わないと…思って探していたのだが、なかなか見つからない。ネットでも見かけない。
ようやく発見したので安堵して購入。
まさか、前に買ったのを、どこかへ埋もれさせたまま忘れてしまった…というのではないことを望む。(^^;;;
 
ミハイル・コペルマン(Vn)アンナ・ガーフィンケル(P)フランク;Vnソナタほか(Melodiya)
元・ボロディンQの、現・東京Qの第1ヴァイオリン奏者、コペルマン。
彼のソロ録音は珍しいのでは?
しかも、曲がフランクのソナタならば、是非、聴いてみたいと思い、購入。
カプリングはボロディンQ、ドビュッシー;弦楽四重奏曲
ジャケットには「1989年4月12日モスクワ音楽院小ホール・ライヴ」という記載がある。1日のコンサートでソロとカルテットの両方を演奏したとは考えづらいのだが…?
 
リシャール・ガリアーノ(Accordion)ほか、「passatori」(DREYFUS)
斉諧生はジャズを少しだけ聴く。新譜を追っかけているのはごく僅かだが、このアコーディオン奏者は、その1人。
ミシェル・ポルタル(Cl)と共演した"Blow up"や、ジャン・シャルル・カポン(Vc)との"Blues sur Seine"等は、実に聴き応えがあった。
今回は弦楽合奏(ハープ・ピアノ・打楽器含む)との共演で、
ピアソラ;バンドネオン協
ピアソラ;オブリビオン
に自作を加えての録音である。
なぜか、タワー@京都ではレギュラー・プライスだったものが、タワー@心斎橋ではスペシャル・プライス、ちょっと得をした気分だが、これでいいのだろうか?

9月4日(土): 

 

ヤシャ・ホーレンシュタイン(指揮)ロンドン響(BBC)<ハース版>
中古音盤堂奥座敷試聴会課題盤を聴き直し。前回同様、コメントは非掲載とします。
 
ハンス・クナッパーツブッシュ(指揮)ミュンヘン・フィル(Westminster)<シャルク改訂版>
久しぶりに聴き返す。
LP時代に耳タコに聴いた演奏の筈だが、けっこう記憶が裏切られて、驚くことが多かった。もちろん、いい方にだが。
まず驚いたのは、こんなに透明度の高い演奏だったか? ということ。これはリマスタリング(ユニヴァーサル・ビクター)が成功しているからでもあろうが…。
弦合奏など、内声部まで、手に取るようによく聴こえる。また、アダージョで用いられるヴァイオリン・ソロも、くっきりと聴くことができる。
フィナーレ79〜83小節や547〜551小節(ノヴァーク版による。以下同じ)での弦合奏が、実にバランスよく美しい。
チェロ・コントラバスも実に雄大な音で収録されており、第2楽章11小節以降や145小節以降のクレッシェンド、アダージョ冒頭、同109小節以降など、これぞドイツ!といわんばかりの低音が響く。
随所に、あるいは改訂版の指定だろうか、ユニークな表情があり、また、効果的なものが多い。
第1楽章136〜139小節でのヴァイオリンのクレッシェンド、318〜320小節のヴァイオリンのピツィカートの強奏、
また、彼のデクレッシェンドあるいはディミヌエンドの表情の美しいこと! 練習で仕込んだとは思えないので(^^;、棒の振り方ひとつで、やらせてしまうのだろうか?
これは、アダージョ12小節や50小節が、好例。
金管が他を圧して鳴り渡る…ことが少ないのも、記憶が裏切られた点のひとつ。
例えば、フィナーレ冒頭など、弦主体のバランスといっていいくらいだ。
ここでは、16小節のティンパニなど、ほとんど叩き損ねとも思えるような、情けない音。もっと強烈な「ダダンダダン」という記憶だったのだが…。
618小節で第1楽章の主題が回帰するところも、非常にあっさりしている。
ただ、それだけに、最後の2ページ、697小節からトロンボーンがサビを効かせた音色のfffで入ってくるときの衝撃は、凄かった。本当に総毛立った。
記憶どおりだったのは、フィナーレのコーダ冒頭(647小節)、強めに叩かれるティンパニの効果! ここ1箇所だけでも無人島に持っていく値打ちがある!!
また、他の誰よりも「タメ」が大きく、ところによっては猛烈なルフトパウゼが入る(フィナーレ332小節と333小節の間)。
 
カール・シューリヒト(指揮)ウィーン・フィル(EMI)<ノヴァーク版>
これまた、聴き返すのは、とても久しぶり。
これまたこれまた記憶と違って、意外に弦合奏の解像度が低い。渾然一体と響き、アダージョのヴァイオリン・ソロなど、けっこう聴こえなくなってしまっている。
録音がウィーン・ムジークフェライン・ザールで行われたせいで、残響に埋もれたのだろうか?
一方、金管楽器の吹奏は、かなりシャープな音色。LPで聴いていたときも明るい硬質な音だとは思っていたが…。
あるいは、マスタリングの際に、そうした面が強調されたのかもしれない。これだけの名演ゆえ、高規格での丁寧なCD化を望みたい。
第1楽章冒頭、低弦のモチーフは、楽譜のクレッシェンド・デクレッシェンドの指定を無視して、あっさりと素っ気なく奏される。斉諧生的には、その方が、世界の胎動というか、万物の始まりを象徴するように思え、好ましい。
楽器楽器の音色の美しいこと! 1963年12月、ウィーン・フィルは実に素晴らしかった。
第1楽章では51小節以下のヴァイオリン、89小節以下のオーボエとクラリネット等々等々、唖然茫然陶然である。
ブルックナーの譜面にはテヌートの指定(音符の玉の上に短い横棒が引いてある)で、クナッパーツブッシュは「タメ」を作るが、シューリヒトは速めのテンポを維持しながら、軽いアクセントを置いていく。この処理が実にスマートかつ効果的。
スケルツォは、軽やか。武骨なブルックナーの姿は、ない。
トリオのホルン三重奏(37〜43小節)やヴァイオリンのG線の響き(53〜56小節)が、何と美しいことか!
アダージョは、もう語り尽くされた名演だが、ワーグナー・チューバの見事な吹奏を挙げないわけにはいかない。ドイツ系のオーケストラは、けっこう頼りない響きになることが多いのだ(イギリス系オーケストラは、どこもかなり上手い)。
また、淡々と進むようでいて、244〜246小節(シンバルが2回鳴った直後)のfff指定の弦合奏の熾烈さ! あるいは全曲のヤマを、ここに仕掛けたのかもしれない。
楽章終結のホルンとヴァイオリンの、まさしく天国的な美しさは、言うまでもない。
 
やはり、この両盤は、この曲を聴く上で欠かせない名演。ケーゲル盤と合わせてベスト3としたい。その中の順位付けは困難だが。

 電網四方八通路に、ガスパール・カサドを新規掲載。


9月3日(金): 

 

マリス・ヤンソンス(指揮)ウィーン・フィル、ショスタコーヴィッチ;交響曲第5番・室内交響曲op.110a(EMI)
買ってから長い間、棚晒しにしてしまっていたが、明後日にコンサートで5番を聴く予定があるので、おさらいかたがた、かけてみた。
ウィーン・フィルらしく、ホルンの雄々しい吹奏や木管の味濃いソロ等に聴くべきものは多々あるのだが…。
ショスタコーヴィッチの音楽が、どうにも聴こえてこないのである。
斉諧生の謬見かもしれないが、彼の曲には、曲によって程度の差はあっても、必ず、どこか「研ぎ澄まされたもの」があると感じる。
もちろん、いろんなタイプの演奏は有り得るのだが、「それ」が聴こえてこなければショスタコーヴィッチではないと思うのだ。
第1楽章冒頭、6小節で第1ヴァイオリンに出る動機は、"p"指定のところを"pp"まで落としているのだが、ただ弱いだけにしか聴こえない。
第2楽章冒頭の低弦の猛烈なアタックとか、第4楽章7小節での急アッチェランドとか、驚きはするのだが、感動からは程遠かった。
「ウィーン・フィルにはショスタコーヴィッチの音楽への共感がない」とか決めつけることは避けたいと思う。ヤンソンスの演奏意図に、斉諧生のショスタコーヴィッチ観と食い違うところが大きかった、ということではなかろうか。
なお、細部の工夫は色々やっており、特に第2楽章では感心することが多かった。
例えば、37〜40小節で第2ヴァイオリン以下の合いの手をクレッシェンドをつけながら強奏して決めるところ、173〜175小節の第1ヴァイオリンのピツィカートにアクセントを置いて鮮烈な効果を出す部分、240〜241小節のティンパニのスピード感 等々。
室内交響曲も、ウィーン・フィルの弦の美しさには感心したが(とりわけ、第3楽章153小節以降のチェロ独奏の絶美!)、ショスタコーヴィチの音楽としては、上記同様のことを感じた。
 
アルヴィド・ヤンソンス(指揮)レニングラード・フィル、ショスタコーヴィッチ;交響曲第5番(intaglio)
息子殿には悪いが、親父様の名演で口直し。
これは、本当に素晴らしい。オーケストラの鳴りっぷり、溢れる共感、充実した棒捌き、非の打ち所がないとは、このこと。
1971年9月13日ロイヤル・アルバート・ホール…というから、プロムスのライヴ録音ということだろう。BBCのシリーズで、きちんと再発されることを期待したい。

9月1日(水): 

 

ハンス・クナッパーツブッシュ(指揮)バイロイト祝祭管ほか、ワーグナー;楽劇「神々の黄昏」(TESTAMENT)
かねて方々で話題になっているクナの「黄昏」@1951年8月4日@バイロイト祝祭劇場が、昨日から入荷しているとの情報を得たので、捕獲してきた。
ウィーン・フィルとの「ジークフリートの葬送行進曲」(DECCA)には、一時期、毎日1回は聴くくらい、のめり込んだことがある。
劇場の中で、全曲の流れの中で、どんな雄大な表現が聴けるのか、楽しみである。
なるほど(って何がだ)、外箱の写真で真ん中に収まっているのはカラヤン。左端がクナ、ワーグナー兄弟が挟まっている。
しかし、中味のジャケット写真は、たぶんバイロイトのピットでの撮影と思うが、クナの堂々たる面構えが堪能できるポートレート。いいですねぇ、これ。
申し訳ないが、キャスト等の詳細は省略。
少し聴いてみた。音の方は、「最上級のモノラル」とはいかないが、鮮度、歌手とオーケストラのバランス、舞台上の遠近感…素晴らしい。
あの特殊な構造の劇場でのライヴ録音という不利な条件を考えれば、さすがケネス・ウィルキンソン、見事な手腕に舌を巻くほかない。
さて問題は、LPも買う…という誘惑から身を守ることだ。(^^;;;
 
フリッツ・ライナー(指揮)シカゴ響、ベートーヴェン;交響曲第7番ほか(VAI、ビデオテープ)
ライナーの指揮姿が見られる! となると、ついつい買ってしまう。
「コントラバス奏者が双眼鏡持参でリハーサルに臨んだ」という伝説があるが、本当に、そんな小さい振り方だったのだろうか? 眼光の鋭さは?
1954年の白黒映像、どこまでの画質かわからないが…。
ベートーヴェン;序曲「エグモント」ヘンデル;「シバの女王の到着」をフィルアップ。
 
ジョージ・セル(指揮)シカゴ響、ベートーヴェン;交響曲第5番ほか(VAI、ビデオテープ)
セルは1961年12月17日の映像とのこと。この人の指揮振りにも興味津々。
どんな振り方から、あの音楽が生み出されたのだろう?
ムソルグスキー;前奏曲「ホヴァンシチーナ」ベルリオーズ;序曲「ローマの謝肉祭」をフィルアップ。
 
さて問題は、斉諧生宅のビデオが故障中、まだ修理から戻ってきていないということだ…。(^^;;;

平成11年8月28日(土): 「逸匠列伝」にカール・フォン・ガラグリを掲載。

平成11年5月9日(日): 「作曲世家」に近代フランスの作曲家リリー・ブーランジェを追加。

平成10年5月5日(祝): 「作曲世家」に近代スウェーデンの作曲家ステンハンマルを掲載。

平成10年2月8日(日): 「逸匠列伝」にルネ・レイボヴィッツを掲載。

平成9年11月24日(休): 「名匠列伝」に、アンゲルブレシュトを追加。

平成9年9月15日(祝): 「畸匠列伝」に、マルケヴィッチを掲載。

平成9年8月24日(日): 「名匠列伝」にカザルスを追加。

平成9年8月8日(金): 『斉諧生音盤志』を公開。


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