音盤狂日録


5月30日(木): 

 大阪センチュリー交響楽団第77回定期演奏会@ザ・シンフォニー・ホールを聴く。指揮は高関健
 フランソワ・ルルーが独奏者として登場するので、彼の美音を生で聴いてみたいと参じてみた。

今日の曲目は
R・シュトラウス;Ob協
ブルックナー;交響曲第4番
というもの。
 
R・シュトラウス;Ob協は好きな曲。冒頭からルルーの柔かい甘美な音色で夢幻的な雰囲気が漂った。
彼の武器は、ピアニシモの美しさ。本来Obは弱奏が苦手なはずなのだが、まったくハンディを感じさせない。
その弱音を利したディミヌエンドやクレッシェンドを駆使することで、溢れるような歌心がひろがる。
また素晴らしいテクニックで、速く細かいパッセージを微塵も困難さを意識させずに吹き抜き歌い上げてゆく。
 
作曲者は「風景を思い浮かべることなしにベートーヴェンの交響曲を指揮することはできない」と言い放って、クレンペラーに眉を顰めさせたというが、はたしてこの曲に、どのような風景を見ていたのであろうか。
 
展覧会では「見入る」、演奏会には「酔いしれる」というのが新聞テレビの常套句。使いたくない言葉だが、今日のルルーの演奏には聴衆全員が酔いしれた…としか表現しようがないように思う。
気の早い人が最後の音にかぶせて拍手したのは困ったものだが、熱心な拍手が延々と続き、アンコールが2曲演奏された。
 
シルヴェストリーニ;「クロード・モネの絵」(「5つの絵」より)
猛烈な速さで楽器が2本あるかのように吹き抜いていく。
低く弱い音の連なりと、高く強い音の系列。
ぼうっとした色彩と鮮やかな色彩の対比を、音符に置き換えたような感触である。
作曲者のプロフィールを、Webで見つけた。→ここを押して
 
ブリテン;「アレトゥーザ」(「オヴィディウスによる6つの変容」より)
ここでも鮮やかな技巧が冴えわたる。
しかも、あたかもフルートからトランペットまで、幅広い美しい音色が存分に披露され、ますます感嘆。
 
R・シュトラウスでは、弦合奏が、第1Vnから順に8-6-4-4-3という小編成だったが、なぜかいつもの澄んだ音色が影を潜め、ガサガサしていたのは残念。
 
さて、メインのブルックナー;交響曲第4番
 
まず、ハース版使用というのが目を惹く。近年もっぱらノヴァーク版が行われている中、この版は近年入手すら困難になりつつある。
あえて採用に踏み切った考え方は、指揮者のインタビューを参照されたい。
順次CDが出ているベートーヴェン;交響曲全集でも、楽譜の扱いには一家言あるところを見せている高関らしい選択である。
 
しかもセンチュリー響は室内管編成、それで大管弦楽の代名詞のようなブルックナーに挑むというのが興味深い。
弦合奏は、第1Vnから順に11-8-6-6-4という編成。
両Vnが対向配置、Vaが中央上手側、Vcが中央下手側、Cbが舞台中央最後列に並ぶという古典的な配置による。
Hrn5本(いわゆる「1アシ」含む)がVcの後ろ、木管を間に挟んで上手側奥にTrp・Trbが3本ずつとTb1本と、金管を左右に振り分けているのも面白そう。
木管は完全な2管編成。従って、管弦楽は総勢56人という計算になる。
 
第1楽章冒頭、まずHrnのソロがくっきりと鳴る。
いつもなら、「弦合奏の分厚い音の壁の奥、遙かな角笛が木霊する…」といった趣の響きなのだが、もうバランスが全然違う。
Hrn吹奏のちょっとしたニュアンスも、Flなど木管のちょっとした動きも、手に取るようによくわかる。
 
しばらく違和感に戸惑っていたのだが、やがて気がついた。
ブルックナーの楽譜を隅々まで分解し、すべてのパーツを磨き上げ、精巧に組み立てた音楽である、と。
けっして編成が小さいことから自動的にそうなっているのではなく、指揮者の意図が細部まで徹底された結果なのである。
どんな短いフレーズも白日の下に曝され、あらゆる対位法が克明に掘り起こされる。ある種、現代音楽に通底するアプローチなのかもしれない。
 
しかし、単なる重箱の隅つつきではなく、音楽全体の造型がきちんと把握されているところが凄い。
じっくりしたテンポのときも、いわゆる「もたれた」感じは全くなく、引き締まった音楽が続く。
 
要所々々では金管を強奏させるが、もちろん弦合奏とのバランス上、威力的な吹奏にはならない。注意深くコントロールされた音量で、そのために音色が濁らず、音程も美しい。
 
オーケストラのリハーサル日記に、
高関さんが金管の人達に、3楽章で煌びやかな音ではなく、禁欲的な音でと指示されていた
とあるが、この金管の扱いは、曲全体に及んでいたように思われる。
特に、音を吹き流すのではなく、音符の尻尾をきちっと止めて、音価を短めにとっていたあたりに「禁欲」性を感じた。
 
最も素晴らしかったのはHrnパートで、第1楽章最後の斉奏など実に見事、生理的な快感を呼ぶ美しさであった。
もちろんTrp、Trbの両パートも上乗の出来。
 
ブルックナーの緩徐楽章としては薄味といわれる第2楽章だが、弦合奏の和音が、いわゆる「オルガン的」な美しさ。まことに心を打つ楽章となった。
 
なかんずく、クライマックス221小節(手元のノヴァーク第2稿による。以下同様)では、テンポをグンと落として、一挙に音楽を大きくする
実を言うとここまで多少疑問符を保留しながら聴いていたのだが、この会心の扱いに快哉を叫んだ。
 
やはり指揮者のインタビュー
「(高関)ですから全体の枠構造が非常にしっかりしているわけでそれを大切にすればテンポを勝手にあちこちで変えるとかアッチェレランドやリタルダンドを多用してテンポを変化させるなどということはブルックナーの音楽にマッチしないことは明かです。
「(楽員)テンポの変わり目の前でたっぷりリタルダンドしてからテンポを変えたりする習慣に慣れきってしまっている私たちにはそれは新鮮ですが、体で覚えてしまっているパターンから脱却できるかどうか心配でもありますね(笑)
という興味深いやりとりがある。
 
高関の言葉どおり、ブルックナーの音楽にとって最も忌むべき煽るようなアッチェランドは皆無。また、いわゆる「巨匠的」なリタルダンドも注意深く排除されていた。
しかし機械的なインテンポでもなく、要所々々でのテンポの変化は、上記のとおり堂に入ったものであった。
 
第3楽章は、上記リハーサル日記のように禁欲的な音楽。
慌てず騒がず、じっくりと描き尽くす趣。
 
またこの楽章では、HrnとTrpを左右に振り分けて配置した面白さが出た。
両パートの首席奏者の技くらべみたいな趣の呼び交わしが、あちこちにあるのだ。
双方ともよく吹いていたが、Hrnに一日の長があるようだ。
 
第4楽章では一転して開放的な音楽づくりとなり、ブルックナー好きの溜飲を下げた。
例えば、43小節からの主題提示でTimpの最後の1音をくっきり区別して打たせ、ツボを押さえたところを示す
更に、ここぞという部分では金管を轟然と強奏させ(もちろん音色を汚すことなく)、聴く者を忘我の境地に誘う。
 
これはややマニアックなことながら、229小節以下の第1Vnのピツィカートが楽譜どおりのpだったのは残念。
強奏させると非常に効果が上がる部分で、対位法を重視したアプローチゆえ、はっきり聴こえさせてくれるのではないかと期待していたのだが。
 
オーケストラは、前記金管群をはじめ、全体に堅実な出来で、質の高さを示した。
ただ、不満が残ったのはVcとOb。
前者は音に張りが乏しく(あの音で交響曲第7番は演奏してほしくない)、後者はいろいろ考えて吹いているようだが魅力に乏しく(特に首席)、そのままルルーが混じって演奏してくれたら…などと空想してしまった。
 
高関の指揮も、ひところの機械人形振りは影を潜め、堂々たるもの。
もちろん緻密なキューはそのままである。
 
残念だったのは、音楽の流れに「息の短さ」が感じられたこと。
これは弦合奏の人数の少なさと関係があるような気がする。
高関と通常編成のオーケストラでブルックナーを聴いてみたい。
あの緻密さを失うことなく、滔々たる大河が現出されれば、理想のブルックナー演奏となるように思える。
 
以前、中古音盤堂奥座敷で、ブルックナーの名演の条件を4つにまとめてみたことがある。
すなわち、
(1) 合奏体としての音程がよいこと。特に金管の和音に透明感があること
(2) オーケストラの響きを殺さないこと。特に金管やティンパニを抑えないこと
(3) テンポの緩急を心得ていること。緩めるところでは緩め、決して急がないこと
(4) 対位法や装飾句、強弱の指定を大事に演奏すること
 
今日の演奏を振り返ると、(2)が足りなかった(響きを抑えていた)点を除けば、十二分にこれらの条件を満たしていたといえよう。
 
高関健のブルックナーに御注目を!と申し上げたい。
 

 上記コンサートに出かける前に、その高関のCDが届いた。

高関健(指揮)群馬響
ベートーヴェン;交響曲全集(朝日新聞社&群響)
26日の項に、高関と大阪センチュリー響のライヴ録音チクルスの記事を書いていた際、第9番に関するインタビューに目を通した。その中で、指揮者が
95年に群響で交響曲の全曲録音をしましたが、その時はまだベーレンライターの出版が始まっていなかったので、第5番は東ドイツから出ていたペーター・ギュルケ版、第九はイゴール・マルケヴィチ版というように、バラバラにいろんな新しい楽譜を使いました。
と述べている。
マルケヴィッチ校訂版使用とあらば見逃すことはできない!と、直ちに群馬響の公式Webpageへ赴き、オーダーしたもの。
1995年、朝日新聞社の「戦後50年特別企画」、群馬交響楽団の「創立50周年特別企画」として、9月から12月にかけて各5回の演奏会が群馬県内と東京・浜離宮朝日ホールで開催され、全9曲が演奏された。
CDになっているのは浜離宮朝日ホールでALMのスタッフにより録音されたもの。
ブックレットによれば、使用楽譜と収録日は次のとおり。
第1番(アーミン・ラープ校訂、9月23日)
第2番(アーミン・ラープ校訂、10月7日)
第3番(表記なし、9月23日)
第4番(ペーター・ハウシルト校訂、10月21日)
第5番(ペーター・ギュルケ校訂、10月7日)
第6番(ペーター・ハウシルト校訂、10月21日)
第7番(ペーター・ハウシルト校訂、11月11日)
第8番(表記なし、11月11日)
第9番(表記なし、12月23日)
使用版の表記がない3曲について、ブックレットに掲載された指揮者の文章では、マルケヴィッチ版、マックス・ウンガー校訂版、自筆譜ファクシミリ(第9番のみ)をもとに、「自分なりにいくつか修正して演奏した」と書かれている。
なお、群響から来たオーダー確認のメールによれば、「残り僅かとなりました」とのこと。

5月29日(水): 

 

映画『不思議惑星キン・ザ・ザ』(KING、DVD)
知る人ぞ知るカルト映画がDVD化された。
1983年、旧ソ連で製作されたSF映画で、「全体に流れるたるんだような雰囲気」が魅力などと評されている。
この作品、音楽をギヤ・カンチェリが担当しているのがクラシック・ファンには興味深い。
一部は他の作品とコミでOLYMPIAからCDが出ていたが、やはり映画として観たい。
昨年のレイトショー公開を京都でも大阪でも見損なってしまい、後悔していたところ、ようやくDVDが出ることになったので欣喜雀躍。
ところが店頭ではいっこうに見かけないので、HMVにオーダーしたもの。

5月28日(火): 

 

フランチェスコ・ダヴァロス(指揮)フィルハーモニア管
フランク;交響曲&ショーソン;交響曲(ASV)
『クラシックCD名盤バトル』という本が出ている(洋泉社)。
許光俊氏と鈴木淳史氏の共著、もとより半分は眉に唾して読んでいるのだが、中に気になる音盤がいくつか出てきた。
その筆頭がこのCD。
許氏が
意外な発見は何といってもダヴァロスである。(中略)速めのテンポで足取り軽く進んでいく。だが細部は明瞭であり、端正だ。フィルハーモニア管は常になく明るく透明な響きを出し、ニュアンスも豊かである。ひとことで言えば、優雅なのだ。
と素直な讃辞を呈している。
実は、ショーソンが入っているので昔から気になっていたのだが、ダヴァロスといえば、1990年頃だったか、突然、売り出されて(毎月のように新譜が出た)、しばらくすると忘れ去れた指揮者。
大貴族の末裔だか大富豪だかで、「アマチュアが金に飽かせてオーケストラを借り切って録音してみたら、たちまち評判に」という噂まで流れたことがある(『TelePAL』誌1994年10月28日号。もちろんこれは誤り)。
ブルックナーワーグナーの一部を除いて敬遠してきたのだが、ようやく買ってみることにした。
それはそうと、ダヴァロス、その後どうしているのだろう?
 
五嶋みどり(Vn)レナード・スラトキン(指揮)セントルイス響 ほか
ヴィニャフスキ;Vn協第1番 ほか(Sony Classical)
五嶋みどりの録音では、初期のパガニーニ;奇想曲ドヴォルザーク;Vn協の息を呑む鮮やかさとテンションの高さが忘れられない。
デビュー20周年記念ということで、パガニーニやドヴォルザークと同時期に当たる1988年9月のライヴ録音が出てきたので購入。
ロバート・マクドナルドのピアノで、
ドビュッシー;亜麻色の髪の乙女
クライスラー;ラ・ヒターナ
ポルディーニ;踊る人形
などの小品を収録。
エイミー・ビーチ;ロマンス
が入っているのは、近年のフェミニズム・ブームを映して興味深い。
それならいっそ、リリー・ブーランジェを入れてもらいたかったところだが(笑)。
 
ヴォルフガング・シュナイダーハン(Vn)ヴァルター・クリーン(P)
シューベルト;二重奏曲・幻想曲 ほか(DGG)
今月18日に亡くなったシュナイダーハンの追悼だろうか、先月発売された「シュナイダーハンの芸術」シリーズ(アンコール・プレス)が店頭に大きく展示されていた。
ふと、愛惜佳曲書に掲げた幻想曲の録音があったことを思い出して購入。LP時代から知られた盤だが、なんとなく買いそびれていたもの。
標記両曲は1965年12月の録音。
同じ作曲家のロンド ロ短調をフィルアップ。こちらはその翌年の収録である。

5月26日(日): 

 

高関健(指揮)大阪センチュリー響
ベートーヴェン;交響曲第7・8番(LIVE NOTES)
新ベーレンライター版によりライヴ録音で完成されるという、このコンビの全集第4弾。
2002年1月19日、いずみホールでのライヴ収録。コンサートに向けての指揮者のインタビューがWebで公開されている。→ここを押して
残る第9番も、去る5月7日(1824年のこの日に初演されたことにちなむという)に収録された。
全曲チクルス中、この第7・8番が白眉の出来という声もあるそうなので、期待している。

5月25日(土): 

 今月2〜9日のウィーン旅行の日録を維納旅行記にまとめました。
 記事はそのままですが、写真多数を追加しています。


5月22日(水): 

 この間購入したCDの情報をカザルス・ディスコグラフィレイボヴィッツ・ディスコグラフィアンゲルブレシュト・ディスコグラフィに追加。


5月20日(月): 

 

ジャック・ティボー(Vn)ジョルジュ・エネスコ(指揮)放送響 ほか
モーツァルト;Vn協第3・4・5番 ほか(TAHRA)
何といっても、巨匠エネスコと共演した第3・4番(1951年12月13日録音)が貴重。ティボー晩年の放送録音である。
最初に店頭で見かけたときは音質面の不安から見送ったが、『レコード芸術』6月号の「海外盤試聴記」によれば
ティボーの演奏時の息遣いが聞こえるほど鮮明で生々しい音質」(エネスコとのモーツァルト)
というので購入に踏み切った。
聴いてみると、オーケストラは鮮明ながら歪む傾向があり、第4番第1楽章の初めには傷があるなど、ちょっと辛いものがある。
幸いVn独奏は美しい音質を保っており、ティボーの芸風を偲ぶことができる。
Vn協第5番ゲオルク・ルートヴィヒ・ヨッフム(指揮)ハンブルク室内管の付けで、1950年7月11日、シャイヨー宮での収録。
こちらはラジオ程度の音質だが、不快な歪みは感じられない。
また、アルトゥール・ルービンシュタイン(P)とのVnソナタ 変ロ長調 K.378(録音年代不明)が収められており、いくぶん頼りない音だが、SP覆刻としては、まずまず平均的なレベルか。
 
エーリク・エーリクソン(指揮)アクサントゥス室内合唱団
「フィンランド合唱曲集」(naive)
スウェーデンが生んだ「合唱の神様」エーリクソンが、フランスの団体(創設者・指揮者のロレンス・エキルベはエーリクソンに合唱指揮を学んだ)と共演した1枚。
彼がシベリウス;「恋する人」を振っているとなれば買わざるべからず。
この曲は弦楽合奏版を愛惜佳曲書に掲げたが、最初は男声合唱曲として書かれた。ここでは、のちに混声合唱用に編まれた版に拠っている。
そのほか、シベリウスの作品3曲、クーラ(1883〜1918)の作品5曲、ラウタヴァーラ(1928生)の作品3曲、マンテュヤルヴィ(1963生)の作品1曲を収める。

5月18日(土): ドイツの楽譜通販サイトMusiaにオーダーした楽譜の第4陣が到着。ステーンハンマルの作品ばかり、歌曲「ブランセとブランセフロール」Pソナタ 変イ長調Pソナタ ト短調即興曲の4種である。

 jpcから2点到着。

ルノー・カプソン(Vn)トルルス・モルク(Vc)チョン・ミュンフン(指揮)フランス放送フィル
デュティユ;Vn協「夢の木」・Vc協「遥かな遠い国....」 ほか(Virgin)
好きなヴァイオリニスト、カプソン(最近、評価が急上昇しているのは嬉しい限り)と、最も評価するチェリストの一人、モルクが名前を連ねた新譜が出るというので、早くからオーダーしていたもの。もっとも既に店頭にも並んでいるが…。
デュティユのVn協は近年アモイヤルシャルリエ等が録音するなど、これまた注目度上昇中の曲である。
モルクの独奏によるザッハーの名による3つのストロフをフィルアップ。
それにしてもチョン・ミュンフンがVirginレーベルに登場したのには吃驚。
 
ルネ・レイボヴィッツ(指揮)パリ・フィル ほか
ビゼー;歌劇「真珠とり」(PREISER)
また一つ、レイボヴィッツの録音がCD化された。嬉しいことである。
jpcで検索していて発見したが、国内の音盤屋ではいっこうに見かけないのでオーダーしたもの。

5月17日(金): 

 

諸岡範澄(指揮)オーケストラ・シンポシオン
「1770年代のニ長調交響曲集」(ALM)
久しぶりに立ち寄った中古音盤屋で、新譜の時に買いそびれたCDを発見、シメシメと購入。
この古楽器オーケストラは、コンサートマスターに桐山建志、通奏低音のフォルテピアノに武久源造を擁しており、ともに注目の奏者ゆえ聴いておきたかったもの。
ニ長調という、弦楽器が最も鳴りやすい調性に着目した選曲もアイデアであろう。
J.C.バッハ;交響曲
カンナビヒ;交響曲第63番
モーツァルト;交響曲第20・31番
モーツァルトの「パリ」交響曲は、第2楽章に異稿を採用するなど、使用楽譜の面でも意欲的。
なお、オーケストラの公式Webpageは→ここを押して

5月16日(木): 

 

ヨーゼフ・クリップス(指揮)ウィーン・フィル ほか
モーツアルト;レクイエム ほか(ANDANTE)
これまでネット上で販売されていたANDANTEのCDが、本格的に輸入されることになったようだ。
中でも注目はウィーン・フィルと提携したライヴ録音のCD化。
第1弾ミトロプーロス(指揮)によるマーラー;交響曲第9番ほかは、既にオンライン販売で入手したところ。
今回、第2弾のモーツァルト3枚組が店頭に並んでいたので購入。
中でも注目は、先般ウィーン旅行の際に資料本を購入したばかりのクリップス。
全指揮データ集に拠れば、この1973年12月8日にウィーン楽友協会大ホールで行われた演奏会は、オペラを除けば(翌年5〜6月にパリでモーツァルト;コジ・ファン・トゥッテを指揮)、指揮者の生涯最後のものである。
ルチア・ポップ(Sop)やアントン・デルモータ(Ten)ら独唱者の顔ぶれも目を惹く。
コンサート前半には同じ作曲家の交響曲第40番が演奏されたとあり、これも録音は残っているというので、いつの日にか耳にできることを願わずにはいられない。
弦の巨匠ダヴィード・オイストラフを指揮に迎えての
モーツァルト;協奏交響曲K.364&交響曲第41番(1972年5月28日)
も面白い。この人の指揮には独特の味わいがある。
K.364の独奏Vnは息子イーゴリ、Vaは指揮者自身が弾いている。
なお、もう1枚はマウリツィオ・ポリーニ弾き振りの
モーツァルト;P協第12・14・20番(1981年11月15日)

5月14日(火): 

 

ジャン・フルネ(指揮)東京都響
ベルリオーズ;幻想交響曲&ラヴェル;「ダフニスとクロエ」第2組曲(fontec)
フルネの新譜、買わざるべからず。
彼の「幻想」は、昭和62(1987)年に京都で東京都響との実演を聴いた。まさしく「平凡の非凡」と讃えるべき名演であったことは今も記憶に鮮烈である。
昨年秋には群馬響との演奏がCD化されたが、今回のは2001年6月11日、東京文化会館でのライヴ録音。
第3楽章のイングリッシュ・ホルンに、わざわざオランダ放送管所属のミリアム・ハンネカート・ジェークスを招いているとのこと。
「ダフニス〜」は、2000年5月9日に同じ会場でライヴ収録されたもの。
フルネのラヴェル録音は比較的珍しいと思うが、この曲に関しては、前にオランダ放送フィルとのライヴ録音集(Q DISK)に1961年の演奏が含まれていた。
 
デジレ・エミール・アンゲルブレシュト(指揮)フランス国立放送管 ほか
ラヴェル;「ダフニスとクロエ」(全曲)・組曲「マ・メール・ロワ」(TESTAMENT)
待望久しかったアンゲルブレシュトの「デュクレテ・トムソン」レーベル録音の覆刻、リリース情報に接したときから驚喜していたが、ようやく店頭に並び、欣喜雀躍して購入。
「ダフニス〜」(1953年12月録音)は、今回初のCD化。
「マ・メール・ロワ」(1955年2月録音)は、かつてWINGレーベルからシャンゼリゼ劇場管との1950年録音としてCD化されていたものと、おそらく同じ音源。
もっともWING盤はSPからの覆刻であり、音質的にはTESTAMENT盤が優れている。
 
デジレ・エミール・アンゲルブレシュト(指揮)フランス国立放送管 ほか
ベルリオーズ;「ファウストの劫罰」(抜粋)&ビゼー;「カルメン」(抜粋) ほか(TESTAMENT)
アンゲルブレシュト覆刻2枚目。
この1枚は、いずれも存在さえ知らなかった音源ばかりであり(お恥ずかしいことだが)、嬉しい限りである。
収録曲は次のとおり。
ベルリオーズ;序曲「ローマの謝肉祭」・「ファウストの劫罰」(抜粋)(1956年10月)
これのみロンドン・フィル。録音会場はパリ・アポロ劇場となっているが、ライナーノートによれば、9月に旧ソ連に演奏旅行した帰途、パリで演奏会を開いた際に収録されたものという。
同時にグノー;「ファウスト」よりバレエ音楽ラロ;スペイン交響曲が録音されたそうで、それらのCD化も期待したい。
ビゼー;歌劇「カルメン」(抜粋)(1954年12月)
前奏曲第2・3・4幕の間奏曲を収録。
第3幕の間奏曲では、Fl独奏をフェルナン・デュフレーヌが吹いている。
ドリーブ;歌劇「ラクメ」(抜粋)(1954年12月)
MALIBRANレーベルからバレエ音楽が出ているが、そちらはSP覆刻で別録音。収録曲も異なる。
ラヴェル;「海原の小舟」・スペイン狂詩曲(1955年2月)
 
デジレ・エミール・アンゲルブレシュト(指揮)フランス国立放送管 ほか
フォーレ;レクイエム ほか(TESTAMENT)
アンゲルブレシュト覆刻3枚目。
これらは東芝EMIからCD化されたことがあるが、音の状態はTESTAMENT盤が優れている。元になったテープ自体が異なるようだ。
知る人ぞ知る名演であり国内盤LPも出ていたレクイエム(1955年1〜2月)のほか、
劇音楽「シャイロック」
劇音楽「ペレアスとメリザンド」(以上1954年12月&1955年2月)
ラシーヌの雅歌(1955年1〜2月)
をカプリング。
なお、以上3枚に収められた各曲、いずれも録音エンジニアは高名なアンドレ・シャルランである。
 
イダ・ヘンデル(Vn)ジェフリー・パーソンズ(P)
「バロック編曲集」(TESTAMENT)
近年、再評価の機運著しいイダ・ヘンデル、その端緒となったのはTESTAMENTが録音したバッハ;無伴奏Vnソナタとパルティータであったろう。
彼女が1970年代に英EMIに録音した小品が2枚のCDに覆刻された。
こちらはバロック時代の楽曲を近代の編曲で演奏したもので(LP期にはそれが普通だった)、
コレッリ;ラ・フォリア(クライスラー編)
ナルディーニ;Vnソナタ(フレッシュ編)
タルティーニ;悪魔のトリル(クライスラー編)
ヴィターリ;シャコンヌ(ダヴィド編)
を収めている。
録音は1976年。
 
イダ・ヘンデル(Vn)ジェフリー・パーソンズ(P)
「ポピュラー小品集」(TESTAMENT)
こちらは1978年録音で、主にロマン派・近現代の小品を収めたもの。
シューベルト;アヴェ・マリアサラサーテ;「ハバネラ」・「ザパテアード」バルトーク;ルーマニア民俗舞曲など12曲を収録している。

5月13日(月): 9日付けの"新譜買得録"に書いた次のCDについて、ネット上の知人から御教示を頂戴した。

金聖響(指揮)アンサンブル
マルタン;7つの管楽器、Timp、打楽器と弦楽のための協奏曲 ほか(アフィニス文化財団)
9日の項には、こう記した。
JT(日本たばこ)系のアフィニス文化財団が開催している「アフィニス夏の音楽祭」の記録CD。財団のWebpageから「CDプレゼント」に申し込んで頂戴したもの。
(中略)
1998年、朝比奈隆氏が講師で招かれたときのCDにワーグナー;ジークフリート牧歌が収められているのを発見、朝比奈氏の知られざる音盤…と思ったのだが、現物が届いてみると、この曲は指揮者なしで演奏していた(苦笑)。
 
御教示によれば、このとき(1998年8月19日)の演奏会では、確かに朝比奈氏が指揮していたとのこと。
Web上を検索してみると、何件かの感想・記録も見つかった。例えば→ここを押して、→ここを押して
契約上の問題か何かで、あえて指揮者名を伏せたものであろうか。ブックレットに、他の曲では演奏風景の写真が1枚ずつ掲載されているのに、この曲だけ写真がなかったのも、なんらかの事情の介在を思わせる。

5月12日(日): 

 音盤狂昔録平成14年4月分を追加。

 ウィーンで聴いた演奏会のデータを演奏会出没表に追加。


5月10日(金): 

 

サカリ・オラモ(指揮)バーミンガム市響
シベリウス;交響曲第1・3番 ほか(ERATO)
既に第2・4・5番がリリースされたオラモのシベリウス;交響曲全集の第3巻が出たので飛びついて購入。好きな第3番が入っているので嬉しい限り。
交響詩「フィンランディア」をフィルアップ、2002年1月の録音である。
 
イダ・ヘンデル(Vn)パーヴォ・ベリルンド(指揮)ボーンマス響
シベリウス;Vn協 ほか(EMI)
ベリルンド(ベルグルンド)が指揮したシベリウスを見逃すことはできない。LPでは架蔵しているが、CDでも購入。
1975年7月の録音で、元のLPと同じくセレナード第1・2番 op.69ユーモレスク第5番 op.89-3をフィルアップしている。
 
ダニエル・プロッパー(P)
グリーグ;組曲「ホルベアの時代から」 ほか(ogam)
弦楽合奏版を愛聴している「ホルベア〜」は、原曲P版もなるべく架蔵するようにしている。新譜が出ていたので購入。
プロッパーは1969年ストックホルム生れ、生地の音楽院やジュリアードを経て、現在はフランスを中心に活躍中とのこと。
Pソナタ op.7農民の暮らしの情景 op.19ノルウェー民謡による変奏曲形式のバラード op.24をカプリング。
 
フィリップ・ヘレヴェッヘ(指揮)シャンゼリゼ管 ほか
フォーレ;レクイエム&フランク;交響曲(HMF)
ヘレヴェッヘのフォーレ再録音と同時に、ピリオド系アプローチによる初のフランク録音というので注目。両曲とも好きなので、さっそく購入。
フォーレは、前回と違って大編成のオーケストラによる第3稿を用いている。このあたりはジュラシック・ページに詳しい。
なお、フォーレの独唱者はヨハネッテ・ゾマー(Sop)とシュテファン・ゲンツ(Br)。

5月9日(木): 

 旅行中、郵便の配達を止めていたので、その間の荷物が一度に到着。jpcAlapage.comにオーダーしていたものが中心。

ヴラディーミル・フェドセーエフ(指揮)モスクワ放送響
ブラームス;交響曲全集(MUSICA)
フェドセーエフといえばチャイコフスキー、プロコフィエフといったロシア物のスペシャリストというのが通り相場だが、斉諧生の見るところ、先般亡くなったスヴェトラーノフともども、ドイツ音楽にも素晴らしい成果を聴かせてくれる。
その一端はウィーンで聴いたマーラーにもあらわれていたが、ブラームスではCDで聴いたVn協(独奏はヴィクトル・トレチャコフ)が良かったし、先年ウィーン響との来日公演で演奏した第4番も素晴らしかったとのこと。
このレーベルが国内では入手しづらくなっているというので、そろそろオーダーしておかねば…と思い、jpcに発注していたもの。
1992年9月、スロヴァキア・ブラティスラヴァでの録音。CD2枚に収めきっている。
 
クラウディオ・アバド(指揮)ベルリン・フィル
マーラー;交響曲第3番(DGG)
アバドはこれまで熱心には聴いてこなかったが、最近の境地は素晴らしいという噂。
好きな第3番の新録音が出たので、これは聴かねば…と思っていた。
国内盤はフルプライス2枚組で5,000円を超すが、jpcでは17.66ユーロ、2,000円ちょっとの値付け。これだけで送料が浮いてしまうほどの価格差に、シメシメとオーダー。
A独唱はアンナ・ラーションサロネン盤(Sony Classical)でも歌っていた人である。
合唱がロンドン響合唱団バーミンガム市響ユース合唱団というので「?」と思ったのだが、収録が1999年10月、ロンドン・ロイヤル・フェスティヴァル・ホールというので納得。
なお、Vn独奏は安永徹、ポストホルン独奏がハンス・ガンシュと記されている。
 
ピエール・モントゥー(指揮)パリ響・サンフランシスコ響
フランス音楽初期録音集(CASCAVELLE)
モントゥーの新譜が出るというので、Alapage.comに急いでオーダー。
CD3枚組が届いてみると、1930〜50年頃の録音を覆刻したものだった。
煩を厭わず収録曲を列挙すれば、
ベルリオーズ;幻想交響曲(パリ響、1930年)
フランク(オコンネル編);英雄的小品(サンフランシスコ響、1941年)
ダンディ;フランス山人の歌による交響曲(サンフランシスコ響、1941年)
ショーソン;交響曲(サンフランシスコ響、1950年)
シャブリエ;ポーランドの祭り(パリ響、1930年)
イベール;寄港地(サンフランシスコ響、1946年)
ドビュッシー;管弦楽のための「映像」より「ジーグ」・「春のロンド」(サンフランシスコ響、1942年)
ドビュッシー(ラヴェル編);サラバンド(サンフランシスコ響、1946年)
ラヴェル;ラ・ヴァルス(パリ響、1930年)
ラヴェル;「マ・メール・ロワ」より「親指小僧」(パリ響、1930年)
ラヴェル;「ダフニスとクロエ」第1組曲(サンフランシスコ響、1946年)
ラヴェル;高雅で感傷的なワルツ(サンフランシスコ響、1946年)
メシアン;「キリストの昇天」より第1〜3曲(サンフランシスコ響、1949年)
というもの。太字がCD初覆刻になる音源。
既発CDは、パリ響との録音はPearl、サンフランシスコ響とのものがBMG、メシアンはM&A。
WOODMANさんのユビュ王の食卓によれば、同じレーベルから出ているミヨー;作品集にもモントゥーの初覆刻が含まれている模様。これも入手せねば…。
 
金聖響(指揮)アンサンブル
マルタン;7つの管楽器、Timp、打楽器と弦楽のための協奏曲 ほか(アフィニス文化財団)
JT(日本たばこ)系のアフィニス文化財団が開催している「アフィニス夏の音楽祭」の記録CD。財団のWebpageから「CDプレゼント」に申し込んで頂戴したもの。
先にショスタコーヴィッチ;op.110aのCDを頂戴したところ指揮がゲルハルト・ボッセ氏だったので、これに味を占めて、あれこれリストを眺めていた。
1998年、朝比奈隆氏が講師で招かれたときのCDにワーグナー;ジークフリート牧歌が収められているのを発見、朝比奈氏の知られざる音盤…と思ったのだが、現物が届いてみると、この曲は指揮者なしで演奏していた(苦笑)。
その他、コープランド;市民のためのファンファーレバーンスタイン;「キャンディード」序曲マルティヌー;パルティータ等を収録。
 
パブロ・カザルス(指揮)ペルピニャン音楽祭管ほか
「カザルス音楽祭−ペルピニャン 1951 I」(Pearl)
3月に第2巻を大阪の音盤屋で購入した、1951年カザルス音楽祭のCD覆刻盤の第1巻を捜していたが、見かけないのでAlapage.comにオーダーしたもの。
2枚組の収録曲は、
モーツァルト;セレナード第13番「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」
モーツァルト;P協第9番(マイラ・ヘス(P))
モーツァルト;P協第14番(ユージン・イストミン(P))
モーツァルト;P協第22番(ルドルフ・ゼルキン(P))
モーツァルト;P協第27番(ミエチスラフ・ホルショフスキ(P))
このうちヘスとの第9番は初CD化ではないか(他の曲はSony ClassicalからCDが出ている)。
 
ゲルハルト・タシュナー(Vn)ヴィルヘルム・フルトヴェングラー(指揮)ベルリン・フィル ほか
ベートーヴェン;Vn協&フォルトナー;Vn協(MD+G)
このところ陸続と覆刻盤が出されているタシュナー、未架蔵音源がリリースされるというのでjpcにオーダー。
オーダーしたのは早かったのだが、今となっては既に音盤屋の棚にも並び始めている(苦笑)。
フルトヴェングラーとの共演はフォルトナー作品で、1949年12月18日、ベルリン・ティタニア・パラストでのライヴ録音。音の状態は良好。
ベートーヴェンの指揮者はゲオルク・ショルティ(オーケストラは同じ)、1952年3月24日、ベルリン・ダーレムのゲマインデ・ザールでの録音とある。こちらも良好な音質、特に独奏Vnは生き生きとした音で楽しめる。
ベートーヴェンはTAHRAからも出ているそうだが、そちらは未架蔵・未聴、音質の比較は差し控える。
 
ユーヴァル・ヤロン(Vn)
バッハ;無伴奏Vnソナタとパルティータ(全曲)(Accord)
バッハ;無伴奏Vn曲集の未架蔵盤が安価で出ていたのでAlapage.comにオーダーしたもの。
ヤロンについては、先月、リサイタル盤を購入したばかり。シェリングやジンゴールドに学んだ人ゆえ、バッハ演奏には期待が持てるのではないかと考えている。
1989年1月の録音とあり、廉価盤再発売か。前にフルプライス盤を見たような気がしないでもない。
 
イザベル・ファウスト(Vn)フローラン・ボファール(P)
フォーレ;Vnソナタ第1・2番 ほか(HMF)
若手ヴァイオリニストの中でもベスト5か3に入るのではないかと考えているファウストの新譜が出るというのでjpcに急いでオーダーしたもの。
これまでのリリースはバッハハイドンシューマンバルトークなど。初のフランスものである。大いに期待したい。
標記のソナタ2曲のほか、子守歌 op.16ロマンス op.28など小品4曲をフィルアップ。

5月8日(水): 朝のうちに買い残していた土産物を調達し、午前11時過ぎにホテルを出発。
 ウィーン国際空港でチェックイン、午後1時45分発のオーストリア航空OS-55便、エアバスA340型機で関西国際空港へ。
 帰りの飛行機は座席ごとにビデオ・モニターが付いている新しいもの。映画やゲームで時間をつぶし、日本時間で5月9日午前8時に無事着陸。


5月7日(火): ウィーン旅行第6日。
 
 いよいよ明日朝には出発なので、今日が事実上のウィーン最終日。まだまだ見たいところも多いのだが、次の機会を期すことにして、行き先を美術史博物館に絞る。
 

 途中、再度アルカディアに寄り、一昨日から気になっていたCDを購入。

アンヌ・ガスティネル(Vc)ピエール・ローラン・エマール(P)
ラフマニノフ;Vcソナタ&R・シュトラウス;Vcソナタ(VALOIS)
先だってシューマン;Vc協 ほかのCDを買ったガスティネルにラフマニノフの録音があり、しかもピアノが現代音楽の名手エマールというので気になっていたもの。
一部の通販サイトでは買えるようなので5日には見送ったのだが、やはり見たときに買っておかないと、万一入手できない場合に、後悔先に立たなくなるので、購入。
1993年の録音である。

 美術史博物館の収蔵品の量と質は驚異的。カラヴァッジョ、デューラー、クラナッハ、ルーベンス、ベラスケス、フェルメール等々、どの部屋一つとっても、日本へ持ってくればそれだけで大きな展覧会になるのではないか。
 ブリューゲルの「農民の婚宴」「雪中の狩人」、アルチンボルドの「夏」といった、よく教科書とか音盤のジャケット等で見る絵が当たり前のように並んでいる。
 
 斉諧生的には、イタリア・ルネサンスのラファエロティツィアーノあたりの明るい美しさが好みである。
 また、ベルリオーズの歌劇の主人公にもなったイタリア・ルネサンスの風雲児、ベンヴェヌート・チェッリーニの代表作である美麗な塩入れの実物を目にすることができたのは嬉しかった。この作品のことは彼の自叙伝(岩波文庫)にも出てくる。
 
 とても2、3時間くらいでは足りず、更に再訪を期す。
 もちろんミュージアム・ショップを見過ごすことはできず(笑)、親戚の子供用に上記アルチンボルド作品のジグソー・パズルを購入。また当館所蔵の古楽器の音を収録したCDも並んでいたが、これは見送り。
 
 別行動をしていた同行者2人と落ち合うためにシュターツオーパーに向かう途中、スタインウェイ・ウィーン支店の店先を通る。とても中に入ってピアノを触る勇気はなかったが、ウィンドウにオリジナルのCDが飾ってあるのを見つけ、つい入店。
 訊ねてみるとCD-ROMだという。それでもよいと言う家人が購入。
 
 同行者がウィーンでガイドに聞いた情報では、毎日、午後1・2・3時にシュターツオーパーの内部見学ツアーがあるというので、3時前に集合することにしたのだが、どうやら間違いらしく、それらしい様子はなかった。自分たちが見たシュターツオーパーの張り紙では、決められた日に1、2度、不定期に催される様子だったが、やはりそれが正しかったのである。
 シュターツオーパーは外から眺めるだけになった。これまた次の機会までお預け。
 

 次に再度、EMIオーストリアへ。前回は時間が十分になかったので、今日はじっくり見るつもり。

トーマス・クリスティアン(Vn)シュテファン・ブルニエ(指揮)ケルン放送管
ラロ;Vn協第1番 ほか(Sony Classical)
メジャー・レーベルのものだが見たことのないものなので購入。オーストリア・ソニーの国内製作盤であろうか。
ヴァイオリニストは1951年リンツ生れ、ハイフェッツに学んだこともあるという。現在はウィーン市立音楽院やデトモルト音楽院で教職にあるとのこと。
標記のほか、ロマンス・セレナードバレエ幻想曲ノルウェー幻想曲など、ラロの珍しい作品が収録されているのも嬉しい。
2001年8〜9月、ケルン・西ドイツ放送局での収録。
 
トーマス・フューリ(Vn)ジェラルド・ヴィス(P)
クライスラー;Vn作品集(Novalis)
カメラータ・ベルンのリーダー、フューリの独奏盤があったので購入。このアンサンブルは清冽な響きが美しいので、彼の独奏にも期待できるのではないか。
全20曲を収録、「美しきロスマリン」「愛の喜び」「愛の悲しみ」などポピュラーなものから、あまり名前を聞かないものまで幅広い作品を収めている。
2001年7月の録音。

 

 4人揃ってフォルクスオーパーへ。斉諧生にとっては久しぶりのオペラ鑑賞になる。
 1階ロビーにアルカディアが店を出しているが、めぼしいものはない。

今日の演目は、
ブリテン;真夏の夜の夢
というもの。
指揮はハンス・ドレヴァンツ、N響にちょくちょく客演していた人である。
オベロン王ヨッヘン・コヴァルスキーが歌っており、意外なビッグネームに吃驚(失礼)。
なお、ドイツ語による歌唱であった。
 
3階の後ろ寄りの席だが、舞台はちゃんと見える上に、音も非常に近く聴こえ、音響的には問題なし。お買い得の場所といえよう。
もっともオーケストラボックスは、身を乗り出して、やっと舞台に近い席が見える程度。指揮者は全く見えない。
 
夢幻的な雰囲気の短い序曲で幕が開くと、悪戯者パックが妖精の女王タイタニアの侍女たちにからかわれているシーン。
なんだかモーツァルト;魔笛ワーグナー;ラインの黄金のようだが、もちろん音楽は全く異なる。
パックは衣装、身のこなしも道化師のような趣。野田秀樹を連想した。
パック以外の妖精たちの衣装は、三宅一生を思わせる、縦皺の加工がされた生地を用いた、花瓶のようなシルエットのドレス。
 
名前しか知らない曲なので、演奏・演出の良否は云々できないが、ブリテンの才気あふれる音楽に感心し、奇抜すぎず退嬰すぎず、受け入れやすい演出を愉しんだ。
二重の回転舞台で、外側に螺旋状にせり上がっていく通路のようなものを建てて森をあらわし、その隙間が木立のイメージで、妖精や森の住人が出入りする。よく考えられた演出プランに感心した。
内側の舞台には、時にタイタニアの住む繭のようなものが、セリを使って姿を現す。
 
歌手・オーケストラとも破綻はないが、さほど上手くもない感じ。
管弦楽のドイツ風の音色感はブリテン本来のものではないが、不思議なものでドイツ語歌唱にはしっくりしていた。
 
ともあれ、内容の良い公演で少しも飽きることがなく、一同、大いに満足した。
なお、第1幕途中で、少し向こうの席の人が倒れて担ぎ出される騒ぎがあり、驚いた。

5月6日(休): ウィーン旅行第5日。夜中に激しい雨音がしていたが、目覚めてみると快晴である。
 

 ケルントナー通りのEMIオーストリアに行ってみる。3階がかなり広いクラシック売り場になっているが、やはりメジャー・レーベルのものばかりである。日本こそCD天国であることを痛感。

オズヴァルト・カバスタ(指揮)ミュンヘン・フィル
ブルックナー;交響曲第7番(PREISER)
ワゴン・セールにカバスタのブルックナーが格安で入っていたので購入。
終戦の翌年に自殺した指揮者が、1942年9月に楽友協会大ホールで録音した演奏である。
同じワゴンに第4番のCDもあったのだが、東芝EMIの覆刻セットで架蔵済みと思って見送った。
ところが帰宅してみると架蔵済みなのは第7番、これはショック(涙)。
 
ジョルジュ・プレートル(指揮)パリ・オペラ座管 ほか
モーツァルト;管楽協全集(FORLANE)
福島章恭『モーツァルトをCDで究める』(毎日新聞社)の推奨盤で、捜していたのだが、国内の音盤屋や通販サイトで見つからなくなっていたもの。
CD3枚組に、
Fg協(ジャン・クロード・モンタ(Fg))
Fl&Hp協(カトリーヌ・カンタン(Fl)、シルヴィ・ペル(Hp))
Fl協第1番(カトリーヌ・カンタン(Fl))
Ob協(イヴ・ブーセル(Ob))
Hrn協第1〜4番 ほか(フランソワ・キャニョン(Hrn))
Cl協(ミシェル・アリニョン(Cl))
を収録している。
福島氏の推奨はOb協で、
牧童の吹く笛のように、夕映えもゆるアルプスの山々に木霊するかのような純朴さが胸に染みてくる。ああ、もっと聴いていたい。なんとカデンツァが短く思えることだろう。フィナーレの微笑みも忘れ難い。
他の演奏も、すべて高水準とのこと、楽しみである。
 
エルンスト・オッテンザマー(指揮&Cl)ウィーン・モーツァルト管 ほか
モーツァルト;Cl協 ほか(WAR)
モーツァルト時代の衣装扮装で演奏する、いわゆる「コスプレ・オケ」のプロモーション用のごときCD。
とはいえ、独奏はウィーン・フィルの首席奏者、演奏は素晴らしいという評を出発前にWebで見かけており、ぜひ入手したいと思っていたもの。
目出度く見つけたので購入。
カプリングは勿論モーツァルトで
協奏交響曲K.364(ベッティーナ・グラディンガー(Vn)エステル・ハフナー(Va)マヌエル・エルナンデス・シルヴァ(指揮))
1998年、ウィーン・ローナッハ劇場(ホテルのすぐ裏にあった)での録音である。
なお、オーケストラの公式Webpageは→ここを押して
 
ベルンハルト・パウムガルトナー(指揮)カメラータ・アカデミカ・ザルツブルク ほか
「音楽とザルツブルクのための生涯」(Gramola)
好きな指揮者パウムガルトナーの記念盤であり、直ちに購入。
パウムガルトナーのスピーチや、指揮者の埋葬式におけるカラヤンの追悼の辞(1971年7月28日の実況録音)のほか、
標記の演奏者によるモーツァルト;行進曲K.335-1(1957年8月21日録音)や、パウムガルトナーの作曲が収録されている。
後者ではシャーンドル・ヴェーグ(指揮)カメラータ・アカデミカ・ザルツブルクによる声、Ob、弦楽とCemのための協奏曲というものもあり、ヴェーグの記録としても嬉しい。
…と思っていたところ、3日に購入したばかりの、指揮者の回想録附属のCDと同じもので少々落胆。豪華な造りとブックレットだけが儲けもの。

 続いて楽譜出版・販売で高名なドプリンガーを訪ねる。
 特に古書部では膨大なストックに目を見張るものの、一つ一つひっくり返すわけにもゆかず、特段捜している譜面のない身にとっては、宝の山に入って手を空しゅうして帰る心地。
 新本の部でニールセン;Vn協のポケット・スコアを買うのが精々であった。これは前にネット通販でオーダーしたところ、ピアノ伴奏版が送られてきて臍を噛んだもの。
 一方、書籍コーナーでは、家人が "The Mahler Arbum" (The Kaplan Foundation) という、膨大なマーラーの写真集を入手してニコニコしている。
 斉諧生も

Dirk Stöve
"Meine herrliche Kapelle : Otmar Suitner und die Staatskapelle Berlin"(Henchel)
題名どおり、スウィトナーの評伝。
 
J.K.Glauber&W.Mämpel
"Heinz Wallberg"(Econ)
これも題名どおり、ハインツ・ワルベルクの評伝。
多くの写真が掲載されており、少女時代の内田光子とのものも。

を購入。
 
 次の行き先をあれこれ相談し、マーラーの墓参りに決定。
 地下鉄と市電を乗り継いでグリンツィング Grinzing で下車し、知人から拝借した『ウィーンの音楽地図』(ドイツ語版)の地図を見ながらグリンツィング墓地へ向かう。途中、花屋で花束をこしらえてもらうが、英語があまり通じず、要領を得ない。
 
 墓地の入り口を入るが地図などがなく、どこにマーラーの墓があるのか途方に暮れてしまった。掃除人(?)の若者が通りかかったので、"Excuse Me!"と声をかけると、それだけで、"Gustav Mahler?"と聞き返されて吃驚。たぶん、よく尋ねられるのだろう。あるいは日本人ならマーラーという図式なのかもしれない。
 場所を教えてくれるのだが、単語はわかっても場所はわからない。身振り手振り、とうとう彼が走ってきて、その場所に連れてくれる。角を曲がってすぐ次の墓なのだが、こちらは次の筋まで行かねば…と思っていたのだ。
 
 写真で見るよりも木の葉が茂っていて、墓碑に刻まれた"GUSTAV MAHLER"の文字が読みづらい。マーラーの墓に花が供えてあるが、切り花はほとんど見あたらず、鉢植えを地面に埋め込んである。当地では、こういうやり方が一般的らしい。
 買ってきた切り花は、とりあえず墓前に置いたものの、家人はどうにも気に入らない様子。墓地の入口まで戻り、管理室と一緒にある花の売場で切り花容器と鉢植えの花を買い足してきた。
 花を供え直し、さらに家人は墓前の枯れ葉や吸い殻を拾っている。「掃苔録」というとおりで、やはり掃除をしなければ墓参りとはいえない。身内ながら、心がけに感心する。
 
 上記の本によると、アルマ・マーラーマノン・グロピウスの合葬墓も、この墓地にあるというのでウロウロしていると、やはり家人が見つけてくれた。作曲家の墓のすぐ裏の筋、ものの数メートルしか離れていないところである。
 
 グリンツィングの停留所前まで戻り、ぶらぶら歩いて、ベートーヴェンの「ハイリゲンシュタットの遺書の家」の前を通る(月曜日なので休館)。更に「ベートーヴェンの散歩道」を通り抜け、ハイリゲンシュタットから市電に乗ってホテルに戻った。


5月5日(祝): ウィーン旅行第4日。かなり涼しくなっている。
 

 今日は開演が午前11時なので、ゆっくり準備をしてコンツェルトハウスへ。

今日の演奏者は、
ヴラディーミル・フェドセーエフ(指揮)
ウィーン交響楽団
曲目は、
ブラームス;ハイドン変奏曲
マーラー;交響曲第5番
というもの。
 
今日の座席は、1階下手寄り、前から4列目。
チケットの表記は"Parterre Links"の2列目だが、前に"Cercle"という区分で2列あるので、実際には4列目に当たる。
 
プログラムを見ていると、Vcに"Kentaro Yoshii"という日本人名を発見…と思っていたら、その人がトップサイドに座っておられた。
舞台に近すぎて楽員がよく見えないのだが、Cbは6本ではなかったか。それ以外は数えられず。
楽員の間にチラッとHrnが見える。吹き口の近くにクルクル丸まっている管があるので、やはりウィンナか?
 
ハイドン変奏曲は、至極柔らかい感じの音楽。
第4変奏では、弦合奏が特にひそやかに奏された。
金管と弦の縦の線がずれている感じがしたが、これは自席から楽器までの距離が倍ほど違うことからくるタイムラグだろうか?
 
ウィーン響は、もちろん下手ではないのだが、やはりウィーン・フィルとは差を感じる。
特にウィーン・フィルの弦合奏の渋い美しさは、ちょっと特別としか言いようがない。楽器の問題もあるのか。
また、ウィーン・フィルは普段から楽友協会ホールで演奏していることからくる違いもあろう。互いの音を聞き合うこと、和音を作る感覚の錬磨という点では、コンツェルトハウスでは苦しいと思う。
 
コンサートマスターはかなり上手いが、キュッヒル、ホーネックには少しだけ及ばないかも。
また、今日のオーケストラは、第1Vnの後ろの方の奏者が、あまりやる気なさそう。
これは、フェドセーエフが偉いと言っても、そこまで燃え立たせるだけのカリスマがないせいなのか。今期限りで退任することが決まったあとだからか(→ここを押して)。
 
最終変奏は、なかなかいい感じで始まり、盛り上がって終わる。
今日の席だと音のエネルギー十分。ここは京都のホールよりずっと良い。一昨日もこの席だったら…と残念。
 
マーラーでは、舞台上の人数が一気に増加。
Cbが8名に増えたようだ。やはりHrnがチラッと見えたが、ダブル・ホルンである。持ち替えたのか、もともと非ウィンナなのか?
 
第1楽章冒頭、独奏Trpは柔らかい音でしかも高音までバッチリ決まる。感心。
終演後、楽器別に起立したとき、彼に大喚声が浴びせられたが、なるほどの出来栄え。
 
シンバルが一打ちしたあと、最初の総奏が、それはそれは素晴らしい音響の「爆発」で溜飲が下がる。こういう音楽が聴きたかった!
同時に、今日の演奏全体が素晴らしい出来になることを予感。
弦だけになっての葬送主題は、ppの柔らかい音で、これまた素晴らしい。
 
こういう音を引き出せるフェドセーエフがウィーン・フィルを指揮したら、どうなるのだろう? ぜひ聴いてみたいのだが、メジャー・レーベルとの関係もない彼について期待できることではなかろう…(残念)。
 
続く第2楽章も通じて、オーケストラの充実度は非常に高い。
管弦楽の機能性を十分に発揮し、音響に陶酔したようなマーラー。
実は苦手な曲なのだが、まったく長いと感じなかった。
 
最も苦手な第3楽章は、やはり長さが辛い(汗)。
音楽に乗りきれず、コンサートマスターと後席の奏者の間に、わずかな音のずれ(発音のタイミングだけでなく表情についても)があることに気がいったりしてしまう。
 
第4楽章、いつもの美しいレガートのppで始まる。
期待どおりの美しい演奏だが、思いの丈を吐露するような、陶酔の極み、逸脱、耽美の趣は、やはり無し。
楽章のクライマックスも、盛り上がることは盛り上がるが、コントロールの範囲内。
 
第3・4楽章でフェドセーエフは指揮棒を使わなかった。これは前々日の第6番でも同様。
 
第5楽章は、再び第1・2楽章のような、管弦楽の機能性を発揮した痛快なもの。
ともかく大満足の演奏会だった。
 
後で家人とも話し合ったが、フェドセーエフのマーラーは、ある意味、テンシュテットバーンスタインの対極に近いものである。
激情性・エモーショナルなものを排し、構築性・秩序だったものを志向する。
指揮姿を見ている上では、かなり力も入っていたし唸り声も聞こえていたが、フェドセーエフの中にマーラーへの共感はないだろう。
むしろ、「自分ならこういう音楽にする」という強い意志、挑戦の意志があるのではないか。

 今日からザルツブルクで2泊する同行者2人を見送りにウィーン西駅へ行く。ブダペシュト行きの特急「ベラ・バルトーク」号というのを見つけて苦笑。
 
 市街地中心部へ引き返して、モーツァルト旧居・フィガロハウスを訪問する。
 ずいぶん貧相な建物の2階で、内部もガランとしたもの。少々感慨にふける。
 土産物を少し売っており、家人は小冊子を購入。CDはありきたりのもののみ。
 
 このあたりの街路面に、著名な音楽家の肖像と生没地と年月日が入った銘板がはめ込まれている。指揮者ではブルーノ・ワルターエーリヒ・クライバーユーディ・メニューインを見つけた。
 クラウディオ・アバドのものもあり、もちろん生年・生地しか入っていないが、「万一」の折りには作り直すのだろうか?
 

 シュターツオーパーの一郭にあるアルカディアに入る。CDでは、場所柄、PREISERレーベルの歴史的声楽録音のシリーズが大量にある。器楽はごくわずかで、ありきたりのメジャー・レーベルのものが多い。

ミヒャエル・レッシュキー(指揮)ウィーン・ユンゲ・フィル ほか
マーラー;交響曲第4番(UNIQA)
とにかく日本では買えないものを…と思うが、ORFレーベルのウィンナ・ワルツ珍品集くらいしか見あたらない。
ようやくメジャーなシンフォニック・レパートリーを見つけてホッとし、フラフラと買ってしまう。これを京都の音盤屋で見つけても買わないかもしれないが…(苦笑)。
ソプラノは Akiko Nakajima と日本人、独奏Vnは Wang-Yu Ko と(おそらく)韓国人というのが何とも現在的である。
2001年7月のライヴ録音。
なお、オーケストラの公式Webpageは→ここを押して
 
エーリヒ・ラインスドルフ(指揮)南西ドイツ放送響
ワーグナー;管弦楽曲集&シェーンベルク;室内交響曲第1番(haウムラウトnssler)
"faszination musik"シリーズだが、この2枚組は日本に入ってきていただろうか? マルPは2001年だが見た覚えがないので購入。
ワーグナーは、次のようなもの。
『ニーベルングの指環』(管弦楽抜粋)(1984年11月27日〜12月1日)
「ワルキューレの騎行」「ヴォータンの告別」「ジークフリートのラインへの旅」「ジークフリートの葬送行進曲」など9曲(約48分)。
『パルジファル』(管弦楽抜粋)(1989年5月26日)
第1幕前奏曲第1幕終曲第3幕前奏曲聖金曜日の音楽ティトゥレルの葬送行進曲など6曲(約41分)。
レーベルの公式Webpageにも、まだ掲載されていないようだ。
 
また、書籍を1冊購入。
Harrietta Krips
"Josef Krips 53 Jahre am Dirigentenpult"(Harrietta Krips)
一昨日、回想録を買ったヨーゼフ・クリップスの全指揮データ。
コピー(? 片面印刷)を螺旋綴じしただけの造本だが、貴重な記録であろうと購入。
今年が生誕100年に当たることの記念として、クリップス夫人が自費出版したもののようだ。

 家人の提案により、シュターツオーパー裏のザッハー・ホテルのカフェで、本家のザッハー・トルテを食す(笑)。
 
 ホテル近くのハウス・デア・ムジークへ行ってみる。
 まず2階のウィーン・フィル資料館。マーラーの帽子、クナッパーツブッシュ等の指揮棒など貴重なものが収蔵されている。「ブルックナーが持っていた、ワーグナーの写真入りのマッチ箱」なるものもあり。
 
 続いてウィーンゆかりの作曲家コーナーや、音づくり・音遊びのコーナーがある。後者の仕掛けは面白そうだが、説明書きがわからないので、何をどうしたらどう遊べるのかわかりづらく、疲れる。
 
 更に有名なバーチャル指揮者コーナーに。アンネン・ポルカを振るが、テンポが定まらず、ウィーン・フィルに叱られて終わる(苦笑)。
 家人もラデツキー行進曲に挑戦、最初の小太鼓あたりは調子良かったが、やはりブーイングを受けてしまう。
 ひょっとしたら、1小節を幾つで振るか既に設定されており、その設定が曲の進行につれて変化するとおりに、1つ振り、3つ振り等と、振り分けていかないといけなかったのかもしれない。それを我々は、ずっと同じペースで振ろうとするので失敗したのではなかろうか。

 最上階がミュージアム・ショップになっており、かなり広いが、あまり面白いものはなかった。CD1枚のみ購入。

レオポルト・ハーガー(指揮)ウィーン放送響
ワルツ集(ORF&BAYER)
日本では見かけない盤といっても、ありきたりのウィンナ・ワルツ集では買う気になれないが、これは収録曲が多様なので購入。
演奏順に、
ヨハン・シュトラウス(父);ワルツ「チボリ・ルーチュ」
ランナー;シュタイヤー舞曲
ヨハン・シュトラウス2世;ワルツ「ウィーンの森の物語」
ヨーゼフ・シュトラウス;ワルツ「うわごと」
チャイコフスキー;花のワルツ
シベリウス;悲しきワルツ
R・シュトラウス;「薔薇の騎士」より第1ワルツ集
ラヴェル;ラ・ヴァルス
ショスタコーヴィッチ;「ジャズ組曲第2番」より第2ワルツ
を収めている。
1999年、オーストリア放送とバイエル製薬の共同製作らしい。

5月4日(休): ウィーン旅行第3日。
 
 ゆっくりめにホテルを出て、ベルヴェデーレ宮殿へ。
 下宮のバロック美術館はパスして、上宮の19・20世紀美術館に直行。展示されているココシュカ、エゴン・シーレ、クリムトの代表作を鑑賞。
 ロダンによるマーラーの頭部像もあり、マーラー・ファンの家人と記念撮影をしたかったが、ここは撮影禁止とのことで断念(この像の画像がネット上にあったので、こっそりリンクしておく。→ここを押して)。
 ミュージアム・ショップで、土産物を買い込む。クリムトの紋様を活用したハンカチなど。
 
 質の高い展示品が大量にあり、予定以上に時間が経ってしまったので、ホテルへ戻る。

 連れだって楽友協会へ。コンツェルトハウスよりは遠いが、それでも歩いて数分程度。いいホテルを取ってもらったことにあらためて感謝する。

今日の演奏者は、
サイモン・ラトル(指揮)
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
曲目は、
ベートーヴェン;交響曲第2番
ベートーヴェン;交響曲第5番
というもの。ウィーン・フィルは来日公演も聴いたことがなく、初体験となる。
 
日本人の姿が目立つ。きっとフォルカーの部屋あたりでHNを知っている人がいるに違いない(笑)。
 
取ってもらった席は、一番前の列の中央で、目の前に指揮台。
舞台を下から見上げる形で、Cbが4本なのはかろうじてわかったが、あとはよく見えない。もちろん対向配置で、Vcが左手にくるかたち。
指揮者の燕尾服のしっぽを捕まえられそうなくらいの位置だったが、出てきたラトルは中国服のような立て襟の衣装で落胆(笑)。
 
あれこれ舞台上の楽員の写真を撮ったが、フラッシュは遠慮したのでシャッタースピードが遅く、ほとんどブレてしまった。
楽員の個体識別が出来ていないので、管楽器でわかったのはFlのヴォルフガング・シュルツ氏のみ。
Hrnの2人に、顔のわかるラルス・ストランスキー氏は含まれていない。
下手の袖で、2人のコンサートマスター、ライナー・キュッヒル氏とライナー・ホーネック氏が握手をして出てきたと思ったら、キュッヒル氏が内側に着席したので、そういうこともあるのかと驚いた。
 
第2番第1楽章冒頭から気合いの入った響き、ラトルがウィーン・フィルを「本気」にさせているのがよくわかる。
席が席なので、ラトルの足踏み等が振動として体感でき、否応なくこちらの気持ちも高揚した。
 
初めて聴くウィーンフィル、弦合奏の和音がオルガン的でいい感じ。
第1Vnは、ほとんど第1プルトの2人しか音が聞こえないような気もするが、キュッヒル、ホーネック両氏をたっぷり聴けるのだから、実に贅沢なもの。
第2Vnが和音をつけるダブル・ストップの音程など、実によい。
Va・Vcの音色は、少しくすんだような音だが、これまた実に渋いもの。これは楽器の問題かもしれない。
もっとも、ウィーン・フィル独特の音色が楽器にのみ原因しているわけではない。やはり、共通の音程感覚のもと、互いの音を良く聴きあい、ひとつのまとまりとして響きをつくっていることから来るのである。
楽友協会大ホールの美しい響きの中にいると、そのことが実感できた。
 
ラトルは、あまり細かい振り方ではない。振るのを止めてオケに任せる瞬間さえあるほど。
エネルギッシュな進め方で、内声・低弦には特に気を遣い、時に励声一番、叱咤する場面も。
Timpもかなり叩かせている様子だが(弦にマスクされるので、本当のバランスはわからない)、重めの音で、古楽器系オーケストラのように変に甲高く目立つことがないのは好ましい。
 
力感あふれるコーダは、斉諧生の好みにぴったりで、内心喝采。
 
第2楽章冒頭の旋律、弦の流れが美しい。
第2主題でのホーネック氏の歌い回し、まことに懐かしく感涙。
こうした古き佳き維納の風味を殺さないところがラトルの懐の深さであり、ウィーンで受け入れられる所以であろうか。
 
第3楽章は、実にスピーディ。
トリオ経過部など実にダイナミック。
 
第4楽章も力感十分、ラトルも唸りながら吼えながら、弦合奏に鞭を入れる。
本当に素晴らしい音楽で、大いに感激した。
 
休憩時、席を立ったときに譜面台を覗くと、やはりベーレンライター版。
楽友協会ホールの小冊子を売っているのを買い求める。日本語版があった。
 
第5番では、キュッヒル氏がコンサートマスター席に着き、ホーネック氏はトップサイドにまわる。
Hrnの1番奏者席に着いたのはストランスキー氏と見た。
Cbが6本に増強。他の弦も増えたのかどうかは視認できず。
 
第1楽章、力強い運命動機、間髪入れず2回目の提示。
第2主題を導くホルンの吹奏、物凄し。こういうあたりはウィンナ・ホルンの独擅場であろう。
196小節以下、管と弦の掛け合いになるところ、弦の音価をたっぷり取り、ずっしりとしたレガート。このあたりもウィーン流を取り入れている。
再現部に入って、有名なObのアドリブでは、ラトルはほとんど棒を振らず、思い入れ深くパウゼをとって、弦の歌へ引き継ぐ。
 
今の時代にベートーヴェンを熱演する意義を、ラトルはどう感じているのだろう…? ベートーヴェンから遠そうな人、熱演から遠そうな人というイメージが強かっただけに、彼の非常な熱演を見、聴きながら、興味を覚えた。
熱演は楽員たちも同様。キュッヒル氏はじめ、弓の毛を切るVn奏者を散見した。
キュッヒル氏といえば、終始、こめかみに青筋を立てていたのが印象に残っている。目の前だったので、よく見えたのだ。
もっとも、この人のVnは、ややきつい音色で、あまり好みというわけではない。
 
第2楽章では、主題提示でVa・Vcの渋い音色の美しさに感心する。ウィーン・フィルの特徴的な美質ではなかろうか。
87小節以降、ppを追求した、ひそやかな歌になり、キュッヒル氏以下、Vnに一気に緊張が走る。
こうした呼吸を目撃できるのも最前列ならではの楽しみであった。
 
第3楽章ではHrnの咆哮が印象深い。
 
第4楽章に突入して、主題提示のあと、ラトルはすぐ第2Vnに向き直って内声の刻みを鼓舞する。
↑でも書いたが、内声・低弦に気を遣っているのが目立ち、この楽章でも、展開部へ入る部分でVnを抑え、Va・Vcを強調していた。
 
テンポは速いが、カロリー十分で、物足りなさはいっさい残らない。
ラトルの励声というか、唸ったり吼えたりというのは、この楽章でますます激しくなった。
オーケストラも第2番以上に燃え上がり、キュッヒル氏は足踏みを始め、Vn連中は必死で刻んでいる。
突き抜けるピッコロ、咆哮するHrn。ウィーン・フィルも完全燃焼しているのではないか、と感じた。
ベートーヴェンを振って同レベルかそれ以上の音楽をできる指揮者は、他にも存在するに違いないが、海千山千のウィーン・フィルを本気にさせられるところが、ラトルの偉いところだろう。
 
総奏の余韻がホールに響くパウゼを愉しみながら、曲を閉じた。
もちろんブラボーの嵐だが、ラトルは慎ましく喝采をオーケストラに譲る態度を崩さない。
楽員が引き揚げても拍手は止まず、ラトルのみ再登壇する、いわゆる「一般参賀」状態となって、終了。
 
次にこのホールに来るのは何時になるのか、いくばくかの感慨を覚える。

午後3時半の開演だったので、ちょうど夕食に良い頃。食事のあと、リンク通り沿いにゲーテ像や王宮庭園のモーツァルト像を見物して、ホテルに帰る。


5月3日(祝): ウィーン旅行第2日。
 
 昨日、同行者から「ウィーンに来たからにはオペラも観たい」とのリクエストがあり、急遽、出発前日(7日夜)に観劇することに決定。
 チケット入手のため、シュターツオーパー横の国立劇場切符売場へ行く。筋向かいのブロックの中庭側にあり、気を付けていたのだが、やはりわかりづらかった。
 7日のシュターツオーパーはグノー;「ロメオとジュリエット」、この作曲家にそういう作品があるとは知らなかった。それでも立ち見以外は売り切れというので、フォルクスオーパーのブリテン;「真夏の夜の夢」に変更。曲目としてはこちらの方が魅力的である。建物としてのシュターツオーパーは、別途、内部見学ツアーを狙うことにする。
 ところが窓口でうっかり「月曜日の〜」と言ってしまい、6日のチケットが差し出された。「真夏の夜の夢」とも言っていたのだが、錆び付いた発音では通じなかったようだ。
 慌てて変更してもらうが、月曜日は人気演目「こうもり」のため3階席しか空いておらず、けっこう空席があったブリテンでも、そのまま3階席になってしまった。同行者にはチト申し訳なし。
 
 リンク通りを渡って、ヘルベルト・フォン・カラヤン・センターへ。
 売店に置いてあるCDは、カラヤン指揮のもの、メジャーレーベルの新譜、子供向けのもの等、食指の動かぬものばかりだが、書籍を数点購入。

Bernhard Paumgartner
"Erinnerungen"(Gesellshaft für Salzburger Landeskunde)
長くザルツブルク音楽祭を支えたモーツァルテウム音楽院長、パウムガルトナーの回想録。彼の生気溢れるモーツァルト演奏は斉諧生の好むところであり、興味を惹かれて購入。
200頁に満たぬ小冊だが、十数頁の写真と附録のCDは魅力的。
 
Harrietta Krips
"Josef Krips Erinnerungen"(Böhlau)
クリップス夫人による浩瀚な回想録。この指揮者も、モーツァルト演奏をはじめ好きな人なので、購入。600頁近いものだが、さほど高価ではない。
写真多数、CD1枚付き。後者は、指揮者が1973年11月26日に楽友協会ブラームス・ザールで行った講演「ウィーンでのオペラ指揮50年」の録音である。
 
Dieter Härtwig
"Die Dresdner Philharmonie"(Altis)
ドレスデン・フィルの歴史に関する本。
以前、似たような古書を国内で入手したことがあり、同じものかどうか迷いつつ購入。帰ってから調べてみると、はたして同じ著者。
ただし、前のは1985年発行、今回のは1992年発行で、内容も大幅に改訂されているようだ。
ヘルベルト・ケーゲルにも1章が割かれており、図版も充実されている。
 
Bernhard Leitner
"Musikerkarikaturen"(Atlantis Musikbuch)
指揮者・演奏家のカリカチュア集。
クナッパーツブッシュシューリヒトモントゥーなど好きな人が多く取り上げられており、絵柄も面白いので買ってみた。

 家人も土産用に記念品を大量に購入、予期以上の収穫で心弾ませつつ、楽友協会へ。周囲が工事中でわかりづらくなっている。
 チケット売り場で、家人ともども、土産用にマウスパッドなどを購入。←のリンク先には、大ホール内部のものが掲載されているが、それ以外に建物正面のものも販売されていた。
 
 続いてコンツェルトハウスに立ち寄るが、特段の記念品等は販売されていなかった。
 
 旅行前にWebで見つけたアーノルト・シェーンベルク・センターを訪問する。ここがまた入り方のわかりにくいところで、ようやく辿り着いても、入り口のブザーを押してドアを開けてもらわないと入れない。どうやら、資料館というより研究所といった風。
 まず、特別展「シェーンベルクと彼の神」を見学。解説文(英・独)を読むのが骨だが、手稿や浄書譜、写真など、貴重なものを多数見ることができて面白かった。
 メディア・センターと札の下がった部屋で、CD・楽譜・書籍などを展示してある。訊くと販売用とのこと。作曲家の大きな顔写真が入ったTシャツなどという着る気のしないものもあったが、家人はシェーンベルクの画集や絵葉書を買い、斉諧生は国内で見たことのないCDを1枚購入(あとのCDは、メジャー・レーベルやKochあたりの日本でも入手可能なものばかり)。

 

マルティン・ムメルター(Vn)ミリティアディス・カリディス(指揮)ウィーン放送響 ほか
シェーンベルク;Vn協 ほか(Extraplatte)
独奏者は1948年インスブルック生れ、生地とフィラデルフィアで学び、20世紀音楽を得意とし、現在はザルツブルク・モーツァルテウム音楽院ほかで教職にあるという。
オーストリア放送によるライヴ録音で、1979年5月26日、リンツ・ブルックナー・ハウスでの収録。
カプリングも魅力的で、
ベルク;Vn協(ペーター・コイシュニヒ(指揮)インスブルック・チロル響、1985年11月15日)
B.A.ツィンマーマン;Vn協(ペーター・エトヴェシュ(指揮)バイエルン放送響、1989年4月7日)
というもの。
なお、レーベルの公式Webpageは→ここを押して

まだまだ見たかったが、「会議を始めるので」と追い出されてしまった(汗)。
 レジ横のモニターで、シェーンベルクが指揮している映像が流れており、ビデオを売ってもらえないか尋ねたが、非売品とのことで涙をのむ。
 
 ホテルに戻り、筋向かいの市立公園を散策。ヨハン・シュトラウスブルックナーシューベルトの像と記念撮影(笑)。
 

 夕刻、再びコンツェルトハウスへ。ホテルから歩いてすぐのところなので助かる。

今日の演奏者は、
ヴラディーミル・フェドセーエフ(指揮)
マイケル・コリンズ(Cl)
ウィーン交響楽団
曲目は、
モーツァルト;Cl協
マーラー;交響曲第6番
というもの。
1階ロビーでCDを売っており、売り子の若い女性が「今日の曲目よ」と薦めてくるが、ザビーネ・マイヤーのEMI盤やブーレーズのDGG盤。
「今日の指揮者のCDはないか」と訊くが、首を横に振るばかり。
 
なお、プログラムはホール内を歩いている係員から買う方式で、これは楽友協会やフォルクスオーパーでも同様。
 
正面オルガン演奏席の脇に、携帯電話禁止の標識が掲げられており、洋の東西を問わないものと面白く思った。
なお、標識は楽員入場時に片付けられた。
 
客席は、満員といっていい入り。
男性は、一部の例外を除いて、スーツ・ネクタイ姿。女性も軽装の人は少ない。
荷物が増えるのを我慢して、スーツ一式を持ってきて良かったと思う。
席は、2階正面右寄りの最前列をとってもらっていた。
 
モーツァルトは、柔らかい弦の響きで始まった。
第1Vn12人→Cb4人という編成。
Vnは対向配置、Vcを中央左手にCbを舞台中央最後列に配置する。
Hrnは、音色からするとウィンナ・ホルンではないかと思うが、遠すぎて形状は確認できなかった。
 
フェドセーエフの指揮は、基本的にはウィーン風を外さないものだが、ときにピアニッシモを強調し、ときにホルンを強めに出すあたりが、彼らしい。コリンズの吹奏も柔らかいもの。
 
第2楽章の半ば過ぎ、短いカデンツァのあと、大きくテンポを落とし、ひそやかなピアニシモで続ける。
ソリストの解釈か指揮者の音楽かわからないが、良いコラボレーション。
独奏と弦(第1Vn)の掛け合いも美しい。フェドセーエフの手腕、さすがと唸らされる。
 
マーラーでは、一変、筋肉質な響きが際だった。
弦合奏は、第1Vn16人→Cb8人に増加。
第1楽章冒頭、Vc・Cbのイ音が、実に元気よく響く。
一般的には、もっと重々しく、陰々滅々と響くものだが、アタックが鋭く明るい音色なのだ。
あとでスコアを見ると、スタッカート記号が付されている。それを生かした解釈と思われる。
 
全体に、音に余分なふくらみやグリッサンドが無く、耽美・思い入れを排し、音響をストレートに打ち出している。カウベルの音も直接的に響き(舞台裏でも、すぐ近いところにある感じ)、彼岸的な思い入れを喚起するふうではない。
ビシリビシリと決めどころを決めた演奏で、斉諧生的には快感だが、例えばテンシュテットのマーラーを好む家人には衝撃的だったそうだ。
 
スケルツォも早めのテンポで、実に元気(笑)。
トリオの主題には、マーラーの子どもたちが遊ぶさまだという話もあるが、全然それらしくなく、いかつい感じ。
 
第3楽章、弦の主題提示は美しく、レガートに永遠を思わせる感がある。Obによる主題の吹奏も、美しく、歌心が素晴らしい。
もっとも、楽章後半でも音楽は丹念にコントロールされており、むせ返るような陶酔感や激情の噴出といったものには乏しい。
 
第4楽章も、誠に英雄的で、破滅や悲劇とは縁遠い。
ハンマーが打たれても、音楽がまったく変わらない。「英雄が運命に打ち倒される」というより、激励されて元気になるような趣がある。
なお、ハンマーはティンパニ奏者が持ち替え。こういう処置は珍しいのではないか。
 
思うに、既成のマーラー演奏とは一線も二線も画した、フェドセーエフの確信犯的な演奏ではなかったか。
演奏中(楽章間ではない!)に退席する人や、終演後すぐに帰る人が多かったのは、そうした挑戦への拒否反応だったかもしれない。
 
オーケストラは上手いもので、特にTrpは光っていた。
ただ、音が客席の方に来ず、音圧があまり強くない。この点は少々欲求不満。
これは、かなり天井の高いホールであるにもかかわらず、舞台上方の反響板が設置されていないためではないか。
この点、京都コンサートホールと似ており、壁際の打楽器が派手に響く弊も共通している。

5月2日(木): 今日から念願のウィーン音楽旅行。ヨーロッパは6年ぶり2度目だが、オーストリアは初訪問になる。
 実は個人で海外旅行するのは(ガイドなしの外国旅行は)初めてなので、正直申して、期待と不安が交錯している。しかも家人など3人の同行者を引率しており、責任重大。
 帰国は9日の予定、職場にはゴールデンウィーク終了後なお3日間、休ませてもらうことになる。同僚諸氏の御理解・御協力には感謝するほかない。
 
 午前8時50分、関西国際空港でチェックイン。空港内の電器店でオーストリア用の電話変換アダプターを購入。市中のパソコン販売店では入手できず、焦っていたところ、知人から御教示でこの店に電話し、店頭の品を取り置いてもらった。餅は餅屋ということか。
 午前10時50分発のオーストリア航空OS-56便、エアバスA340型機でウィーン国際空港へ。現地時間午後4時5分着。
 4人いるのでホテルまでタクシーを利用した。  
 夕食と市内散策から戻り、客室からインターネット接続を試みる。電話機に日本と同型のモジュラー・ジャックがあり(結局アダプタは不必要)、そこにつないで「9,」+アクセスポイントの電話番号で発信すればよい…とのことだが、なぜか接続が確立する前にタイムアウトしてしまう(汗)。
 翌日以降もアクセスポイントを変えたりして試みたが、最後まで接続できなかった。


5月1日(水): ドイツの楽譜通販サイトMusiaにオーダーした楽譜の第3陣が到着。
 待望のリリー・ブーランジェ;歌曲集「空のひらけたところ」の全曲版である。架蔵盤も十種以上を数えるようになったので、譜面を確認しながら聴き比べをしたいと痛感していたもの。


平成14年5月25日(土):黄金週間中のウィーン旅行の顛末を「維納旅行記」として公開。
平成13年2月3日(土):ドメイン"www.seikaisei.com"を取得しサーバーを移転。「音盤狂日録」の過去ログを「音盤狂昔録」として公開。
平成12年9月10日(日):「提琴列伝」に、ミクローシュ・ペレーニを掲載。
平成12年1月8日(土): バッハ;無伴奏Vc組曲聴き比べを掲載。
平成11年10月24日(日): ラハティ交響楽団シベリウス・チクルス特集を掲載。
平成11年8月28日(土): 「逸匠列伝」にカール・フォン・ガラグリを掲載。
平成11年5月9日(日): 「作曲世家」にリリー・ブーランジェを追加。
平成10年5月5日(祝): 「作曲世家」にステーンハンマルを掲載。
平成10年2月8日(日): 「逸匠列伝」にルネ・レイボヴィッツを掲載。
平成9年11月24日(休): 「名匠列伝」に、アンゲルブレシュトを追加。
平成9年9月15日(祝): 「畸匠列伝」に、マルケヴィッチを掲載。
平成9年8月24日(日): 「名匠列伝」にカザルスを追加。
平成9年8月8日(金): 『斉諧生音盤志』を公開。


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